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「W杯隔年開催」案の愚 過熱するFIFA対UEFA

サッカージャーナリスト 大住良之

世の中には、あぜんとさせられるアイデアが時折ある。常識的に考えればありえないし、あってはならないアイデアだが、ごくまれに、そうした「ばかげた」としか思えないアイデアから、時代がポジティブな形で大きく変わることもある。しかしこれは間違いなく、「50のうちの51」(国際サッカー連盟〈FIFA〉のジョゼフ・ブラッター前会長が毎日ひねり出す数々のアイデアについて、英ジャーナリストのB・グランビルが「50のアイデアのうち51は役立たずだ」と皮肉ったことによる)のひとつだ。ワールドカップの2年ごとの開催案だ。

この案は、5月にFIFAのジャンニ・インファンティノ現会長の口から漏れたのだが、最初は「絵空事」のように思われていた。しかし秋にはいってFIFAのなかでさまざまな賛成案が出てきて、欧州サッカー連盟(UEFA)など利害の一致しない組織があせり始めた。

「賛成派」の旗頭はアーセン・ベンゲル(フランス)である。かつてアーセナル(イングランド)監督として一時代を築いたベンゲルは、現在FIFAの「グローバル・ディベロップメント」部門の責任者を務めている。その彼が、「時代に即した新しい国際カレンダー」を提唱するなかで「2年に1度のワールドカップ」を支持したのである。

「国際カレンダー」とはクラブと代表チームの日程調整である。1990年代まで、代表チームの試合や大会はそれぞれの協会や地域でさまざまに行われていたが、欧州の主要国の国内リーグがテレビ放映権収入の急激な増加により財政を拡大して世界中から主要スター選手をかき集めるようになると、クラブから大きな不満が出た。そこで20年ほど前にFIFAが「国際カレンダー」を制定、代表戦ができる日程を世界中で統一した。現在では、基本的に3月、6月、9月、10月、11月の5回、1回につき9日間、2試合ずつ組む日程を指定している。

しかし試合だけでなく、長時間の移動、時差調整など、代表チームに参加する選手の負担はそのたびに大きく、それがクラブでのパフォーマンスにも影響することがずっと指摘されてきた。ベンゲルが明かした3月と10月だけに「国際試合日」を入れ、従来の2試合ではなく、1回の活動での試合数を増やすという案は、傾聴に値する。

しかしそれと現在4年に1度で行われているワールドカップを2年に1度にするということは、まったく話が違う。

ベンゲルは「現代の若者は4年間など待てない。良いものをもっともっと見たがっている」と話し、「2年に1度」に賛意を示したが、「2年に1度」は、彼が言う「サッカーの未来」を考えたものではない。

「2年に1度」案はサウジアラビアから提案され、インファンティノがそれに乗ったと言われている。中国からの圧力もある。いまやワールドカップは放映権料、スポンサーを含めて中国に負うところが大きい。そのサウジアラビアや中国は、自国でワールドカップ開催を望んでいるが、現行の4年に1度ではいつになるかわからない。「多くの国でワールドカップが開催されることは、サッカーの世界化促進にプラスになる」と主張する人もいる。

しかしインファンティノ会長の主要な関心は、UEFAの主導権争いにある。

世界のサッカーを統括するFIFAだが、その財政規模は、傘下の地域連盟のひとつにすぎないUEFAに遠く及ばない。当然と言えば当然だ。FIFAの「資金源」が4年に1度のワールドカップだけであるのに対し、UEFAは4年に1度の欧州選手権(EURO)に加え、毎年の欧州チャンピオンズリーグ(UCL)で莫大な放映権収入を得ているからだ。

2017年から2020年の4年間の収益を比較すると、UEFAの125億ドル(約1兆3750億円)に対し、FIFAは約半分の64億ドル(約7040億円)にすぎない。FIFAはワールドカップが開催された2018年に約46億ドル(約5060億円)の収益を出したが、他の3年間は7億ドル程度ずつしか収益がない。しかしワールドカップを2年に1度にすれば、UEFAに比肩する収益を上げることができるという計算なのだ。

当然、UEFAは反発する。アレクサンデル・チェフェリン会長は、FIFAが「ワールドカップ隔年開催を強行するなら、大会ボイコットも辞さない」と示唆する。いくつかの強豪国サッカー協会がFIFA脱退の意向をもっているという話も伝わってくる。FIFAは「ワールドカップは偶数年に、地域連盟の選手権は奇数年に」という開催案を提案しているが、4年に1度の欧州選手権に加え、最近、2年に1度の欧州ネーションズリーグもスタートさせ、さらに「帝国」の座を盤石にしようというUEFAにとって、2年に1度のワールドカップは大きな脅威だ。

だがこれはサッカー内、FIFA対UEFAの戦争にとどまらない。4年に1度の大会として125年の歴史をもつオリンピックは、その中間年にワールドカップが行われることで放映権料を伸ばし、巨大な財政規模をもつに至った。しかしもしワールドカップが2年に1度になれば、オリンピックはどこに入れたら、現状の放映権料を維持し、さらに伸ばしていくことができるのだろうか。

放映権料は「天井知らず」ではない。近接してビッグイベントが重なれば、放映権料は半分ずつに分けられるわけではなく、明らかな「勝ち組」と「負け組」が生まれる。2年に1度のワールドカップを掲げるFIFAの狙いは、一挙に「総取り」を目指すもので、オリンピックとそれにつながる多くの競技のことなど少しも顧みられていない。

FIFAもUEFAも、そして国際オリンピック委員会(IOC)も、ファンの負担などお構いなしで、その強欲さにおいて五十歩百歩であり、今回はFIFAがその本質をあらわにしただけなのだが、そのなかにベンゲルが気にする「プレーヤーの健康とサッカーの未来」の要素など、どこにも見つけることができない。

「2年に1度のワールドカップ」は、明らかに「50のうちの51」のアイデアだ。しかし同様にその類いとみられていた「48チームのワールドカップ」が、2017年のFIFAカウンシル(旧理事会)で正式決定し、5年後に迫った2026年大会(アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国共同開催)で実施されることを考えれば、「つぶれるに決まっている」と、安閑としているわけにはいかない。

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