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JRA賞の年度代表馬、「296分の1」に投票した理由

1月3日夜、自宅のパソコンの前で各部門の投票馬を確認し、中央競馬の前年の活躍馬を表彰する2021年度JRA賞の投票を終えました。「年度代表馬でこの馬の票は少ないだろうな。でも自分で理由を持って投票したし」――。

8日後の11日、日本中央競馬会(JRA)のウェブサイトでJRA賞の結果を見て、「えっ!」と叫んでしまいました。年度代表馬の投票数は「1位エフフォーリア277、2位ラヴズオンリーユー18、3位マルシュロレーヌ1」。筆者は年度代表馬として、ブリーダーズカップ(BC)ディスタフを制したマルシュロレーヌに1票を投じていました。

当然、この後はあちこちで反響の大きさを感じました。自分なりに根拠を持って投じたとはいえ、投票の理由を示しておかねば……。というわけで今回は、いかにして「296分の1」の結論を導いたのか、書き残しておこうと思います。

投票権持ってから思考の過程をメモに

JRA賞の競走馬部門の受賞馬は、報道関係者などによる投票で決定します。選考対象はJRAの競走のほか、地方競馬で施行される交流重賞や日本馬が出走した海外のグループレースも含まれます。今回、投票権を持っていたのは296人。筆者は1票を投じる権利を得て4年目でした。

投票権を初めて得た18年度の投票から、「この部門はこういう理由でこの馬に投票した」という思考の過程を毎年、メモに残しておくようにしています。日記ではないですが、1年間、競馬をどんな視点で見て、どう評価したか記録しておきたかったからです。毎年、A4用紙1枚が8ポイントのフォントでびっしり埋まる程度の字数になります。

「最優秀」をどう定義するか? 投票する人それぞれと思いますが、筆者が投票馬のメモに書いている定義は以下の通りです。「まずGⅠ(選考対象になる地方のJpnI競走、海外GⅠも含めて)の勝利数。並んだらレーティング(各レースの内容を数値化した評価)や勝利時のインパクト。ただし、インパクトの強い勝ち方、日本競馬史に残るような快挙は、GⅠ・1勝以上の価値と数えて差し支えない」

「あの1勝」をどう数えるか

定義はあっても、悩むところはあります。例えば今回は最優秀4歳以上牡馬の選択でした。地方、海外を含めてもGⅠ級2勝はテーオーケインズ1頭。とはいえ、引退の花道を飾ったコントレイルのジャパンカップのレースぶりも印象的でした。あの1勝をどう数えるか?

しかし、改めて見返すと、テーオーケインズの勝った帝王賞(大井)が高レベルに思えてきました。出走馬のうち、チュウワウィザードは20年の最優秀ダートホースで、21年3月のドバイワールドカップ2着。カジノフォンテン(地方競馬所属)は上半期に川崎記念、かしわ記念とGⅠ級を2勝。オメガパフュームは東京大賞典3連覇中(年末に4連覇を達成)。こうした強敵を相手に3馬身差の圧勝でした。

さらにチャンピオンズカップもジャパンカップダートの時代を含めて史上2番目の着差で優勝。レーティングはコントレイルのジャパンカップが上でも、GⅠ級の競走で「2度」素晴らしいパフォーマンスを見せたことを重視し、テーオーケインズに投票しました。

そうなるとまた悩ましいのが最優秀ダートホース。GⅠ勝利の数ならテーオーケインズですが、マルシュロレーヌの勝利は、日本調教馬初の北米ダートGⅠ制覇。それも北米最高峰のBCでの歴史的1勝です。さて、どう考えるべきか。

筆者は当日、弊社の「ブリーダーズカップデー実況中継」の司会を担当しました。実況が入るのは馬券発売対象レースのみ。BCディスタフの時間帯は事前収録した素材を流していました。ところが、4コーナー先頭からゴール前まで大接戦を演じたマルシュロレーヌの勝利が発表されると、出演者の驚き、盛り上がりとともにスタジオの雰囲気も一変しました。

その後、中継内でレースを振り返る時間もあったのですが、海外競馬に詳しい解説の成田幸穂さん(サラブレッド血統センター)も「間違いなく快挙。世界のダート牝馬チャンピオンを決めるレースで、相手も強力だった」と興奮を抑えられない様子でした。メンバーを見直すと、21年のケンタッキーオークスを5戦無敗で制したマラサート、20年のケンタッキーオークス馬で21年にG1を2勝のシーデアズザデビル、4つのGⅠを含めて5連勝中のレトルースカなど、確かにメンバーは高レベルでした。

歴代の日本最強クラスでも、海外のダートGⅠでは日本と違う砂質やスピードに歯が立たない光景を過去に何度見たか? そんな常識を覆した1勝は、まさに「日本競馬史に残るような快挙」。GⅠ何勝分かの価値があるという思いが勝って、マルシュロレーヌに1票を投じました。

21年の日本競馬「最大の出来事」は?

そして各部門の受賞馬の中から選ばれるのが年度代表馬。後に21年の日本競馬を振り返ったとき、「最大の出来事」になるのは何かと考えましたが、心中に迷いはありませんでした。冒頭の投票馬と投票理由を残したメモにはこう記していました。

「マルシュロレーヌの『日本調教馬初の北米ダートGI制覇』という快挙こそ、2021年の日本競馬を後に振り返ったとき、ハイライトとして挙がる(べき)ものではないか。歴代勝ち馬にパーソナルエンスン、アゼリ、ジンジャーパンチ、ゼニヤッタ、ビホルダー、モノモイガールなど名馬が多数。母親として日本へ輸入され、その子が良血といわれることも多数。マルシュロレーヌの母系はキョウエイマーチやオグリキャップにもつながる純国産血統」

「F1で日本人ドライバーが優勝、ゴルフやテニスの四大大会で日本人が優勝(既に達成済みだが)、五輪の陸上100メートルで日本人が表彰台、くらいの偉業だと思う。『届かないと思っていたところに初めて日の丸を掲げた』のは、凱旋門賞やロイヤルアスコットのGⅠ制覇くらいのインパクト。コロナ禍のなか果敢に海を渡って挑戦し、0を1にした勝利の意義は年度代表馬にふさわしい」

もちろん残る295人の方々にも、それぞれ投票馬を選んだ物差しはあると思います。今回、マルシュロレーヌのあの1勝を21年の日本競馬で最大の出来事、という判断基準を持っていたのが偶然、筆者1人だったのでしょう。毎年この投票はあれこれ悩むもので、「あの判断で良かったのか」と後になって考えることもあります。今年もそうですが……。

しかし、好きな競馬に関して深く考える機会を与えていただけるのですからぜいたくな悩みでしょう。22年の投票でも散々悩むほど、数多くの素晴らしいシーンを見る年であることを願っています。そして来年こそは、受賞馬の関係者の方々が華やかな授賞式で、栄誉を受ける場面が見られることを願うばかりです。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 大関隼)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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