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なぜアサヒビールがアジア初スポンサー? ラグビーW杯

ラグビーの世界最高峰の舞台で日本のビールが販売されることになった。ワールドカップ(W杯)の最高位スポンサー「ワールドワイド・パートナー(WWP)」として、アサヒビールが契約。欧州系の企業が大半を占めてきたWWPにアジアの企業が入るのは初めてだ。ラグビーと深い縁を持つビールでの参入だから、インパクトは大きい。

最高位スポンサーは6社だけ

「10回目のW杯でアジア初のWWPとなれたことをうれしく思う。スーパードライのプレゼンスを上げる上で大きな価値がある」。27日、塩沢賢一社長はオンラインの記者会見で喜んだ。主力の「アサヒスーパードライ」は大会の公式ビールとなる。

WWPは6社限定で、2007年のW杯から導入された。長期契約が多いため、新顔が割って入るのは容易ではない。19年日本大会の6社も15年大会と同じ顔ぶれだった。23年のフランス大会は各社の主要市場、欧州での開催である。新規参入はなおさら難しいとみられていた。

アルコール飲料のカテゴリーは、オランダのビール大手ハイネケンが07年大会から19年大会まで契約を続けていた。アサヒビールがその牙城を崩すことになった一因は、開催国の事情にあるようだ。

フランスではスポーツ会場でのアルコールの提供や広告が禁止されている。そのため、ハイネケンが冠スポンサーのラグビーの欧州選手権も一時は「Hカップ」と呼ばれていた。

スポーツのスポンサー契約に詳しい関係者が明かす。「W杯の試合会場でどれだけビールを売れるのか懸念を抱いたハイネケンと、国際統括団体ワールドラグビー側の交渉が難航した」。ライバルが尻込みしている間にアサヒビールが交渉を進めたことになる。

19年日本大会で爆発的に売れたスーパードライ

一方、フランスではアルコールの規制緩和も議論されている。同社の広報担当は「法律のことは承知している。詳細は答えられないが、試合会場でビールを提供できる契約になっている」と勝算を語る。

WWPの各企業は1大会で15億~20億円を支払うとみられる。関係者によると、アサヒビールの協賛金も推定約20億円。それだけの価値がある大会と判断したことになる。

ラグビーファンのビール愛を体感したことが契約のきっかけだったと、塩沢社長は説明する。19年日本大会の会場で提供されたのはハイネケンだが、「スタジアムのそばのコンビニでは驚くべき数量のスーパードライが販売された。『これはすごい。チャンスがあれば(スポンサーに)挑戦したい』という声が社内でわき上がった」

ラグビーでは試合後、両チームの選手がビール片手に健闘をたたえ合う「アフター・マッチ・ファンクション」という懇親会がある。試合のfirst half(前半)、second half(後半)に続く「third(3番目の) half」と呼ばれるほど、競技に欠かせない文化となっている。ラグビーファンはサッカーファンの6倍のビールを飲むという調査もあり、販売する側にとってメリットは大きい。

ラグビーの地域特性が、積極的に海外展開する同社の戦略にも合うと塩沢社長は強調する。「欧州、オセアニア、日本で商売している者にとってラグビーは大変魅力のあるスポーツ」。両地域は世界でも特に競技熱が高い場所である。

同社の「参入」は日本のラグビー界にとっても追い風になる。収入のかなりの部分を米国のテレビ局に依存する国際オリンピック委員会(IOC)が典型的だが、スポーツの国際統括団体(IF)は巨額の資金を出すスポンサーや放送局の顔色をうかがう。自国の企業がIFのスポンサーになっている国は、国際大会の招致など様々な面で恩恵を被る。

FIFAスポンサーからは日本企業は相次いで撤退

競技によって日本企業の存在感はまちまち。ワールドアスレチックス(世界陸連)は最高位スポンサー4社のうち、アシックスなど日本勢が3社を占める。逆にこの15年間で日本企業の撤退が相次ぎ、ゼロとなった国際サッカー連盟(FIFA)の例もある。

その意味で、今回は契約のタイミングも大きかった。記者会見に同席した元日本代表の五郎丸歩さんが話していた。「19年は自国開催だった。フランス大会で少し寂しくなるところでサポートしてもらえることになり、日本代表も心強いんじゃないか」

19年大会では日本の8社が国内限定のスポンサーになっていたが、23年大会まで契約を更新した企業はない。まさに寂しくなりそうなところで、最高位のカテゴリーに日本勢が座ることになった。ワールドラグビーのアラン・ギルピン最高経営責任者(CEO)も「日本やアジアの企業のW杯への関心が高まった」と歓迎のコメントを出している。

五郎丸さんは「多くの日本の企業にラグビー界を支えてほしい」とも語った。日本ラグビー協会は39年までのW杯再招致を目指している。アサヒビールの契約はひとまず23年までだが、こうした例が続けば、日本の次の「夢」は大きく膨らむ。(スポーツビジネスエディター 谷口誠)

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