4年ぶりの復活 笑顔が戻った大会(鏑木毅)

11月、群馬県神流町(かんなまち)で神流マウンテンラン&ウォークというトレイルランニング大会が4年ぶりに開催された。自分がプロデューサーを務めるこのレースは、今回が14回目。2019年10月の台風被害で主要道路網が寸断されて中止となってから、その後も新型コロナウイルス禍で開催できなかった。
過疎化が進む町ではイベントも久々で、運営面で不安はあった。何よりもコロナ禍で大会が開催されなかった3年の間に競技者層が大きく変化、以前に比べるとレース経験の少ない参加者が増えたことで気をもんだ。
まちなかのロードを走るマラソンと違い、トレイルランニングは山地帯で行われる。遭難や滑落事故などのおそれもあり、主催者は綿密な計画を立てている。
いくら危険があるとはいっても、数十キロメートルに及ぶ山地帯にくまなく誘導スタッフを配置するのは現実的でない。そこで約100メートルごとにコースを示すマーキングテープを選手が容易に視認できるように設置していく。
また私自身が選手の目線で通過して危ないと思った要素、例えば岩を覆い隠している落ち葉、選手の目の高さに張り出した枝などを取り除く。滑落の恐れがあると感じた箇所は何度も足場を整備し、転落防止のロープを張る。
できる限りトラブル要因をなくしておくのがプロデューサーとして意識するところであり、仕事と心得ている。
さまざまなレベルのランナーの動きに想像をめぐらし、危険を取り除いていく作業は骨が折れる。だがランナーが美しい森の道を満喫する姿を思い浮かべると、大きなやりがいを感じる。
大会で力を入れているのがメッセージボードの設置だ。この大会が始まった09年はまだ競技人口も少なく、山での走り方がわからない初心者が多数を占めていた。
そのため安全を考慮し、危険箇所には「気をつけて!」の注意喚起のメッセージや「追い抜くときには互いに声を掛け合い気持ちよく」といった基本的なマナー、「上りは隣の人と会話ができるペースで」などと適正なペース配分を促すボードを出した。ビギナーでも安全に楽しく走れるように念には念を入れた。
回を重ねるごとに、厳しい上りでは笑いを誘う文言や、私と同年代の50代以上のランナーが奮起できるような遊び心を盛り込んだメッセージも登場。少しでも思い出に残る大会になるような工夫をこらしている。
コロナ禍により神流町のイベントはことごとく中止に追い込まれ、1700人足らずの小さな山里の町にとって大切な人と人とのつながりがめっきり減り、住民のみなさんの心も沈みがちだったという。レース当日は、4年ぶりの歓喜にわいた一日となった。
待ちに待った復活の日が事故などでつらいものにならないかと心配したものの、スタッフやボランティアの配慮と努力によって無事に大会を終えた。選手以上に楽しんだ様子だった町の人々の笑顔が印象に残った。
走ることをきっかけとして、再び町が活気を取り戻していくお手伝いができたならこれに勝る喜びはない。
(プロトレイルランナー)

プロトレイルランナーの鏑木毅さんのコラムです。ランニングやスポーツを楽しむポイントを経験を交えながら綴っています。
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