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味気ない引き分け コロナ下の「九回打ち切り」で激増

スポーツライター 浜田昭八

来日した元大リーガーは大リーグにはない引き分け試合を体験して、「妹とダンスをしたようだ」と言ったとか。妹ではなく「おふくろ」という説もある。いずれにしても、スリルがなくて、欲求不満になるということで変わりはない。日本人選手やメディアもそれをまねて「結末を書かない推理小説」とか、「オチのない落語」とか、白黒の決着をつけない引き分け試合に不満を漏らしている。

予想されたことだが、今季は引き分け試合が多い。例年だと各球団の引き分けは1シーズンで3試合から多くて8試合ほどだが、今季は5月が終わらぬうちに、ほとんどのチームがその数に達している。5月16日にはセ・パ両リーグ合わせて6試合のうち4試合で引き分けという珍事も起きた。

貴ぶべきは「勝ち数」か「勝率」か

コロナ禍の影響で「九回打ち切り」にしたのが、引き分け激増の原因といえる。昨季は1球団120試合制で「十回打ち切り」だったが、引き分けは今季の5月末とほぼ同数。延長1イニングの差は大きい。

ちなみに1994、96、99年のセ・リーグの引き分け試合はゼロだった。当時の試合方式は「延長は十五回まで」。試合方式の変更で引き分け試合は増えたり、減ったりする。コロナ禍の最中での飲食店の深夜営業などが矢面に立った今、延長イニングをのばすのは難しい。白黒の決着がつかない結末にファンは欲求不満だろうが、労働量、試合経費を絡めた選手、球団関係者の考えは微妙に違うだろう。

総当たりのリーグ戦は最も多く勝ったチームが優勝のはずだ。ところが、勝率計算から引き分け試合を除外する現行のシステムだと、勝ち数の少ないチームが優勝というケースもまれにある。例えば2014年のパ・リーグ。オリックスは80勝62敗2引き分け、勝率5割6分3厘だったが、優勝は勝ち数が2つ少ない、78勝60敗6引き分け、勝率5割6分5厘のソフトバンクだった。

1950年代から60年代にかけて、セ・パともに引き分けを0・5勝、0・5敗として勝率計算をした時期があった。煩雑で分かりにくいので、62年には両リーグとも元に戻った。2001年にセが「勝ち数1位が優勝」としたが、そのチームと勝率1位チームが異なる場合はプレーオフを行うと決めた。ヤクルトが勝ち数、勝率ともに巨人を上回り、ややこしい問題にならなかった。だが、この方式も早々に廃止された。

タイブレーク方式への反発強く

引き分け試合の評価は「妹とのダンス」どころでなく、球界関係者、ファンを戸惑わせている。サッカーのトーナメント大会では同点で終了すると、勝ち上がるチームをPK戦で決めている。この短い時間の攻防はスリル満点で、サッカーの新たな魅力になっている。野球もそれに似た方式で引き分け試合に白黒をつけようとするのが「タイブレーク方式」だ。

九回終了で同点のとき、十回からは得点しやすい状況を設定して回を進める。アマ野球ではすでに採用されているが、延長回が長く続くことは少なく、ほとんど1,2イニングで決着がつく。「つくられたチャンスでのイージーな得点」で、白黒を決めるのに、野球人の反発は強い。

クライマックスシリーズ(CS)導入のときもそうだったが、老舗プロリーグのプライドは高く、伝統を壊しかねない改革には拒絶反応を示す。だが、コロナ禍は早急に収まりそうになく、九回や十回での打ち切りはどこまで続くことやら。引き分け試合の激増で、勝ち負けの感覚が鈍くなる恐れもあるのだ。

このところ、巨人・原辰徳監督の「1人1殺」の継投が話題を呼んでいる。九回打ち切り試合に対応した継投策だ。七回以降が救援専門投手の出番。七回用の投手、八回にセットアッパー、九回にクローザーというのがコロナ禍以前の継投の基本パターン。このとき、中継ぎのだれかが崩れ、クローザーを出しそびれてしまうことがよくある。

延長戦に突入したときを考えると、救援陣のぜいたくな投入はできない。だが、九回打ち切りが分かっていれば、七回から勝ちパターンの中継ぎ投手やクローザーを、相手打者に応じてつぎ込むことができる。高梨雄平、鍵谷陽平がワンポイント起用でますますさえ、中川皓太、大江竜聖らもショートリリーフでフル回転し、救援組の存在感を光らせている。

コロナ禍が収束し、従前通りに延長十二回までとなれば、白黒つかぬモヤモヤ感もなくなるだろう。そのときはまた、投手の長いインターバルにイライラすることになりはしないかと心配だ。

(敬称略)

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