まさかの大盤振る舞い 球団経営は大丈夫か?

2月1日のプロ野球キャンプインの直前に、ビッグニュースが飛び込んできた。ヤンキースからフリーエージェント(FA)になっていた田中将大が楽天に戻ってくるという。正直これは予想外だった。日本復帰が取り沙汰されても、結局は米大リーグを選ぶだろうと考えていた。
僕としては先発ローテーションを担える力があるのだから、米国で頑張ってほしいという思いもあった。ただ、決まった以上は本人の選択を尊重したい。仙台は大いに盛り上がる。2013年以来の優勝に向け、暴れてくれることを期待しよう。
年俸は9億円プラス出来高(推定)と報じられている。過去の日本球界にない高額契約をしたのは田中だけではない。ポスティングでの大リーグ移籍も視野に入れていた巨人の菅野智之は推定8億円で契約更改した。プロ野球OBとしては日本球界で年俸10億円がみえてきたのは喜ばしいことだ。しかし少々心配にもなる。この時期、こんなに大盤振る舞いをして球団は大丈夫なのだろうか、と。
ご存じの通り、新型コロナウイルスの影響で2020年のプロ野球ペナントレースは当初予定していた143試合が120試合に減った。しかも当初は無観客で行われ、シーズン終了まで大幅な入場制限が続いた。クライマックスシリーズもパは縮小、セは取りやめとなった。各チームともチケットの売り上げは大きく減り、経営状態は苦しいはずだ。
僕は当然、オフの契約更改も厳しいものになるのだろうと思っていた。ところが蓋を開けてビックリ。ビッグネームの大型契約をはじめ、総じて予想以上に給料の上がる選手が多かった。
影を落とす新型コロナ
大リーグでは試合の減少に応じて、選手の年俸も減らされた。しかし日本は試合は減っても年俸は満額支給され、契約更改も〝厳冬〟とはならなかった。つまり、減収分は球団がかぶっているということになる。だが、新型コロナは今季のペナントレースにも影を落とす。この状況が長引けば、遠からず行き詰まる球団が出てきても不思議ではない。

個人的な考えをいうと、今オフの契約更改は全球団一律で試合数の減少分だけベースを下げたところからスタートさせるのがスマートだったと思う。選手側にも痛みを引き受ける、皆で泣くという姿勢が必要だったのではないか。
報道によると、ソフトバンクは今後、昨年のようなリスクに備え、ベースとなる年俸の比率を下げ、出来高払いの比率を上げることも考えているようだ。選手会側は警戒感を示したが、こうしたアイデアも真剣に検討すべき時期にきていると思う。
僕自身のことを振り返っても、複数年契約を結んだのに全く働けないシーズンがあった。それでも立場が保証されるのが複数年の魅力なのだが、何もしていない選手にまで高い給料を支払わなくてはいけないというのは、体力の落ちている球団にとって厳しい。活躍した選手にこれまで以上に報いるというなら、ベースを抑えるというのも、それはそれでフェアだろう。
大リーグと違って試合数が減っても年俸が維持されるのは、日本の野球協約にこうした事態を想定した条項がないからという。不思議なのは、こうした事態が現実になっているのに、改善の機運が乏しいことだ。弁護士などスペシャリストの意見を聞いて見直せばいいのに、どういうわけかそうならない。変えたくない理由があるのかもしれないと勘繰りたくなる。
カネのない人にカネを出せといっても意味がない。球団の経営が立ちゆかなくなっては元も子もない。選手には大好きな野球を続けるための歩み寄りを、球団側には新たな現実を踏まえた制度の点検を望みたい。
(野球評論家)