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「1番・ピッチャー、大谷」の伏線 導かれた力の解放

スポーツライター 丹羽政善

3月21日、パドレスとのオープン戦で球場の電光掲示板に映し出されたエンゼルス・大谷。「1番・投手」で出場した=共同

大谷翔平(エンゼルス)が登板予定だった3月21日、チーム広報から事前に送られてきたラインアップには、投手のところに大谷の名前がなかった。下から上へたどっていくと、1番のところに大谷の名。きょうは打者での出場に変更されたのかと思いきや、ポジションの欄に「1」と記されていた。

「1番・ピッチャー、大谷」は、予告もなくそうして現実となったのである。

ウオームアップもそこそこに…

敵地での「1番・ピッチャー」は、慌ただしかった。「ホームならそのままつくった状態で(マウンドへ)いけるので、より自然に入れるのかなとも思いますけど、特にやりづらいなと思うことはない」と話した大谷だが、スケジュールは分刻み。12時50分すぎにブルペンでウオーミングアップを初めたものの、国歌斉唱で中断。その後、改めてギアを上げ、ダッグアウトに引きあげてきたのが13時05分。3分後にはバットを持ち、ヘルメットを被りながらネクストバッターズサークルへ向かい、その2分後には初球を見送った。

その裏もバタバタ。大谷は、2018年にサイ・ヤング賞に輝いたブレイク・スネルの2球目――95マイル(約153キロ)の真っすぐ高めをセンター前にはじき返して出塁。二塁でフォースアウトとなってその回が終了したが、一度ダッグアウトに戻り、まるで野手のように汚れたユニホームで姿を見せたのは、しばらくたってから。イニング間の投球練習は2分と規定されているが、出てきた時点で残り1分を切っており、ウオーミングアップもそこそこに最初の打者を迎えている。その先頭打者にいきなり三塁打を打たれ、そこから先制を許したことは次からの課題か。

パドレス戦の1回、スネルから中前打を放つ大谷=共同

さて、そうして1916年以降では、2例しかない「1番・投手」での起用は幕を開けたわけだが、伏線はあった。

オープン戦初登板となった3月5日の試合前、ジョー・マドン監督は今季の大谷の起用方について、「自由にやらせようと思う。彼の裁量に委ねたい」と基本方針を口にした。これまで、先発は週1回(中6日)。登板の前後は休み。他の日は指名打者で出場という起用が定着していたが、そんな"大谷ルール"を撤廃しようというのだ。

「そもそも故障を防ぐためにルールを設けても、なかなか思惑通りにいくわけではない」

それは大谷の過去3年に限らず、故障明けの投手にイニング制限などを課しても、経験上、それが必ずしも正解とは限らない、との思いがあったよう。なにより大谷の場合、周りがリスクを恐れ、 その萎縮が大谷にも伝染してしまっていたのではないか――彼の目にはそうも映った。

パドレス戦の1回を投げ終え、マドン監督(左)とタッチを交わすエンゼルス・大谷(ピオリア)=共同

固定概念を壊す――。その象徴が、監督の打ち出した中5日案。「特別扱いはしない。6人の先発の1人としてローテーション通り中5日で投げてもらう」。メッセージとしてはインパクトがあった。

ところが、である。3月5日の次の登板は13日。中7日だった。その次が21日。再び中7日である。ただ、オープン戦では必ずしも、中4日、中5日という通常の登板間隔で先発を回すわけではない。イニング数や球数を徐々に増やしていくように、仕上がりに応じて登板間隔を変えることはある。よって、マドン監督の言葉との齟齬(そご)を指摘する声はなかったが、17日のマリナーズ戦に打者として出場したことは、違和感を生んだ。

15日と16日のホームゲームに出場した大谷は当初、17日の試合を欠場し、18日は再び打者としてスタメン出場。19、20日と休んで、21日に先発というのがそれまでの流れだった。17日にプレーしたことで、18日の試合を休んだのは想定内。19日に出場し、20日に休んで21日の先発に備える――というパターンが今度は読めたが、19日も欠場すると、さすがに多くの人が首をひねった。

周到に準備された21日のシナリオ

キャンプも中盤を過ぎ、疲れが出たのか。あるいは疲れが出る前に意図的に休みを挟んだか。理由を問われたマドン監督は「大谷の申し出だ」と答え、多くを語らなかったが、常々「体調管理は大谷に任せる」と話しており、その説明に矛盾はなかった。

しかし実際は、21日の「1番・ピッチャー、大谷」に向け、裏で周到な準備が進められていたのである。マドン監督は21日、「数週間前から準備をしていた」と明かしたが、オープン戦が始まった段階でそこまでのシナリオが逆算して組まれたのだ。

マドン監督の実験的な起用法が、大谷の潜在力を引き出す?=USA TODAY

結局、中5日はスローガンのようなもので、こっちが大谷のポテンシャルを最大限に引き出すために考え抜かれた案だったか。大谷を解放するには、型にはめず、発想の転換が必要と考えたマドン監督は、そこへ行き着いた。

もちろん、疲労面などで懸念はあり、「シーズン中はどうするか決めていない。実験的な部分はある」と指揮官は認めるも、アリゾナキャンプでは自由に調整させた結果、打つ方では、28打数16安打、5本塁打、8打点、11得点で、打率.571。投げる方では3試合に先発し、防御率は7.88ながら、計8イニングに投げて14三振を奪っている。真っすぐの球速は、メジャーに来てから最速の101.9㍄(約164㌔)をマークし、去年とは見違えるほど変化を遂げた。

決めつけをなくし、あえてやったことのない課題を与え、眠っていた才能を引き出す。

「大谷を自由に飛ばせてみたい」というマドン監督は、なかなか大胆である。

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