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楽天の切り札・石井監督 胆力あり、忖度はなし

編集委員 篠山正幸

ドラフト1位の早川隆久投手(前列左から3人目)らとともに船出する楽天・石井新監督(後列左から2人目)=球団提供・共同

2代続けて1年限りでの監督交代となったプロ野球楽天は2021年、チーム編成の任にある石井一久ゼネラルマネジャー(GM)自ら指揮を執る。迷走気味だったチームの切り札、といえる人事かもしれない。勝ち切るチームになるための妙手となるか。

16年から18年途中まで監督を務めた梨田昌孝氏が退陣してからの楽天はめまぐるしく体制が代わった。梨田監督のあとの監督代行から昇格して19年に指揮を執った平石洋介監督、20年の三木肇監督とも1年でお役御免となった。

こうも短期で代わると、監督も味を出せないうちに終わってしまうのでは、と思われる。しかし、結果責任を厳しく問うた、という点で近年まれにみる果断だったともいえる。

敗者復活制度でもあるクライマックスシリーズ(CS)導入以来、2、3位に入れば格好がついて、監督も続投するのが当たり前、という空気になってきた。だからチームを3位に導いた平石監督の交代は衝撃だった。昨年も残り3試合となるまで、Aクラス入りの可能性を残していた。三木監督も、他球団なら及第となっても不思議はなかった。

しかし、理屈や経緯はともかく、最終的に成績を残してこそのプロ、という考え方もある。楽天の姿勢は優勝以外は2位も6位も同じ負け組とされていた、昔のプロ野球の厳しさと明快さを思い出させてくれた。

三木監督は最後までAクラス入りを争ったが、前任の平石監督に続き、1年での退任となった=共同

事の成り行き上、石井監督には優勝という成果しか求められることはない。GM自らの出馬は驚きをもって受け止められたが、それなりの覚悟がうかがえる言葉はすでに、シーズン最終盤に発せられていた。

ドラフトを前にしたスカウト会議を受けての記者会見でのこと。投手2人と野手1人に1位候補を絞った、とするなどのやり取りの最後に、ヤンキースとの契約が切れた田中将大の獲得についての質問が出た。答えはその時期が来たらコメントする、というものだったが、興味深いのは報道陣に向けた一つの要望だった。

この少し前、田中へのアプローチについて「球団関係者」をソースとする報道があったらしい。それに触れて「(記事を書くなら)僕のコメントだけ使用してほしい。僕の考えがチームの考えなので。『関係者』は信用しなくていいです」ときっぱり。

球団社長、球団代表にGM。球団を仕切るポジションの肩書は少なくないが「僕の考え方がチームの考え」と言い切ることができた人はあまり記憶にない。石井氏に寄せる三木谷浩史オーナーら球団首脳の全幅の信頼があってのことだろうし、負託を受けた本人の自負が凝縮された一言だった。

石井監督がどんな監督になるか、想像もつかない。ただ一つ、その胆力は経験豊富な先輩の監督たちにも劣らないだろう、ということはいえる。

浅村栄斗を中心に2020年シーズン、リーグ最高打率をマークした楽天打線。石井新監督の胆力が加味されてどんな化学反応が起きるか=共同

現役時代、どんな大きな舞台にも動じることがなかった。1997年、ヤクルトは野村克也監督のもと、優勝を果たすのだが、追い上げてきた2位横浜(現DeNA)の勢いを止められるか、という天王山があった。

その大一番で、石井監督が無安打無得点を達成したときのこと。終盤の勝負どころで捕手の古田敦也が、肩を回して「楽に」というようなしぐさをしていたので聞いてみると、硬くなっていたのではなかった。

「鈴木(尚典)、(ロバート)ローズを仕留めたあとだったので、気を抜かれると困るから」(古田)。この試合で、しかも大記録がかかったときに気を抜く投手がいるものだろうか。常識では語れない肝っ玉の持ち主であることが改めてわかった。常に泰然としていた姿に、大一番に臨む選手たちを安心させるような将の器をみることが可能かもしれない。

日米通算182勝で現役に区切りをつけたときも、200勝も狙えたのに、との声に対し「そこに価値を置いていない。どっちでもよかった」と話して、報道陣を驚かせている。球界の既成の価値観にとらわれない自由人なのだ。

大谷翔平(エンゼルス)の二刀流が日本ハム・栗山英樹監督らの旧来の枠を超えた発想から生まれたように、石井監督を球団の要として招いた楽天の狙いも「業界人」にない発想の注入ではなかったろうか。チームの顔でもあった嶋基宏(現ヤクルト)は近年故障がちだったとはいえ、石井GM体制の楽天はあっさり手放したようにみえた。だれにでもできる人事だったとは思えない。

忖度(そんたく)とは無縁のスタンスから、どんな采配が繰り出されるだろう。

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