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ノーヒットノーラン続出が示す変化 プロ野球、今季4人

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今季のプロ野球でノーヒットノーランの達成が相次いでいる。これまでの感覚だと1年に1人出るかどうか、数年空くことも珍しくない大記録だったが、シーズン半ばで4人出ているという〝異常事態〟だ。4人のうち、ロッテ・佐々木朗希投手は完全試合だったし、偉業達成こそならなかったが、十回途中まで完全投球を続けた中日・大野雄大投手の例もある。

解説の仕事中、「ノーヒットノーランを継続中」という他球場の途中経過が入ってくることも例年以上に多い印象だ。投手は六回まで無安打ぐらいだと「どうせできないだろう」と思っている。それが七回を終わると「もしかするとできるかも」と意識し始め、クリーンアップと対戦する八回を乗り切ると「やらなきゃもったいない」という気になる。

私は2006年9月、41歳で無安打無得点を達成した。ベテランといえども意識をするとガチガチになってしまうものだが、ラッキーだったのは優勝争いのライバル阪神が相手だったことだ。個人の記録よりもチームの勝利が最優先で、無駄な力みと無縁でいられた。それが功を奏して無四球。出した走者は失策による1人だけだった。

「あれがなければ完全試合だったのに」と言ってもらうこともあるが、それは逆。エラーがなければノーヒットノーランも百パーセントかなわなかったと断言できる。四回に走者が出たことにより、以降の打順の巡りがひとつずれた。1番打者から始まる回がなくなったのは大きかった。

キャリアを通じて、調子だけならもっと良い日はいくらでもあった。運や巡り合わせも味方して完成するのが、無安打無得点なのだ。

佐々木朗希投手の能力であれば好調時ならいつでもチャンスはあるだろうし、山本由伸投手(オリックス)もいつかはやると思っていた。とはいえ、僅か数カ月のうちに4人というのは「たまたま」では片付かないハイペースだ。一体、何が起きているのだろうか。

選手たちに直接聞ければ何かしらのヒントを得られるのかもしれないが、今年もグラウンドに降りての取材はかなわない。明確な答えはみつかっていないのだが、投手のレベルが総じて上がっているのは確かだ。

昔は145キロ出れば立派な「速球派」だったが、最近の投手は当たり前に150キロを超える。さらに変化球の精度も向上した。とりわけフォークボールやチェンジアップなどを操る投手が増え、落ちるボールが全盛をきわめている。

人間の目が横に並んでいる以上、縦の変化は横の変化以上に有効だというのが私の持論だ。5月に達成した東浜巨投手(ソフトバンク)はシンカー、6月の今永昇太投手(DeNA)はチェンジアップといずれも落ちる決め球を持っている。

打者側の意識の変化も影響しているかもしれない。以前はコツコツ当ててゴロを打つスタイルが主流だったが、最近は米大リーグ発の「フライボール革命」の影響もあり、強いスイングで長打になりやすい飛球を狙う。ボテボテのゴロが内野安打になったり、野手の間を抜けたりするケースが減っていることが考えられる。

投手からすると、長打狙いの強振は嫌なものだ。単打なら3本打たれても失点しない可能性があるが、一振りで点が入る一発は一番怖い。長打狙いの打者からは三振を取りやすくなる半面、2死一塁でもピンチの緊張感を覚える。日本の打者もパワーを増していて、長打を狙うという方向性自体は間違っていないと思う。

過渡期のいま、確実性が犠牲になっていることは3割打者の減少からもうかがえる。しかし投手優位の現状がこの先も続くかは分からない。いずれ打者が進化して確実性を向上させ、再び優位に立つことも十分あり得ると考えている。

(野球評論家)

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サウスポーの視点(山本昌)

プロ野球・中日ドラゴンズで投手として活躍した山本昌さんの連載コラムです。自身の選手としての思い出、現役選手やプロ野球界についての想いをつづっています。

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