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なぜ大谷翔平はツーシームを必要としたのか

スポーツライター 丹羽政善

大谷翔平(エンゼルス)のフォーシームファストボール(以下、フォーシーム)は平凡である。その軌道において、そして単体では、という意味で。

確かに、速い。平均球速97.2マイルは、メジャーの先発投手の中で6位(200球以上、9月23日現在)。しかし、投球比率はわずか28.3%。9月に入って10%近くまで下がった。

9月10日の試合で中指にマメができ、17日の試合後には、「スピードボールは、土台ができている指じゃないとなかなか多く投げられない」と説明。その影響はあるにしても、傾向そのものは5月をピークに徐々に下がっている(図1参照)。

速い球は彼の代名詞の一つでもあるはずだが、リスクも見え隠れする。それを本人も自覚しているのではないか。

平均被打率は.284であるのに対し、初球、1-0、2-0、3-0、3-1という大谷が高い確率でフォーシームを投げてくるカウントでは.449。相手に狙われた場合、5割近い確率でヒットになっている。結果として、スライダーで代用するケースが増えた。

もっともそれは今年に限った話ではない。2018年以降、フォーシームの平均被打率は.307。同じカウントでは.425(被打率はすべて9月24日現在)。

なぜか? それはやはり、以前も指摘したが、ボールの軌道に起因すると推測できる。変化量、つまり動きがリーグ平均に近く、軌道そのものは打者にとって極めて見慣れたもの。それを示したものが図2である。

シアトル郊外にあるトレーニング施設、「ドライブライン・ベースボール」が提供している「TRAQ」というサービスのデータを利用したが、これはメジャー全体における95〜101マイルのファストボール(右投手)の変化量をプロットしたものだ。

上に行くほど縦の変化量が多く(打者にはホップして映る)、右へ行けばシュートのような軌道となる。そして、赤が濃いほど割合が低く、青が濃いほど割合が高い。割合が高いということは、それだけ平均的ということになる。

ボールの変化量 球速、回転方向、リリースポイントなどが同じで、無回転と通常の回転がかかった2つの投球があると仮定。無回転の球がホームベースに達した地点を基準とすると、実際に投手が投げるボールは回転がかかっているので、その基準点に到達することはない。その差を求めたものが変化量と定義される。

大谷のフォーシームの平均変化量は、ほぼ青いところにかかっている。つまりは、メジャーの打者が見慣れた軌道に近いということが、この図でも裏付けられている。

横の93という数字は、ドライブラインが球速、変化量、アームアングル、リリース位置から〝質〟を数値化したもの。100がメジャー平均で、数字が大きいほど質の高さを示すので、大谷のフォーシームはやはり平均に近い。

では、なぜ平凡なのか。これも以前検証したが、回転効率の低さにその要因を求めることができる。回転効率が100%であれば、回転数を最大限に生かしているといえるが、低くなれば回転のロスが大きくなり、揚力を打ち消すジャイロ成分が発生する。

もちろん、大谷自身も回転効率の改善を試みてきた。昨年のキャンプ序盤には、取り組む課題としてスピンレートと回転効率を挙げた。実際、2018年の平均は67%だったが、昨年は81%。14ポイントも上がった。

ただ、18年と21年では計測システムが異なるので、単純比較できない。いずれも15年から全球場に導入されているデータ解析ツール「STATCAST」ではじき出される変化量などを基に算出されているが、18年はミサイルを追尾する軍事用のレーダーを応用して作られた「トラックマン」という計測機器が使われていた。一方、20年からはハイフレームレートカメラで撮影された映像を基にボールや選手の動きを追う「ホークアイ」というシステムに置き換わった。同じシステムで計算された今年の平均回転効率は76%。昨年から5ポイント下がった。

よって、そこは相変わらずの課題ではあるものの、回転効率を上げることだけが質向上の選択肢ではない。ここからが今回の本題でもあるが、間接的にフォーシームを効果的にするアプローチも存在する。

改めて図2を見ると、上だけではなく、右下にも赤いエリアがある。縦の変化量を落とし、横の変化量を大きくしてそこへ導けば、やはり打者にとって見慣れない軌道となり、効果が期待できる。

それはもうフォーシームではないが、実際のところ、大谷はそういう球を投げ始めている(図3)。それが8月半ばから本格的に投げ始めたツーシームファストボール(以下、ツーシーム)だ。

図3は、96~99マイルのファストボール全体に対し、大谷のツーシームの平均的変化量をプロットしたものだが、赤いエリアに入っている。カギはボールの回転方向だが、大谷のアームアングルがスリークオーター気味だからこそ、無理なく回転方向を傾けられる。

結果、どうなったのか?

そもそもツーシームを投げ始めた時期は、フォーシームの被打率が上がった時期と重なるが、ツーシームを投げ始めてから、フォーシームの被打率が下がった(図4参照)。

直近の9月23日の被打率が跳ね上がっているのは、雨の影響で変化球の制球が乱れ、ツーシームの比率が6%にとどまったことと関係がありそうだが、フォーシームとツーシームは途中まではまったく同じ軌道で来るため、打者には見分けがつきにくい。よって大谷のツーシームは、単体でも使えるほどの変化量だが、フォーシームを生かす球としても機能し始めたといえる。

ちなみにこれまでは、スプリットとフォーシームがそういう関係にあった。大谷が投げるその2つの球種は横の変化量が近く、やはり見極めが難しい。しかし、今季はスプリットが不安定。試合によってはスプリットの割合が10%を切り、結果として相手はフォーシームに的を絞りやすくなったか。

大谷のフォーシームは、他の球種を生かす球でもあり、他の球種によって生かされる球でもあるので、スプリットの不在によって無防備となったが、ツーシームにより再生された。これで来季、ツーシームに磨きがかかり、スプリットも安定すれば、フォーシームを含めた3球種それぞれがさらなる相乗効果をもたらすと予想できる。

また、大谷にはこれまで投手から見て右に動く球種がなかった。昨年終盤、ツーシームジャイロスプリットを投げ始め、それは右に動いていたが、今季序盤、早々に投げなくなった。今後、右打者が踏み込むことを躊躇(ちゅうちょ)するようなら、その点でもツーシームは他の球種をサポートすることになる。

大谷の場合、ここにスライダーが加わるのだから、投手・大谷には、さらなる高みがあるのかもしれない。

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拝啓 ベーブ・ルース様

米大リーグ・エンゼルスで活躍する大谷翔平をテーマに、スポーツライターの丹羽政善さんが彼の挑戦やその意味を伝えるコラムです。

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