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自然体のマラソン 限界超える努力、故障のリスクも

2008年UTMBのレース最終盤、必死で追い込んだが、3位には届かず4位だった

東京オリンピックが終わり、多くの競技で感動的なシーンを目にした。私にとってはやはりマラソンということになる。入賞した男子6位の大迫傑、女子8位の一山麻緒の両選手はいずれも内定3番目の代表だった。五輪マラソンは、3番手という若干の気楽さが功を奏するのか、これまでにも3番目の代表内定者が好成績を収めるケースが目立つ。

ラストランとなった大迫選手は圧巻の走りだった。30㌔㍍の勝負どころでいったん先頭から引き離されながらも、再び息を吹き返して銀メダルを争う集団を追い、わずかの差まで詰めた。テレビで見ながら、頑張ってほしいと思いつつ「前の集団に追いつくのは難しいだろう」という現実も冷静に感じていた。

世界最高の舞台で最後まで残るのは、その日ベストの状態の選手だけだ。たとえわずかな差であっても、最終盤となると案外その差は縮まらない。私も何度か世界の舞台で同じような悔しい場面に遭遇している。大迫選手の心境を想像するだけで胸が詰まった。

優勝したケニアのキプチョゲ選手が36歳、5位のスペインのランダッセム選手は39歳。引退する大迫選手はまだ30歳だけに惜しい気がするけれど、競技者の引退は年齢だけが要因ではない。アスリートが全身全霊をこめて集中できる期間は4年くらいが限界。大迫選手はその前からの月日を箱根駅伝でもなく、トラック選手としてでもなく、この東京五輪に向かって燃やしつくしたのだと思う。今後はセカンドキャリアを積みつつ、マラソンの普及に携わる姿を楽しみにしている。

服部勇馬、中村匠吾両選手は故障などで本調子ではなかったようだ。代表に決定してから、1年延期もあって余分に長くプレッシャーと向き合った。無意識のうちにオーバートレーニングとなり、故障や体調不良を引き起こしたのだろう。調整の難しさを知るだけに、心から健闘をたたえたいと思う。

どんな競技でもアスリートは周囲の期待が高まるほど、それに応えようとトレーニングで必要以上に追い込んでしまう。とりわけマラソンは、走り込みの量など個人の努力値が反映されやすい競技だけにこうした思考にとらわれがちだ。

この点、優勝した世界記録保持者のキプチョゲ選手はあまりに実力が抜きんでており、8割程度の出来でも勝てる、という精神的な余裕が漂っていた。気負いなく、いつも通りの走りで2位以下を圧倒的に引き離すみごとな勝ちっぷり。レースで好成績をあげるには、自然体が必要だとあらためて感じた。

ただ、身体的に優位なアフリカ勢らに対抗して日本人選手がマラソンで世界の頂点を狙うとなると、100パーセントを上回る常識を超えた努力を積まねばならない。それに固執すればするほど、自然体でいられず、故障などで本調子の走りができなくなるリスクも高まる。私も全盛期はこの禅問答に悩み苦しんだ。五輪マラソンの永遠のテーマといえるのかもしれない。

次回の五輪、パリ大会まではもう3年しかない。大迫選手に代わるスーパースターは現れるのか。まだ若い服部、中村の2人のランナーのリベンジはなるのか。これからもマラソンに注目していきたい。

(プロトレイルランナー)

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