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韋駄天はどこへ? 大リーグで増える巨漢の1番打者

野球データアナリスト 岡田友輔

レイズの筒香はパワーヒッターながら、今季開幕からしばらく1番で起用された=USA TODAY

米大リーグ・レイズの筒香嘉智が今季開幕からしばらく1番で起用された。最近は下位を打つことが増えたが、筒香のようなパワーヒッターがトップを打つことが最近のメジャーでは珍しくない。

長打力のある打者が1番を打つことは過去の日本球界でもあった。遡れば松永浩美、真弓明信、松井稼頭央、高橋由伸といった名前が思い浮かぶ。しかし彼らはパワーヒッターというより、走攻守に長打力も兼ね備えたアスリート型という方がしっくりくる。かたや筒香は打力が突出した典型的なスラッガータイプである。

「1番打者=俊足」という常識にとらわれず、レイズは昨年も力士のような巨漢の崔志万をたびたび1番で使った。レイズは新しい戦略を次々と駆使するチームだが、トップバッターに求められる素養が大リーグ全体でも変わりつつあることはデータが物語っている。

レイズの崔志万。従来の1番のイメージとはかけ離れている=AP

統計に基づく「セイバーメトリクス」には、選手の機動力を評価する「スピードスコア」という指標がある。盗塁や三塁打のほか、得点、併殺割合、守備範囲の広さなどに基づき算出する。平均的な選手は4.4前後、スピード豊かな選手ほど数字は大きくなる。

過去20年間、大リーグの打順ごとのスピードスコアをみていくと、10年ほど前まで、1番打者の数値は毎年6を超えていた。それが2018年以降は6未満。昨年に至っては辛うじて打順別の最高値を保ったものの、5.2まで下がった。

反対に上昇したのは、総合的な攻撃力だ。「wRC+」は出塁能力や長打力などに基づいた打者のトータルな攻撃力を、リーグ平均との比較で評価した指標だ。100を平均とし、数字が上がるほど攻撃力が高い。約10年前まで、1番打者のwRC+は100を切ることの方が多かった。しかし近年は100以上が当たり前で、昨年は105を記録した。つまりスピードよりも、打力が重視されるようになったのだ。

こうした潮流の背景にはデータ分析の浸透がある。各チームとも得点を増やすのに最適な打順を模索し、それを実行に移している。1番打者にかつてほどスピードが求められなくなった一因は投手のレベルアップだ。平均球速が増し、変化球も多彩になった近年のメジャーでは出塁がままならず、連打や小技で得点するのが難しい。出塁の低下は長打で補うしかない。そこで最も打順が回る1番に長打力のある打者をおいて打席を増やし、得点のチャンスを高めようという発想が出てくる。

現役晩年のイチローはたびたび、「メジャーの野球はつまらなくなっている」という趣旨の発言をした。投打のレベル向上によるゲームの最適化が「三振かホームランか」のような身も蓋もない発想だとすれば、確かにそれは皮肉なことだ。

それはさておき、こうしたメジャーのトレンドが日本でも広まるかといえば、そう単純でもないだろう。日本と米国とでは、投手と打者の力関係が明らかに違う。日本の投手もレベルアップしているが、一部を除けば連打が期待できないほどではない。三振覚悟の一発狙い以外にも点を取る方法は色々あり、打順にも違う発想が求められる。

それでも、1番打者の条件として俊足を絶対視しないという考え方は参考になる。野球理論の発達によって送りバントの有用性が疑問視されるようになり、最近は2番に強打者をおくチームが増えた。クリーンアップを含めて長打力のある打者が後ろに続くなら、1番がしゃかりきに盗塁をせずとも得点のチャンスは増える。

それでは韋駄天はどこに置くべきか。スピードを最も生かすには、後続に長打が期待できない打順で使うのが有効と考えられる。大リーグの打順別スピードスコアをみると、かつては4未満ばかりだった7、8番打者が近年は4を優に超える数値をマークしている。この打順に俊足の選手を配置すれば、出塁して盗塁を決め、単打で生還する機会が増える。打力に課題を残すが、足では12球団トップクラスの周東佑京(ソフトバンク)などはこうした起用も面白いのではないか。

キャンプで紅白戦に出場し、適時打で二塁から生還するソフトバンク・周東=共同

打順の話のついでに、DeNAのアレックス・ラミレス前監督が使っていた「8番投手」に触れておきたい。データ分析の大家、トム・タンゴ氏らが執筆した「The Book」によると、投手の打順を1番から9番まで変えてシミュレーションしたところ、1試合の得点期待値が最高になるのは投手を9番(4.835)ではなく、8番に配置したとき(4.847)だった。投手よりも打力のある野手を9番に入れることで、上位打線につながりやすくなるためという。

アナリストの佐藤文彦氏による分析では、ラミレス監督時代のDeNAでは「8番投手」のときの得点力が「9番投手」を上回ったシーズンが複数回あった。シミュレーションで効果があると見込まれていた起用法が、実戦で成果を上げた意義は大きい。上位打線のあり方も含め、他球団でも試してみる価値はある。

おかだ・ゆうすけ 千葉県出身。大学卒業後、民放野球中継のデータスタッフやスポーツデータ配信会社勤務を経て2011年に独立。株式会社DELTAを立ち上げ、野球のデータ分析やプロ球団へのコンサルティングなどを手がける。「デルタ・ベースボール・リポート4」を3月発刊。

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