/

FA選手はリスクが高い? 野手・投手とも成績低下

野球データアナリスト 岡田友輔

今年のプロ野球ストーブリーグはフリーエージェント(FA)権を有する選手の動向が耳目を集めた。まだ決着していない選手もいるが、最も注目された山田哲人(ヤクルト)、大野雄大(中日)はFA宣言をせずに残留を決めた。小川泰弘(ヤクルト)、増田達至(西武)は宣言をしたうえで残留する道を選んだ。

 DeNAから巨人に移籍した井納翔一(左)と梶谷隆幸。期待に応えることができるか=共同

梶谷隆幸は井納翔一とともに、DeNAから巨人への移籍を決めた。今季は109試合に出場し、打率3割2分3厘、19本塁打をマーク。4年総額で推定8億円の契約を勝ち取った。外野のレギュラーがそろっていない巨人で今季並みの活躍ができれば大きな戦力になるだろう。

だが、不安材料がないわけではない。梶谷はキャリアを通じてたびたび故障に泣かされてきた。18、19年はいずれも出場41試合。今年が出来すぎだった可能性もある。

鳴り物入りでFA移籍しながら、期待に応えられなかった選手は数知れない。FAの前後で成績に一定の傾向はあるのだろうか。制度が始まった1993年以降、FA宣言した選手の成績を調べてみた。

FA宣言後に成績落ちる傾向

まずは野手。同じ選手が複数回権利を行使したケースも含め、宣言をして翌年も日本でプレーしたのはのべ111回に上る。移籍か残留かを問わず、FA宣言をしたシーズンを挟む前後3年の成績を調べてみると、最初の2年の平均出場試合数はいずれも104、平均打席数は381と変わらない。ところが権利を行使した翌年は試合数が94.9、打席数が341と減っている。

リーグ平均と比べてどれだけの得点価値を生み出したかを示す「wRAA」をみても、FA宣言までの2年はプラス4点台中盤だが、宣言翌年は平均比マイナス0.2に落ちている。111回のうち、宣言翌年に前年の実績を上回ったのは打席数が38回、wRAAが29回にとどまっている。

投手も同じような傾向である。62回の平均をみると、最初の2年に比べ、登板試合数、イニング数とも宣言翌年に大きく落ちる。前年実績以上のイニング数を投げられたのは19回のみ。投球内容の目安となる奪三振率から与四球率を引いた値が改善したのも19回だけだった。なお、野手、投手とも移籍組、残留組の間に傾向の差は認められない。

FA宣言後に成績が落ちやすい理由は幾つか考えられる。まずは年齢。日本では権利を取得するまでに最低でも7年かかり、宣言時にはほとんどの選手が30歳前後になっている。しかし統計に基づくと、多くの野球選手は20代にピークを迎える。FA翌年には旬から遠ざかってしまうのだ。複数年や大型契約を結び、気持ちが緩む選手もいるだろう。

FAの権利を持っていても、行使するには宣言が必要というハードルも影響していると考えられる。売り時を自分で決めるとなると、宣言に踏み切るのは直近のシーズンに活躍した選手に限られてくる。実際、今季は97人の有資格者に対し、宣言したのは7人だけ。権利を行使するのが「上出来」のシーズンを送った選手ばかりであれば、翌年の成績が落ちても不思議ではない。

大リーグはFAになる契約最終年に成績が目に見えて上がる傾向がある(ヤンキースからFAになっている田中将大)=共同

6シーズン働けば自動的にFAになる米大リーグではどうか。こうなると、自らの市場価値に直結する契約最終年のパフォーマンスが目に見えて向上する。データ分析書「BASEBALL BETWEEN the NUMBERS」は1976~2000年の主なFA選手212人のパフォーマンスをまとめている。チームへの貢献度を勝利数に換算した「WAR」でみると、FAになる前年と翌年(3年間の1年目と3年目)が平均5.08勝分なのに対し、FAを取得する契約最終年(3年間の2年目)は5.56勝分。10%近くも貢献度がアップするのだ。

自動的にFAになる大リーグと、宣言というハードルがある日本。どちらの方式が望ましいかは一概にいえない。大リーグのように毎年多くの選手がFAになれば市場の流動性が高まり、一部のスター選手が巨額の契約を結びやすくなる半面、チームの顔になる選手は育ちにくくなる。旬を過ぎた中堅やベテランも市場価値という厳しい物差しで測られる。

現在のFA制度、改善の余地

一方、日本のスタイルだとフランチャイズプレーヤーが育ちやすく、ベテランにも優しい半面、働き盛りの選手の報酬が不当に抑えられやすい。また、FA権の行使がチームへの「裏切り」とみなされかねず、移籍先からの人的補償を伴う場合には、宣言をした選手にいわれのない後ろめたさを感じさせるという問題もある。この点の解決策については、ドラフト指名権の譲渡で補償をしている大リーグの手法が参考になるのではないか。

生え抜きだけですべてのポジションをまかなうのが難しい以上、FAはチーム強化に欠かせないチャネルだ。しかし、多くの選手が成績を落とすという認識が高まるのに伴い、近年の大リーグではFAでの選手獲得に慎重な球団が増加した。FA制度がしっかり機能していないとして労使で問題になりつつある。

現行のFA制度は完成形とはいえず、改善の余地があるのは紛れもない事実だ。日本でも建設的な議論と継続的な改善が進むことを期待したい。

岡田友輔(おかだ・ゆうすけ) 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン