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大谷、二刀流は異次元へ 投打で新たな取り組み

スポーツライター 丹羽政善

打撃練習する大谷。「低い打球を打ちたいなと思っている」と話す=共同

1968年に初版が発売された「ザ・サイエンス・オブ・ヒッティング(打撃の科学)」という本がある。

大リーグで最後の4割打者であるテッド・ウィリアムズが打撃の極意を記したもので、その中では、投手の投げる球の軌道にバットスイングの軌道を合わせることでインパクトゾーンが大きくなると解説されている。上から投げ下ろされる球に対し、バットをやや下から入れることで、双方の軌道が一致し、多少タイミングがずれてもバットに当たりやすくなる、というロジックだ。

一方、バットを水平に入れる場合、インパクトゾーンが小さくなり、コンタクトの難度が増すとのこと。少々乱暴にかみ砕けば、前から軽くトスをしてもらったボールを打つことと、2階から落としてもらったボールを打つことではどちらが難しいのか、ということか。

そんな古い本のことを先日、大谷翔平(エンゼルス)の話を聞いていて思い出した。2月23日にリモート記者会見が行われたとき、大谷にバットの入射角(インパクトゾーンに入るバットの軌道と水平との角度)、米国ではアタックアングルと呼ばれる角度の解釈について聞くと「基本的には、低い打球を打ちたいなと思っている」と説明した。

「やっぱり、その方が当たる面積も大きい」

そのとき、本に載っているインパクトゾーンのイラストが頭をよぎり、「インパクトゾーンが大きくなるということか?」と質問を続けると、大谷はこう補足した。「下をたたける位置を長くバットが通っていれば、いい打球を広角に打てる」

実戦形式の練習の合間に笑顔を見せる大谷=共同

ウィリアムズの本では、投球の角度とスイングの角度を完全に一致させ、例えば、バットを刀に見立てるなら、ボールを半分に両断するイメージ。大谷の場合も、角度は同じだが、ボールの下3分の1、あるいは4分の1を切り裂くイメージか。空振りするリスクが高まるが、打球に角度をつけやすくなる。

あえて、下にずらす――。それができれば、タイミングが早い場合は角度のついた打球はライトへ飛び、遅れても左方向へ、やはり打球が上がる。下をたたける位置に、バットを長く通すことで、タイミングのズレもカバーできる。

ところで、それは大谷の感覚的なものではあるが、2020年から大リーグの全球場に設置されたホークアイという、ハイフレームレートカメラで撮影された映像をもとにボールや選手の動きを追うシステムによって、今後はその関係性が可視化できる。

投手の投げた球がどんな角度でホームプレート上を通過するのか。スイングの入射角も計測可能で、横からのカメラによってどんな角度でバットがボールに当たっているのか、どこで当たったのか、どんな角度で打球が飛んだのかも、確認可能。大谷がスイング軌道のズレを感じれば、それを数値と映像で検証できる。

ちなみに理想的な入射角については、17年に米ボストンで行われた「セイバーセミナー」のプレゼンテーションで物理学者のアラン・ネイサン・イリノイ大名誉教授がクリス・ブライアント(カブス)のデータをもとに、20度前後で打球初速が一番速くなるというデータを紹介している。そうした相関関係も今後、データとして公開される見込みで、ウィリアムズの理論や大谷が口にしたこととの関連も興味深い。

投球ではボールの回転数や回転効率も意識する=共同

そうした一方で、投手としての取り組みも、新たな領域へ踏み出した感がある。昨年11月、大谷のフォーシームの質向上の鍵は、回転効率のアップだ、という話を書いた(大谷のフォーシーム 質向上の鍵は回転効率アップ)。キャンプインした時に大谷も「持ち味はストレートだと思うので、一番はそこが基準になってくる」と話し、続けている。「そこがしっかり投げられれば、おのずと他の球種も投げられるのかなとも思うので、一番はやはりそこ」

大谷は2月24日にライブBPと呼ばれる、打者に投げる実戦形式の練習に登板したが、終わってからリモート会見に応じた際、「ストレートの回転効率を改善する必要があると思うが」と聞くと、それを否定しなかった。「スピンレート(回転数)とか、回転効率を上げたい」。大谷がこういうデータの話をしたのは初めてだ。

もっともスピンレートについては、「こすりながら投げるのが一番手っ取り早いとは思うんですけれど、それだと球速が出にくい。僕には向いてないなって思うところもある」と話しており、積極的にはこだわらないよう。

それでも問題はない。回転数は指紋のようなものという捉えかたもあり、上げられないことはないが、大谷がいうようにどこかで無理が生じかねない。そもそも、回転をいかに効率的にボールに伝えているかを示す回転効率が上がれば、無理に回転数を上げる必要もない。また、回転効率を上げた方が、回転数を上げるよりも軌道に影響するので、プラス面が大きい。

実際の回転効率がどうなったかはシーズンに入らなければデータが出ないので、現時点ではどう改善されたか分からないものの、効率が上がれば、これまで速くてもコンタクトされることが多く、質としては平凡だったそのフォーシームで空振りを取れるようになるはず。

また大谷は、チェンジアップを球種に加えたことを明かし、「しっかりと逃げるように変化できるかどうか」とその狙いを説明した。これまで左打者にはフォーシーム、カーブ、スプリットの3球種で攻めていたので、外角低めに逃げていくチェンジアップをミックスできれば、投球の幅が広がるのではないか。

その点については、実戦で投げてから改めて本人の手応えや、効果を検証していきたいが、大谷の投打での方向性をなぞる限り、まだオープン戦が始まったばかりではあるものの、二刀流としての現在地は、昨年と比べて次元が異なるのかもしれない。

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