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若いサッカー選手たちへ 夢持ち続け、はい上がる力に

20年12月、練習試合でプレーするサッカーU-19日本代表の西川潤(右)=共同

サッカー日本代表の未来を担う若者たちの活躍の場が奪われた。猛威をふるう新型コロナウイルスの感染拡大によって、2021年に開催されるはずだった2つのアンダーエージのワールドカップ(W杯)が中止になったのである。

U-20(20歳以下)のW杯は今年の5月から6月にかけてインドネシアで、U-17(17歳以下)のW杯は今年10月にペルーで開催されるはずだった。しかし、その出場チームを決める予選を兼ねたU-19のアジア選手権(3月、ウズベキスタン)、U-16のアジア選手権(4月、バーレーン)ともコロナ禍で開けず、連動する世界大会もキャンセルされたわけである。

日本サッカー協会(JFA)は田嶋幸三会長が5年前にトップに就いてから「育成日本の復活」を訴え、アンダーエージの強化に力を注いできた。有言実行とはこのことで、ここ2大会は連続してU-20もU-17もW杯でベスト16に勝ち進んだ。こういう成果を上げている国はアジアでは日本しかない。

コロナ後に備え、休まず人材育成を

そういう若い炎に、ここにきてコロナ禍によって水を浴びせられるのは本当に悔しい。なにより、世界中の怪物たちと腕比べをするのを心待ちにし、トレーニングを重ねてきた当の選手たちが本当に気の毒である。

ただ、コロナ禍に直面にしているのは日本だけでなく、世界中がこの厄災にあえいでいる。いずれ夜は明けるはずだから、その時に備えて人材育成の手は休まず動かしておきたい。W杯というひのき舞台を奪われた若者たちのモチベーションをどう保ち、上げていくか。周りの大人は真剣に考える必要がある。

Jクラブのアカデミー(育成組織)に所属する逸材なら、それほど心配する必要はないのかもしれない。昨季と同様、タフな総力戦になりそうなJリーグは今季も5人の交代枠が維持される。そこで出場の機会を得るタレントもいることだろう。

高校サッカーやトップのリーグに出られないJクラブのユースの選手をどう伸ばしていくかは、その点、やや心配である。しかし、アンダーエージの強化は、フル代表と違って、自分たちより強い相手は探せば国内でも見つけることはできる。近隣の国と強化試合を組んでもいいし、新型コロナの感染状況が国境をまたいだ試合を許さないのであれば、例えば、U-17にU-18の代表をぶつけたり、U-20の代表を大学の選抜チームと戦わせたりしてもいい。

ただの練習試合だと緊張感に欠けるので、フェスティバル形式にして勝ち点も順位も交代枠も公式戦のようにきちっと決めてやる。失ったものを嘆くより、それでもある恵みに感謝して、とにかく若者たちを鍛える「場」を工夫し提供し続けることが大事だろう。

リアルとリモートの両方に良さ

さて、1月9日から11日まで、JFA主催のフットボールカンファレンスという2年に1度の指導者研修会があり、私もパネリストとして参加した。こちらもコロナ禍の影響で全面的にリモートによる開催となった。通常のカンファレンスは1000人ほどのコーチが一堂に会するのだが、今回はリモートにしたおかげで逆に参加者を延べで2000人ほどに増やすことができた。これも新しい様式の効用といえるのだろう。

もちろん「リアル」の良さはある。従来のカンファレンスなら、セッションとセッションの合間のコーヒーブレークやランチタイムにコーチ同士で感想を述べ合ったり、夜は会食しながら議論を深めたりすることができた。泊まりがけのイベントだから即席の高校、大学などの同窓会があちこちで開かれ、旧交を温めることもできた。

一方、リモートには自分の部屋などでリラックスして講義に集中できる良さがあると感じた。ホールだと椅子に座ってメモを取るのがせいぜいだが、自室なら机の上に資料を広げてノートも取って万全の態勢で聴ける。

個人的には、リアルとリモートの両方の良さを楽しめるような、併用ができればいいなと思う。コロナ禍が収束して人が集まっていい状況になれば、来られる人はやっぱり会場に来てもらって現場でリアルの交流をしてもらう。一方、地理的なハンディがあって会場に足を運べない人はリモートで参加してもらう。

今回のカンファレンスはJリーグ名古屋のアーセン・ベンゲル元監督、浦和のホルガー・オジェック元監督のように欧州から参加してくれたパネリストがいた。それをアジアの指導者もリモートで聴講できた。リモートで、特にアジアの指導者の参加者を増やすことは、強化の日本モデルを発信し広める貴重な機会にもなる。

ベトナム、カンボジア、インドネシア、タイ……いろいろな国の指導者にアンダーエージの強化の大事さに目を向けてもらい、日本の成功例を参考に将来のレベルアップにつなげてもらえたら素晴らしいと思う。繰り返し述べていることだが、それは回り回って日本のメリットになる話だ。日本がW杯予選を落とすくらいにアジアのレベルが上がれば、マーケットもどんどん拡大するだろう。市場の規模もサッカーの実力もアジアには欧州に次ぐくらいのポテンシャルがあると思っている。その中で日本は常にトップを走る努力を怠らないようにしたい。

久保建(右)らが中心選手になりそうな30年W杯でのベスト4は夢物語ではない=NurPhoto提供・ゲッティ共同

JFAは川淵三郎会長時代の05年に、ある宣言をした。30年にW杯でベスト4になり、50年にはW杯を開催して優勝することを自らに課したのだった。当時はあまりにも遠い先に思え、ピンとこなかったが、今はこういうビジョンを掲げたことのすごさをかみしめている。「30年のW杯ベスト4」にしても、そのときに戦う選手はもう我々の手元にいる。例えば久保建英(ヘタフェ)がそうだ。現在19歳の久保は30年には29歳。「タケフサ世代」の脂が乗る30年のベスト4は決して夢物語ではない。

未来の予測は難しいが、明確な目標を持つのは、いつの時代も大切なこと。スポーツを通じて人を育てるのが仕事である我々の場合は特にそうだ。何のターゲットも持たずに漠然と過ごす日々から、目を見張るような業績が生まれることはない。

成功する人はとにかく諦めない。昨年亡くなったアルゼンチンのディエゴ・マラドーナもそうだった。1978年のW杯は「若すぎる」とメンバーに選ばれず、82年のW杯はブラジル代表に子供扱いされた。その悔しさをバネに86年大会で優勝した。そのはい上がる力、諦めの悪さは彼の優れた資質の一つだった。苦しいときこそ「夢」を持ち続け、はい上がる力に変える。コロナ禍の今、特にその必要を感じるのである。

(サッカー解説者)

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