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田中将が求める「フレーミング」 効果はいかほど?

野球データアナリスト 岡田友輔

金武キャンプで投球練習を前に太田光(左)と話す楽天・田中将大。捕手陣にフレーミング技術向上を求めたという=共同

今季、米ヤンキースから楽天に復帰した田中将大はキャンプ中、新たな女房役に「フレーミング技術の向上」を要望したという。「フレーミング」とは、際どいコースをストライクと判定してもらうための捕球技術を指す。日本ではまだなじみの薄い言葉だが、大リーグでは広く認知され、捕手の評価に使われている。では実際、フレーミングの巧拙により、どれほどの差が生まれるのだろう。

日米を問わず、捕球技術の重要性は昔からいわれてきた。ただ、「フレーミング」という概念が生まれたのは2000年代半ばと比較的最近のこと。テクノロジーが発達し、投球軌道の計測や記録の蓄積を通じた数値化が可能になったためだ。

フレーミング能力はどのようにして測るのか。以前、審判についてのコラムでも紹介したが、ルールブックと現実のストライクゾーンは必ずしも一致していない。ルール上では入っているのにボールと判定されることが多いコースもあるし、理屈では外れているのにストライクになりやすいコースもある。フレーミング能力を測定するには、際どいコースがストライクと判定される期待値に対し、どれだけ差があるかを測る。

その巧拙が最大30点分の差を生む

例えば平均40%しかストライクと判定されないコースが、ある捕手がマスクをかぶっているときに限って50%の確率でストライクになるとしよう。この差は投手の球筋や、審判が投手に抱く先入観など様々な要素が絡み合って生まれているはずだが、捕手のフレーミングにもそれなりの要因があると考えていいだろう。

各捕手がゾーンぎりぎりのコースを捕球したときのストライク率を合算し、平均との差を求めると、シーズンをまたいでも大きな変動がないことが分かる。こうしたことからも、フレーミングは選手の能力を表す指標として一定の信ぴょう性があると考えられる。

今年のキャンプでボールを受けるメッツのマッキャン。19年のフレーミング数値は芳しくなかった=USA TODAY Sports

日本では詳細なデータが存在しないため、大リーグを例にみてみよう。データ分析サイト「Baseball Savant」では一定以上の捕球数があった捕手を対象に、フレーミングの数値を紹介している。昨年は試合数が少なかったため2019年を見てみると、最も数値が高いのはパドレスのオースティン・ヘッジスだった(現在はインディアンス)。ルール上のストライクゾーンの枠から内外にボール1個分のエリアにおけるストライク率が64人中トップの53.8%。1ストライクの得点価値を0.125として計算すると、平均的な捕手に比べ、1シーズンで15点分の貢献をしたことになるという。

反対に、貢献度での最下位はホワイトソックスのジェームズ・マッキャン(現在はメッツ)。境界線付近のストライク率は44.9%、貢献度は平均比マイナス15点だった。つまりメジャーのトップとワーストを比べると、フレーミングだけで貢献度に30点分もの差が生まれるのだ。50点前後の差がつくこともある打撃には及ばないが、これは肩やバント処理、ボールを後ろにそらさないブロッキングの巧拙などが生む違いよりもはるかに大きい。

捕球の瞬間、止まるのが理想

米国のアナリストたちによると、ストライクを取ってもらいやすいキャッチングの傾向とは、捕球の瞬間にミットがむやみに流れたり、体や頭がいたずらに動いたりしないことだという。体操選手のフィニッシュのように、その瞬間、ピタリと止まるのが望ましいようだ。

2010年代前半、フレーミングのインパクトに目をつけてチーム再建を果たしたのがパイレーツだった。12年のオフ、長年低迷していたパイレーツは旬を過ぎたとみられていたラッセル・マーティンをヤンキースから獲得した。「打てない中堅捕手」の加入は地元ファンやメディアには不可解だったが、球団が目をつけたのはマーティンのフレーミング技術だった。その効果もあってか、13年のパイレーツは21年ぶりのポストシーズン進出を果たした。

フレーミングは練習次第でうまくなる技術である(キャンプで練習するホワイトソックスのコリンズ)=AP

この快進撃には後日談があって、立役者のマーティンはわずか2シーズン在籍後フレーミングの重要性に気付いた他球団に好条件で引き抜かれてしまう。フレーミングという能力が市場価値を獲得したのだ。この辺の経緯は「ビッグデータ・ベースボール」に詳しいので、興味があれば読んでみてほしい。

審判の正確性向上で効果は縮小

ただ、フレーミングには打撃力や強肩などとは異なる特殊性もある。フレーミングという能力を顕在化したテクノロジーは、審判の技術向上にも役立てられているという点だ。近年の大リーグでは、ルールと現実のストライクゾーンを一致させていこうという傾向が強まり、球審の「誤審率」が減少している。これを捕手側からみると、ゾーンをギリギリ外れたボールを捕球技術によりストライクと判定させることが難しくなっているということだ。

例えば、16年のバスター・ポージー(ジャイアンツ)はフレーミングでメジャー最多の30点分の貢献をした。しかし上述の通り、19年のトップは15点にとどまっている。今後、審判の技術が一段と向上すれば、その数値はさらに縮小するだろう。さらに、打撃力や強肩に比べると、フレーミングは練習で獲得しやすい技術だ。その重要性を認識する捕手が増えることによっても、優劣は薄れていく。

仮に将来、ストライク、ボールの判定がすべて機械に委ねられるようなことになれば、フレーミングという能力そのものが消えることになる。条件や環境次第で出現もすれば、消滅もする。フレーミングとは蜃気楼(しんきろう)のような技ともいえる。

岡田友輔(おかだ・ゆうすけ) 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。「デルタ・ベースボール・リポート4」を3月発刊。

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