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大谷翔平、アストロズの剛腕・バーランダー一家との縁

スポーツライター 丹羽政善

「野球をやってきて、おそらく打席の中で見た一番速い球。ここまで品のある球というか、スピードもそうですけど、なかなか経験したことがない」

2018年5月、大谷翔平(エンゼルス)が初めてジャスティン・バーランダー(アストロズ)と対戦し、3三振を喫した日に口にした言葉。そこからは、バーランダーに対する最大限の敬意が感じ取れる。

4月9日の開幕3戦目、大谷はおよそ3年ぶりにバーランダーと顔を合わせた。すると再び3三振。結果は同じだが、バーランダー側の受け止め方が、変わっていた。

「(以前と比べて)オーラを感じた。ゾクッとしたよ」

あの日の試合後、バーランダーはそこまで明かすことはなかった。しかし翌日、彼の弟で、大谷に心酔するFOXスポーツのベン・バーランダー(ベースボールアナリスト)と2人の両親と話しているところに、バーランダーが加わった。トミー・ジョン手術(肘内側副靱帯再建術)からの復帰戦だったにもかかわらず大谷のことを聞いた非礼をわびると、「大丈夫だよ。どうせ、弟があおったんだろう?」と苦笑。

「俺と弟、東京の街を一緒に歩いていたら、気づかれるのはどっち?」と聞かれたので、「『写真を一緒に撮ってもらってもいいですか?』と聞かれて、スマホを渡されるのは、お兄さんの方だと思う」と答えると、一同、爆笑した。

その際、改めてバーランダーに、大谷との対戦を振り返ってもらったときに漏らしたのが、さきほどの感想である。

こっちがゾクッとした。

やや説明不足なので、このやり取りに至る過程を補足していきたい。

まず、大谷がもっとも対戦相手として敬意を抱いている投手がバーランダーだということは、知られた話である。

そのバーランダーの9つ年下のベンは、FOXスポーツで、「Flippin' Bats with Ben Verlander」という配信番組を担当しているが、大谷にのめり込みすぎて昨年途中から番組内に「週刊大谷翔平ニュース」というコーナーを立ち上げた。するとそれが好評で、後に独立番組となった。バーランダーを尊敬する大谷を、ある意味、米国でもっとも認めているのは、その弟という図式になる。

それを知るバーランダーは、だからこそ、「どうせ、弟があおったんだろう?」と言ったわけだが、ベンは実際、日本のいろんなテレビ番組にも出演し、大谷のすごさについて熱弁をふるってきた。

実は7日の開幕戦の朝には、NHKBS1「ワースポ×MLB」に、ロサンゼルス市内のホテルから生出演。2人の対戦を前にその思いなどを語った。その際、横で通訳などをしていたが、NHKの中継班からもインタビューのリクエストがあり、本番終了後に収録。その模様は、大谷とバーランダーが対戦した試合の中継中に流れた。

もちろん、ベン本人も、自分の番組で2人の対戦を盛り上げている。NHKの番組に出演した後、午後から自身の配信番組「Flippin' Bats with Ben Verlander」の生中継をエンゼル・スタジアムとは道路を挟んで向かい側にあるスポーツバーから行った。気温35度という季節外れの暑さの中、午後1時半ごろからほぼ1時間、ノンストップでしゃべり続けたベン。話題はメジャー全体だったが、2日後に予定されていた大谷と兄の対戦については、「野球ファンが、ワクワクするような対戦になることだけは間違いない!」と力説し、大谷単独の話題になると、さらに熱を帯びた。

「大谷は今年、50本を打つ! 2年連続でMVP(最優秀選手)を取る!」

ところで、その配信が終盤に差し掛かった頃、気づくと、見覚えのある大柄の人が、ベンの背後に立っていた。兄・ジャスティンである。球場入りする前、わざわざ立ち寄ったのだ。番組が終わると、ゆっくりと背後から歩み寄るバーランダー。肩をたたかれて振り向いたベンは、驚きの声を挙げた。

「えっ?!」

番組の生配信を行うことと、その場所も伝えたが、「まさか来るとは思っていなかった」そう。

あとでバーランダーに聞くと、「球場に来るときにスマホを見ていたら、弟の番組が始まった。車が球場の前にさしかかったとき、店で中継している様子が見えたから、運転手にここで下ろしてくれって頼んだんだ」と教えてくれた。

生配信には、一般客に混じって、彼らの両親も来ていたので紹介をしてもらったが、お二人とも実に気さく。母親は、「もう、ベンには困ったもので、部屋には大谷グッズがいっぱい。クッション、ボブルヘッド人形、Tシャツ、バスタオル...…」とあきれ顔だった。

「まるで、10代の子供みたい」

その2日後に大谷とバーランダーが対戦。結果はすでに触れたが、3三振。バーランダーに試合後、「4年前の対戦でも3三振。今回も3三振。結果は同じでも、なにか大谷に違いを感じたか?」と聞くと、「久々の登板だったから、多少、緊張していた。そんな中、最初の相手が大谷だったけど、そこまでいろいろ観察することはできなかった」と答えている。

「大谷との対戦が日本で注目されているのは、あなたの弟が理由でもあるんだけど……」と続けると、バーランダーはこちらの意図を悟り、相好を崩した。

「アイツは、どっちを応援したんだろう? せめて、60−40で俺を応援していてほしい。だって一応、血がつながってるんだぜ」

そうした経緯があって、ようやく冒頭のエピソードにつながる。

10日のシリーズ最終戦が終わってから、取材のためクラブハウスへ向かうと、両チームのクラブハウスの間にあるエレベーターホールに、ベンと両親がいた。挨拶をしてから、エンゼルスのクラブハウスへ。大谷が帰るのを見届けてから再びエレベーターホールに戻ると、彼らはまだ、同じ場所にいた。

「まだ、ジャスティンが出てこないんだ」とベン。

バーランダーがシャワーを浴び、着替え終わるのを待っているようだった。

そのまま一緒に雑談していると、しばらくしてバーランダーが輪に加わった。そのときに聞いた「ゾクッとした」という話は、日本人メディアに対するリップサービスなのかもしれないが、あとでベンに確認すると、「兄は、自分にもそう言っていた」と教えてくれた。

バーランダーは通常、立ち上がりは球速を92~93マイル程度に抑え、尻上がりに球速を上げていくタイプ。ましてや、復帰戦。しかし初回、大谷を空振り三振にとった球は96.1マイルを記録。大谷のバットは、ボールの下をくぐった。

力のこもった1球からは、大谷の存在が、2年近いブランクを経てマウンドに上ったバーランダーの闘争心を呼び覚ましたーー。そんなふうにも読み解けた。

(敬称略)

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