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必然の金星、経営に場を変え再び ラグビー・五郎丸歩

引退模様(2)

その勝利は世界中で「奇跡」と呼ばれた。2015年ラグビー・ワールドカップ(W杯)、日本対南アフリカ。主役の一人、五郎丸歩(35)は「一番大きなメッセージを伝えられたことが良かった」と振り返る。

長年、心にもやもやを抱えていたという。「外国人へのジェラシーがメチャクチャ強かった。日本人が世界で結果を残せていない中、代表のヘッドコーチも外国人ばかり。評価してもらえず苦しい時期があった」。19歳から代表に呼ばれていても、W杯は遠い。いつしか同僚の海外出身選手にまでわだかまりを抱えるようになっていた。

「南アに勝った後、それがすっきり解消されたんです。外国籍の人を初めて百パーセント、受け入れることができた」。世界で勝った自信は葛藤を吹き飛ばし、本当の仲間意識が生まれた。「だからこそ、これを自分が発信すべきだと思った」。翌日、海外出身選手への応援を呼びかける言葉をツイッターに投稿。その一石は瞬時に拡散、4年後のW杯で日本が「ワンチーム」に沸く土台となった。

現役中、試合前に泣くことはほぼなかったが「W杯の国歌斉唱だけは全敗でした」と笑う。実は例外は他にもある。10年のトップリーグ開幕戦。リーマン・ショックで所属のヤマハ発動機が強化を縮小、多くの主力が去り、五郎丸もプロから広報業務の社員へ転じた。「縮小の悔しさや色々なものが心に浮かび泣いていた」

正念場を踏ん張ったチームを会社は再び支えた。14年度には初の日本一に。来年1月のリーグワン誕生にあたり、チームは分社化して静岡ブルーレヴズと改称、ビジネス化の先頭を走る。引退を決めた五郎丸の目にはその姿勢が魅力的だった。「本気でラグビー界を変えようとしている。これならラグビー界にも会社にも恩返しできる」

その後がこの人らしかった。お飾りでなく確たる担当を持って仕事にあたりたい、とクラブの社長に直訴。任されたのがチケット販売だった。

初仕事は企画もののチケット。「数時間を過ごすために都心から来てもらうのはハードルが高い。土日をしっかりオーガナイズしていいホテルと結びつければいい」。収支計算やホテルとの交渉、問い合わせの想定問答集の作成を1人で行った。高級リゾート宿泊付きの6万円以上のチケットは発売日に即、売りさばけた。

2カ国のプロクラブにも所属した経験から「スポーツは街づくり。そうでないとこれからは世の中に受け入れられない。10年かけて実現したい」と夢を描く。日本のラグビーを企業頼みから地域に支えられるものへ。それは革命ともいえる大望だ。

あの南ア戦後、こう語った。「ラグビーに奇跡なんかありません。必然です」。努力の結果、つかみ取った勝利なのだと。そして6年後の今、飛び込みで店を回り、ポスターを張ってもらう。おまえがそこまでしなくても、との声など意に介さない。「日本ラグビーの顔といわれたのは過去の話。ここでも奇跡なんかないんです」。必然は、また起こせる。そこへ一歩ずつ歩めるこの人の強さがある。(谷口誠)

ごろうまる・あゆむ 1986年福岡県生まれ。佐賀工業高を経て早大時代に大学日本一に3度輝いた。2008年にヤマハ発動機入団。初出場の15年W杯では初の1大会3勝に貢献、大会ベスト15に選ばれた。日本代表の711得点、トップリーグの1282得点はいずれも歴代最多。今年4月に引退、静岡ブルーレヴズのクラブ・リレーションズ・オフィサーとチケット担当に就いた。

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