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先進的な手法を導入 「見える」プロ野球の経営努力

スポーツコンサルタント 杉原海太

私はオンラインサロンを中心に様々なスポーツビジネス人材育成プログラムを提供しているスポーツビジネスアカデミー(SBA)の理事をしているのだが、コロナ禍の今年は約300人の会員との交流はウェブ上でのセミナー「ウェビナー」が専らで、先日のイヤー・エンド・パーティー、早い話が忘年会もオンラインでの開催となった。

サロンの会員は30代、40代が多く、半数近くは一般企業で働くビジネスマンだ。サロンに集う人たちは単なる試合の勝ち負けだけではなく、スポーツが持ついろいろな可能性に関心を寄せる人たちである。

2020年のプロ野球はソフトバンクが4年連続日本一を達成。父親がお茶の間のテレビを独占し、ナイターの巨人戦を視聴していた子供時代を思うと隔世の感がある=共同

その場で理事の荒木重雄さん(SPOLABo代表取締役)が、今年印象に残ったこととして、プロ野球の福岡ソフトバンクホークスの4年連続日本一を挙げられた。かつて、千葉ロッテマリーンズで経営改革に携われた荒木さんにすれば、2年連続の4連勝でセ・リーグの覇者・巨人を粉砕したホークスの強さに感じ入るところ大だったのだろう。パとセの実力差の広がりにも触れられていた。 

SBAの理事には鈴木友也さん(トランスインサイト代表)と弁護士の山崎卓也さんもいる。山崎さんは2004年にプロ野球界で起きた球団再編問題の際、日本プロ野球選手会の側に立ち、古田敦也選手会長(当時)らと活動された人。4人の理事全員が典型的な昭和世代で、私の場合は夜になると父親がお茶の間のテレビを独占し、巨人戦のナイター中継を視聴しながら(当時はパ・リーグの試合がテレビで流れることは皆無に近かった)、巨人ファンになるよう〝洗脳〟されたものだった。そんな子供時代を思うと、今の状況は本当に隔世の感がある。

経営の在り方を変えた球界再編

転機は、04年の球団再編だったという認識では全員が一致した。この年、オーナー側が考えた12球団から8ないし10球団への削減案は、プロ野球史上初の選手たちのストライキにまで発展して否定され、近鉄とオリックスの合併で一つ減った分は、仙台で楽天が新球団を持つことで落着した。

球界の再編はさらに続き、04年シーズン終了後にはダイエーホークスがソフトバンクに、セ・リーグでも11年シーズン終了後に横浜ベイスターズがDeNAに売却された。テック系の企業が球界に新規参入することで、新たな発想を持った経営人材が球界になだれ込んだ。それに伴って、マネジメントのスタイルも変わり、球団経営の在り方が、親企業から広告宣伝費をもらって赤字を埋めるコストセンターから、親企業の戦略と密につながって有形無形のメリットを追求するプロフィットセンターに変わった。現在のホークスの圧倒的な強さは、そんな経営努力のたまもの――。そんな話に花が咲いたのだった。

パ・リーグの現在の強さは、巨人(戦の放映権料)という頼れるものがない経営への危機感から、地域密着と企業スポーツの両立を推し進めたこととも関係があろう。球界再編が起きた04年に日本ハムは東京から札幌に移転をすませていて、球団名に「北海道」の名を冠するようになった。楽天は「東北」、西武は「埼玉」を名乗り、福岡のソフトバンク、千葉のロッテとともに名は体を表すではないが、地域も企業も両方を大事にする経営モデルを確立した。

テック系の企業にとって、データの収集と分析に基づくビジネスは十八番(おはこ)といえるもの。そうした手法が経営面だけでなく、チーム強化にも生かされ、ビジネス系と現場系の対話にも建設的に使えるようになっている。

その点、気になるのはサッカー界だ。プロ野球関係者と話をすると「サッカーはいいよね。ピラミッド構造の組織がしっかり確立されていて。グラスルーツからの普及や競技の振興がシステマチックに行き渡るようにできている」とうらやましがられる。一言で表すと「ガバナンスがきいているよね」と。

確かにそうなのだろう。が、逆もまた真なりで、護送船団的な縛りが弱い分だけ、プロ野球の球団(特にテック系を親企業に持つ球団)の方が先進的なイノベーションを起こしやすいところがあるように思える。04年以降のオーナーチェンジの余波として、データをベースにしたマーケティングと球団運営の効率化がどんどん進み、それがプロ野球の良さとして、この15年くらいの間に成果として表れているように感じる。

経営と強化の効率化図る横浜M

Jリーグにも、英プレミアリーグのマンチェスター・シティーを核とするシティー・フットボール・グループ(CFG)と提携し、経営と強化の効率化を図る横浜F・マリノスのようなクラブはあるが、そういう動きがリーグ全体に行き渡っている印象は薄いように思う。

横浜Mのような経営と強化の効率化を図る動きがJリーグ全体に行き渡っている印象は薄い=共同

ソフトバンクホークスの孫正義オーナーは「世界一の球団をつくる」と常々語っている。欧州サッカーのビッグクラブもオーナーシップが際立つ。あちらのオーナーは米国や中国の投資家、中東の政府系投資ファンドだったりするが、かつてイタリアではやったようなパトロン的オーナーではない。2000年代初頭の「マネーボール」に象徴されるような、データ活用も含めた先進的なチームマネジメントの手法は米国のメジャースポーツが源流だと思われるが、新規参入したオーナーが積極的にそのような手法を取り入れていく事で欧州サッカーでも定着した。オーナーチェンジを契機として、「経営努力」の一環として先進的な手法が導入されたという経緯に関して、日本のプロ野球球団と欧州サッカーのビッグクラブには共通点が感じられるし、それがほぼ同時期に世界の中の全く異なる場所で起こったというのもグローバル時代の現象として興味深い。

1993年に立ち上げたころのJリーグは米国流のスポーツビジネスを大いに参考にしたと聞く。ビジネス的には米国流を取り入れ、クラブ運営の思想の根幹は欧州のサッカーを範とし、その雑食性が「いいとこどり」として機能したと。そのころ、マスメディアに「それに比べて経営努力が足りない」「親会社におんぶに抱っこ」とたたかれていたのはプロ野球だった。今はその「経営努力」がプロ野球の方がよく見える。そんなふうに感じるのは私だけだろうか。

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