楽天・早川は2桁勝てる? データでみる新人期待値
野球データアナリスト 岡田友輔

プロ野球のオープン戦が始まる。この時期、ファンの楽しみのひとつが新人の品定めである。「即戦力」の看板を背負って入団してきたルーキーはとりわけ注目される。前評判以上の活躍をする選手がいる一方、プロの洗礼を浴びていきなり壁に当たる選手も多い。今季の「期待の新人」はどの程度当てにできるのか。4球団競合の末、早大から楽天に入団した155㌔左腕、早川隆久を取り上げてみたい。
ドラフト1位で指名されるほどの選手なら、アマ時代には当然、優秀な成績を残している。ではその中から誰が活躍できるのか。着目すべきは〝突出度〟だ。
奪三振と与四死球からわかる能力
まず参考にしたいのは過去の選手との比較である。早川は大学4年間で14勝12敗という成績を残した。この数字だけではお世辞にも突出しているとはいえない。過去には怪物・江川卓が法大で47勝を挙げているし、同じ東京六大学出身の現役選手に限っても、斎藤佑樹(早大→日本ハム)は31勝、野村祐輔(明大→広島)は30勝、和田毅(早大→ソフトバンク)は27勝を積み上げた。しかし、過去のコラムでも説明したように、味方打線の得点力や巡り合わせの影響が大きい勝利数は投手の実力を測るには適していない。

勝利数以上に投手の実力を反映すると思われている防御率も、味方の守備力やリリーフ投手の実力によって上下する。そこでデータに基づくセイバーメトリクスでは、野手や偶然の要素が介在しない三振や四死球で投手の実力を測る。プロに入ってくるような選手は、アマ時代は大半が本格派だ。三振が多く、四死球が少ないということは、球威と制球力という投手としての基礎能力が高いことを意味している。
この指標に基づくと、早川は文句のつけようがない。大学4年時を見てみよう。2020年シーズンの早川は春と秋のリーグ戦で合計63回を投げ、93奪三振、与四死球9。四死球に対して10.33倍の三振を取り、9イニング当たりの奪三振率は13.29。新型コロナウイルスの影響で試合数が少なかったとはいえ、これは特筆すべき数字だ。
先輩たちと比べれば、その価値が分かる。早大時代の和田は4年間でリーグ史上最多の476三振を奪った。通算の奪三振率11.75は江川(7.11)を大きく上回り、抜群の数字である。だが最終学年に限れば、早川の奪三振率は和田をも上回っている。与四死球の少なさと合わせると、その価値は一段と増す。

和田は1年目に14勝5敗と活躍した。昨年の森下(明大→広島)も10勝3敗で新人王に輝いた。こうした例に照らせば、早川も1年目から2桁勝てる力は十分に備えていると考えられる。
同期と比べてもわかる早川の突出度
ただ、在籍したリーグのレベルや傾向はシーズンによって変わる。過去の投手との「縦の比較」に加え、同時代での「横の比較」もみてみよう。今年は東京六大学から早川のほかにも、慶大の木沢尚文(ヤクルト)、法大の鈴木昭汰(ロッテ)、明大の入江大生(DeNA)がドラフト1位でプロに進んだ。4年時は3人とも投球回数を上回る三振を奪い、奪三振率は10を超えている。しかし、四死球に対する三振の比率をみると木沢が4.54倍、鈴木が2.4倍、入江が3.5倍にとどまる。早川の10.33倍はここでも突出している。全投手の平均を算出し、そこからの乖離(かいり)幅も参考にすれば、予想の精度は一段と上がるだろうが、限られた材料を精査するだけでも、野球観戦の楽しさを増す一助になるだろう。
ただ、こうした予測ができるのは、東京六大学のようにそれなりのデータがそろっているリーグに限られる。同じ大学生でも地方ではデータそのものが少なく、比較可能なOBが見当たらないケースもある。そこから先は目利きの世界。長年の経験を持つスカウトの腕の見せどころとなるのだろう。
セイバーメトリクスの大家ビル・ジェームズは「現時点では、私が野球について知りたいことの1%しか分かっていない」と話している。つまりデータ分析がこれだけ進んだ現在においても、野球はデータや統計では説明できない要素ばかりだということだ。
しかし、そこで歩みを止めてしまったのでは野球の解明は進まない。1%でも2%でも分からないより分かったほうがいい。アリの一穴が大きな変化をもたらすこともある。野球アナリストの取り組みとは、そんな地道な努力の積み重ねなのだ。