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不条理な野球の短期決戦 「勝利の方程式」はあるか

野球データアナリスト 岡田友輔

近年まれに見る熱い戦いが繰り広げられたプロ野球の日本シリーズが決着した。いずれの試合も僅差で、紙一重の差が明暗を分けた。レギュラーシーズンにも増してワンプレーが大きな意味をもつポストシーズン。短期決戦を勝ち抜くための方程式は存在するのだろうか。

よく聞くのは「短期決戦ではスモールボールが強い」という説だ。「スモールボール」という語に明確な定義はないが、大まかには犠打や進塁打、盗塁などの小技を駆使して1点をもぎ取るイメージだろう。国際大会では日本のお家芸として、パワーで勝る外国勢への対抗手段ともみなされている。

いうまでもなく、得点の可能性を高める選択肢が多いのに越したことはない。1点が欲しい終盤ならなおさらだ。しかしそれはレギュラーシーズンでも同じこと。短期決戦でスモールボールが普段以上に威力を発揮するというのは妥当なのだろうか。

統計に基づくセイバーメトリクスの視点による野球のデータ分析書「BASEBALL BETWEEN the NUMBERS」の中に、短期決戦に強いチームの条件を探った論考がある。2000年代前半、セイバーの知見に基づいたチームづくりで躍進を遂げ、映画「マネーボール」にもなった米アスレチックスだが、ポストシーズンでなかなか勝てなかった。そこで、出塁能力や長打力を重視するセイバー流の戦略は短期決戦には当てはまらないのではないかという声が出てきた。

論考では長年にわたる過去のポストシーズンを振り返り、レギュラーシーズンでどのような戦い方をしたチームが好成績を残してきたかを検証している。結論からいうと、レギュラーシーズンでの盗塁や進塁打の数とプレーオフでの成績に有意な相関関係はなかった。つまり短期決戦だからといって、スモールボール型のチームが有利とはいえないということである。

冷静に考えれば、これは驚くには当たらない。1試合において勝利の可能性を高められる定石が存在するなら、レギュラーシーズンでも同じことを繰り返せばいい。反対に、レギュラーシーズンでは有効なのに、短期決戦ではマイナスになるといった作戦があるわけもない。大事なのは状況に応じて最善の策を選択することである。スモールボールが勝利への近道なのではなく、必要に応じて小技も使えるという選択肢があることが強みになるのだ。

論考では投打における様々な要素とポストシーズンの成績の相関関係を調べている。ポストシーズンで強かったチームに共通する決定的な要素を特定するには至らなかったが、示唆に富む傾向はみつかった。短期決戦では攻撃型より、守備型のチームに分があるというものである。とりわけ大切と思われる「シークレットソース」として「優れた抑え投手」「投手の三振奪取能力」「守備力」を挙げている。

これらの3つはレギュラーシーズンでも大切な要素だが、短期決戦では守備型が強いという傾向にはうなずける部分がある。

レギュラーシーズンとポストシーズンの大きな違いは、前者では弱小球団とも当たるのに対し、後者では力のあるチームとしか対戦しないという点だ。弱小チームの投手陣をメッタ打ちにする強力打線であっても、好投手にかかればそうはいかない。西武は圧倒的な猛打で2018、19年のペナントレースを連覇したが、クライマックスシリーズではソフトバンクの強力投手陣の前に屈した。

打線は水物。レギュラーシーズンの得点数がいかに多いからといって、短期決戦で同じように打つのは難しい。論考は一昔前のものだが、最近は当時以上に矢継ぎ早に救援投手をつぎ込むので、その傾向は一段と強まっているかもしれない。

しかし注意してほしいのは、3つのシークレットソースといえども、短期決戦の成績とは「強いていえば」という程度の、薄くて緩やかな相関があるにすぎないということだ。論考のポイントは「短期決戦を勝ち抜くための決定的な要因は見当たらず、その結果を予想するのは極めて難しい」というところにある。

短期決戦が読めない最大の理由はサンプルサイズが小さすぎることだ。例えばサイコロを100回振れば、奇数と偶数は50回ぐらいずつ出るだろう。だが2回しか振らなければ、半分の可能性でどちらかしか出ない。野球も同じだ。打率で打者の本当の実力を測るには900打数が必要といわれる。最大7試合のサンプルサイズでは、シーズン1割台の選手が打率4割を超え、首位打者が1割台に終わっても何の不思議もないのである。

予想をさらに難しくするのが運の要素だ。野球ではストライク、ボールの微妙な判定が審判に委ねられ、会心の当たりが野手の正面に飛ぶこともあるし、詰まった当たりが野手の間に落ちることもある。実力が拮抗したチーム同士の対戦では、ささいなワンプレーや時の運で決着がつく。

ビジネスや投資、スポーツなどにおいて、能力と運がどれほどの比率で絡み合っているかを研究した「The Success Equation(成功の方程式)」という本がある。数理モデルを使って算出すると、11年までの5年間において、米大リーグで運が果たした役割は34%だったという。いいかえれば、長丁場のペナントレースにおいてさえ、野球の勝敗で実力が占める比率は3分の2にすぎない。

こうしてみると、野球の短期決戦というものが相当に不条理なものだということが分かってもらえると思う。頂点への道は、ペナントレースという地力が問われる壮大な予選と、理不尽極まりない短期決戦から成り立っている。今年の大リーグではシーズン後半から調子を上げたブレーブスがワールドシリーズを制し、レギュラーシーズンではるかに好成績を収めた多くのチームが道半ばで涙をのんだ。

日本のクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージはペナントレースの優勝チームに1勝のアドバンテージを与えることで運の要素を減らしているが、その公平性を疑問視する声はいまでもある。

短期決戦が理不尽なものである以上、賛否の相違はファンがスポーツに何を求めるかというところに行き着く。日本人が欧米以上に公平性を重視し、不条理を嫌う国民だとは思えない。その証拠が高校野球だ。短期決戦どころか一発勝負のトーナメントという厳しさに加え、甲子園への道の険しさは地域によって全く違うし、誤審まがいの判定に抗議もできなければ、リプレー検証もない。

見方によっては高校野球は究極の不条理といえる。その教育的価値とは、フェアプレーの大切さを学ぶ以上に、人生の理不尽を身をもって知ることにあるのではないかと思えるほどだ。それでも日本人は高校野球が大好きだ。

スポーツにおける運と実力の比率は多様な要素で決まる。バスケットボールのように参加人数が少なく、得点機会が多い競技は運の要素が少なく、アメリカンフットボール(NFL)のように試合数が少なく、参加人数が多い競技は運の要素が高まる。成功しているプロスポーツの多くは多かれ少なかれ運の要素が介在しており、野球はこのバランスが絶妙だ。実力を基本としながら、ほどよく運の要素が絡む。やるたびに勝敗が入れ替わるから、ファンは毎日でも試合を見て一喜一憂できる。

スポーツにおける不条理は排すべきものではない。それどころか、見るスポーツとしての娯楽性を考えれば必要不可欠な要素とさえいえる。毎回、実力通りの結果しか出ない試合など誰が見るだろう。

ソフトバンクの圧勝続きだった昨年までの日本シリーズよりも、今年のシリーズを好む野球ファンは少なくないはずだ。短期決戦は最強のチームを決めるものとは限らない。実力伯仲のチームの中から最も幸運なチームが決まるとき、その魅力は最大になるようである。

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