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期待の若手 「1軍の壁」の厚さを測る

野球データアナリスト 岡田友輔

中日の3年目、根尾昂は24日時点で23打席連続無安打と1軍投手に苦しめられている=共同

今年のプロ野球は若手の活躍がめざましい。ルーキーの阪神・佐藤輝明や楽天・早川隆久はタイトル争いに顔を出し、広島・栗林良吏は東京五輪日本代表にも選ばれた。オリックスでは高卒2年目の宮城大弥がエース級の働きで快進撃に貢献している。

しかし彼らは例外的な存在といえる。鳴り物入りで入団しても、多くの選手は殻を破るのに時間がかかる。レギュラー定着が期待されたロッテの3年目・藤原恭大は2軍に逆戻りし、同学年の中日・根尾昂も1軍の投手に苦しめられている。日本ハムの4年目・清宮幸太郎や3年目・吉田輝星も2軍での修業が続く。彼らにとって「1軍の壁」はどれだけ厚いのか。

プロ野球のデータ分析を手掛けるDELTAでは2020年から2軍の詳細データを集計している。20年シーズン、1軍と2軍の両方でプレーした選手を対象に、それぞれの成績を比べてみよう。出場数の違いによる影響を最小限に抑えるため、打者なら打席数、投手なら登板数の少ない方に合わせて数字を調整した。

まずは打者から。レベルの違いは一目瞭然だ。ファームで打率2割8分1厘、長打率4割2分5厘だった「中心選手」が1軍では打率2割1分、長打率3割1分1厘しか打てていない。三振率が16.9%から24.1%に上がり、四球率は10.5%から7.3%に下がり、簡単には打たせてもらえない。25日終了時点で日本ハムの万波中正は2軍での29試合で打率2割9分5厘、9本塁打、長打率6割5分7厘と活躍しているが、1軍では25試合で1割8分2厘、1本塁打、3割4分5厘にとどまっている。1軍と2軍はこれだけ違う。

投手の傾向も似ている。被打率は2割3分8厘から2割7分7厘に上昇。奪三振率が下がり、与四球率が上がってアウトを取るのに苦労する。インプレーの打球に占めるゴロの比率も下がり、長打を浴びるリスクも高まっている。

1軍は多彩な変化球を駆使する

実際、1軍と2軍では何がそこまで違うのか。投球データを調べると、配球の傾向に差があることがわかる。球種ごとの比率をみると、2軍では47.1%を占める直球が1軍では43.7%にとどまり、変化球の比率が高まっている。カーブ(いずれも7%台)やスライダー(同16%台)は大差ないが、シュート、カットボール、チェンジアップ、フォークボールには開きがあり、1軍では多彩な球種が使われていることがわかる。

凡退しベンチに引き揚げるロッテ藤原恭大(手前)。2軍に比べて1軍は多彩な変化球を使う=共同

これは1軍の投手の持ち球が多いことに加え、試合の目的が違うことも影響していると考えられる。勝利が最優先の1軍ではバッテリーが複雑な配球を駆使して打者を抑えにかかるが、ファームは若手の鍛錬の場だ。配球や駆け引きよりも、投手なら球威やキレ、打者なら直球に負けないスイングといった「地力」の向上に力点がおかれている。1軍に昇格した打者が初めての変化球攻めに困惑するのも無理はない。

球種ごとの質にはどの程度の差があるだろうか。主要な球種を比べてみると、直球の平均球速は1軍が145キロ、2軍が143.3キロで約2キロの差があった。スライダーは1軍が129.1キロ、2軍が128.1キロ。フォークボールは1軍が135キロ、2軍が132.9キロだった。

対応力に優れる1軍の打者

いずれも1軍が上回っているが、違いがよりよく分かるのは打者の対応力である。直球を打ったインプレー時のゴロ比率をみると、130キロ台後半ではともに40%弱だが、140キロを境に2軍の数値が上がり始め、150キロでは50%近くなる。かたや1軍は149キロまで40%未満、154キロでも45%未満にとどまる。ゴロになりにくい直球はバットにボールが当たれば長打の確率が高まるとされるが、スピードボールへの対応力は1、2軍でかなりの差がある。

失点して天を仰ぐ日本ハムの吉田輝星。打者のスピードボールへの対応力など1軍と2軍の差は大きい=共同

変化球への対応にも違いがある。120キロ台中盤以降のスライダーに対する空振り率はほぼ一貫して2軍が高く、130キロ台中盤以降の速いスライダーになると、2軍ではゴロ比率が急激に高まる。フォークボールは1、2軍ともに空振りが多い球種だが、ゴロ比率では2軍がほぼ一貫して1軍を上回っている。また130キロ台後半以上の高速フォークは2軍ではほとんど見る機会がなく、1軍に昇格したばかりの若手にとっては「未知の領域」といえるだろう。

打者はパワー、技術力の双方を磨いて対応力を身につけないと1軍の壁は破れないし、投手の立場からすると、対応力の高い1軍の打者をさらに上回る武器がなければ1軍定着はおぼつかない。2軍では23歳になるシーズンまでの野手に6割の打席が配分されており、20代後半になると出場機会が急速に減る。投手は1軍で起用されるタイミングがさらに早い。

支配下選手70人の上限がある中、チームには毎年、新たな人材がドラフトなどで入ってくる。少なくとも高卒で6~8年、大学出身者は3~5年以内には結果を出せないと、新陳代謝の荒波にさらされることになる。

おかだ・ゆうすけ 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。「デルタ・ベースボール・リポート4」を3月発刊。

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