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「2年目のジンクス」の正体 徹底マークの定説は本当か

野球データアナリスト 岡田友輔

プロ野球のキャンプが間もなく始まる。この時期、最も脚光を浴びるのが若手選手だ。話題の新人、前のシーズンで頭角を現し、さらなる飛躍が期待されるホープ、そろそろ開花してほしい未完の大器……。キャンプは希望に満ちている。

しかし、やがて様相は変わる。張り切りすぎによる故障や1軍の高い壁、開幕に合わせて調子を上げてくるベテランや外国人との競争でもふるいにかけられ、ひとりまたひとりと脱落していく。シーズンを通じて活躍できるのは「期待の若手」の一握りしかいない。

一筋縄ではいかないプロ野球の厳しさを示す言葉に「2年目のジンクス」がある。若手がブレークした翌年に伸び悩んだり、一転して不振に陥ったりする現象を指して使われる。それでは実際、どれぐらいの選手が「ジンクス」に見舞われているのだろうか。

1991~2020年の新人王59人(2000年のパ・リーグは選出者なし)を対象に、翌年の成績を調べてみた。投手43人について投球回数と防御率の推移をみると、受賞の翌年に投球回数が増え、防御率が良化したのは山口鉄也(元巨人)、則本昂大(楽天)ら7人しかいなかった。一方、投球回数が減り、防御率が悪化したのは21人。松坂大輔(元西武など)や上原浩治(元巨人など)のようなビッグネームも含まれている。

野手16人についてOPS(出塁率と長打率の和)の推移をみても、8人が5%以上減少したのに対し、5%以上伸びたのは村上宗隆(ヤクルト)、源田壮亮(西武)、金子誠(元日本ハム)の3人しかいない。新人王になった翌年に苦労する選手が多いのは紛れもない現実といえる。

「2年目のジンクス」はどうして起きるのか。定番の解説は「相手に研究され、対策を立てられるから」というもの。これは間違いではないのだろうが、正しいともいいきれない。というのも統計分析の視点に立つと、「2年目のジンクス」は本来の意味でのジンクス(縁起の悪いもの)でも何でもなく、むしろ「物の道理」だからである。

端的にいうと、デビューしたシーズンの成績だけを手がかりに翌年の数字を予想することに無理がある。サンプルサイズが小さすぎるのだ。4月末時点で4割打っている打者がいても「今年は4割打者が誕生する」と思うファンがいないのは、長丁場のシーズンを経れば数字は落ち着くところに落ち着くと分かっているから。運の要素が大きい打率は、900打数のサンプルサイズがあってやっと、実力を反映する比率が半分を超えるといわれる。ルーキーイヤーの400打数で3割を打った打者が翌年も3割を打てると考えることは、春先の4割打者にシーズン4割を期待するような過ちを犯していることになる。成績予測が盛んな米大リーグでは、直近3年かそれ以上の数字をベースに算出するのが基本だ。

とはいえ、ルーキーイヤーの数字に意味がないわけではない。運の要素が少ない項目は小さなサンプルサイズでも実力を測りやすく、シーズンをまたいでも傾向が変わりにくい。

2005~18年の日本のプロ野球を対象に、年度をまたいだ成績の相関を算出してみた。相関の度合いを示す相関係数(完全に一致していれば1、相関関係がなければ0)をみると三振や四球、長打に関する指標は高く、かなりの一貫性を示している(表を参照)。打者の長打力や選球眼、投手の奪三振能力や制球力は、1シーズンのデータでもそれなりの精度で把握できる。

一方、一般に注目度の高い打率や投手の勝ち星、防御率は運の要素が大きく絡み、年度をまたいだ相関が乏しい。つまり、ルーキーイヤーに高打率を残したり、大勝ちしたりした選手というのは多かれ少なかれ幸運に恵まれたことを意味している。しかし運の要素は試行回数が増えるほど減少し、実力の比率が高まっていく。

1軍レベルの選手の実力にそれほど大きな差があるわけではない。いいかえれば「2年目のジンクス」の多くは、幸運に恵まれた前年からリーグ平均への回帰なのだ。人並み外れた高打率を毎年残したイチロー(元マリナーズなど)や、新人王の後も毎年成績を向上させている村上のような選手は稀有(けう)な「外れ値」と考えた方がいい。だからこそ彼らはスターなのであり、その台頭や移籍はリーグの勢力図を変えるほどのインパクトをもつ。

米国のデイブ・キャメロンというアナリストは数理モデルに基づいた機械的な成績予測と、データマニアのファンたちの集合知による予測の比較分析を試みた。その結果、ファンは数理モデルの数字より2割程度、楽観的な成績予測をする傾向があることが分かった。また、ファンは若手を過大評価し、ベテランを過小評価する傾向もあるという。

野球ファンなら思い当たる節があるのではないだろうか。球春の若手に注がれる熱い視線は、そんなファン心理の象徴でもあるのだろう。

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