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妻とともに生きる レースにも同行、存在自体が支え

新婚時代に夫婦で来て以来、三瓶山(島根県)を訪れた

先日、トレイルランニング雑誌の取材で山陰地方の山や温泉を訪れた。これらの地は20年以上前の結婚して間もない頃、妻と一緒に訪れた地であり、久しぶりに当時を懐かしく思い出した。

夫婦そろって旅好きで、仕事の合間に全国あちらこちらを旅して回った。当時は金銭的にも時間的にもまったく余裕がなかった。それでもできるだけさまざまな土地を訪ね、そこを走りたかったので車に寝泊まりしながら旅行した。

一般的に、欧米人はパートナーを頻繁にほめる。日本人は愚妻という言葉があるようにめったにほめない。私もご多分にもれず、外では妻のことをほめるどころか、むしろ照れもあって少し悪くさえ言ってしまう。だがアスリートとしてここまで活動できたのはもちろん、生活不安定な立場で安心して毎日をすごせるのも妻のおかげ、彼女の存在なくしてはありえなかった。

海外での大きなレースに出る場合、食事など生活一切の面倒をみてもらうため、できる限り妻も同行する。アスリートとしては非常に情けない話だが、大レースを前にすると強烈なプレッシャーに襲われ、一人では心細くて耐えきれない精神状態に自分を追い詰めてしまうのが常だ。そのたび、妻の叱咤(しった)激励に助けられてきた。レース中、苦しさのあまり「もうやめよう」と投げ出しそうになったとき、給水所などで妻の姿を見て奮起し、ゴールに何とかたどりついたという経験も一度や二度ではない。

40歳を前にサラリーマンを辞めてプロトレイルランナーに転身するプランを伝えた際には、さすがに将来への不安からその夜は寝付けなかったようだ。ただ、翌朝には「そこまで思うのなら」と背中を押してくれた。互いに性格も考え方も全く異なる2人だけれど、人生は楽しむべきものであり一度きりのもの、という価値観は同じらしい。

とはいえ20年以上も一緒に暮らしていても、生活習慣や好みが異なり、いまだに譲れない点もある。そのため小さなことがきっかけでけんかするけれど、あまり頓着がない性格の2人だから、すぐに忘れて元に戻ることができる。約束したわけではないが、悩みやつらいことは一人で抱え込まず、互いに話すようにしてもいる。プライドが邪魔し、妻にさえ話したくないことがあっても、一人で悩むより2人のほうが解決の端緒を得ることも多く、互いに支え合えている。

昨年からは新型コロナウイルス禍で仕事が相次いでキャンセルとなり、先行きが見えない。憂鬱な気分になり、ストレスがたまると、車で妻と数時間ほど近場をめぐっている。車内で日ごろの仕事や人間関係、子育ての悩みや今後のビジョンを語り合うと、不思議なもので自宅の中にいるよりも、深くいろいろと語り合える。どこにも立ち寄ることなく5時間ほど、ただ話すだけで車を走らせた日もある。

結婚して今年で23年目。今はまだ子育てでせわしない日々が続く。娘が私たちの手から離れたら、また新婚の頃のような貧乏旅行をするのが私の夢。きっと妻は「もうあんな旅行は嫌だ」というのだろう……。

(プロトレイルランナー)

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