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安易なコンバートは禁物 守備位置で変わる選手の価値

野球データアナリスト 岡田友輔

「守備の職人」の契約更改で明暗が分かれている。ソフトバンクの甲斐拓也は打率2割2分7厘に終わり、チームも4位に沈んだが、来季の年俸は4500万円増の2億1000万円(金額は推定。以下同)と大幅アップを勝ち取った。「打てる捕手」として鳴らす西武の森友哉と並び、捕手の球界最高額となった。

一方、内野の要の遊撃を守る中日の京田陽太は300万円減の6400万円でサインした。不調による2軍落ちがあったとはいえ、入団から5年連続で規定打席に達して100安打をクリア。打率も前年より1分高い2割5分7厘だったことを思えば厳しい評価だ。

両者の差からは、両球団が守備位置ごとに求める攻守の基準にかなりの開きがあることがうかがえる。ソフトバンクは今年から、守備の負担が大きい捕手はマスクをかぶるだけで評価が上がるように査定の方法を見直したという。143試合に出場した甲斐は、それだけで大きな価値をもたらしたとみなされたのだ。

守備に関する能力はポジションによって大きく変わる。ではその差は具体的にどれほどなのだろうか。異なるポジションの選手同士を比較するために「守備位置補正」というものが存在する。

算出には打撃、守備、あるいは両方を用いた方法があるのだが、データ分析を手掛けるDELTAでは攻守両方に基づく表のような補正値を使っている。例えば遊撃はプラス10.3点。これはひとりの野手が遊撃を守りながらシーズンを通して打席に立った場合、全ポジションの平均的な野手に比べ、10.3点分の貢献を加えて評価することを意味している。高い能力が必要なポジションの選手に下駄(げた)を履かせるわけだ。補正値が高いのは守備の負担が大きいセンターライン。捕手を筆頭に遊撃、中堅、二塁と続く。

一方、長距離砲や外国人が多い一塁や左翼は守りの負担が少なく、補正値はマイナスになる。例えば一塁はマイナス14.1。いいかえれば、一塁を守る選手は全ポジションの平均的な野手に比べて14.1点のマイナスを考慮したうえで他のポジションの選手と比較すべきということだ。

今季の京田をみてみよう。打撃と走塁を合わせた攻撃面の貢献度はリーグ野手の平均に比べてマイナス8.8点だったが、実際の守備で防いだ失点と守備補正値を足すと、守りでの貢献度はプラス13点だった。これらに基づき、控えレベルの選手が出た場合に比べて何勝分を上積みしたかを示す貢献度(WAR)を算出すると、1.9勝分となる。

同じ中日の主砲ダヤン・ビシエドと比べてみよう。一塁手のビシエドは2割7分5厘、17本塁打と京田より打ったものの、補正値を含めた守備面のマイナスが攻撃面のプラスを上回り、WARは0.9にとどまった。控えレベルに比べて1勝分の上積みももたらせず、統計上は京田の貢献度の方が高かったことになる。

このように考えると、安易な「守備の負担を減らすためのコンバート」は、チームの総合力を損なうリスクがあることが分かる。西武の森を例に考えてみよう。森は今季、3割9厘、11本塁打、41打点の成績を残し、両リーグ9位となる89.9点の得点価値を生み出した。守りも合わせたWARは鈴木誠也(広島)の8.7に続き、柳田悠岐(ソフトバンク)と並ぶ7という価値ある選手だ。

しかし仮に森が一塁にコンバートされると、いまと同じ価値を維持するには打撃で120点の得点価値を生み出さなければならなくなる。これは今季、12球団トップだった鈴木の115.3点をも上回る高いハードルだ。「一塁・森」は三冠王級の活躍をして初めて「捕手・森」と同じ価値になるのだ。

今季、3割1分5厘、12本塁打とブレークした坂倉将吾(広島)は今後の起用が最も注目される選手だ。攻撃で19.5点分の価値を生み出しながら、捕手と一塁の出場が半々だったため、守備補正値による上積みがほとんどなく、WARは2.7勝分にとどまった。単純計算だが捕手一本で同じ打撃成績を残したら、その価値は大きく上昇する。

コンバートで守備の負担を減らしたおかげで、打撃成績が飛躍的に向上したというデータ的な裏付けはほぼない。そのポジションで求められる最低限の守備力を備えている前提だが、ポジションが重複している場合や衰えがみえてきたベテランを除けば、捕手や遊撃などを守れる貴重な人材はそのポジションで育てた方がチーム力は高まる。

京田が気の毒なのは、同じセ・リーグの坂本勇人(巨人)やチームの先輩の井端弘和ら打って守れる名ショートと比較されやすいことかもしれない。京田の守備は一流の域にあり、遊撃手としてはバットでも人並みに貢献している。「守備の人」として下位打線にいれば十分に役割を果たしているということになるはずだが、攻撃陣が手薄な中日では上位を任され、坂本のような活躍を期待されてしまう。しかし坂本は球史でも1、2位を争う例外的な遊撃手だ。

数字が残る打撃に比べ、守備での貢献は目に見えにくいという現実もある。今年頭角を現した小園海斗(広島)は2割9分8厘と上々の打率を残したが、遊撃の守りは一人前とはいえず、守備では平均に比べて13.2点も失点を増やしてしまった。このため、WARは1.3勝分にとどまったが、京田よりも小園の方が活躍したという印象を持つファンは少なくないだろう。

高い期待は名誉なことかもしれないが、査定においてまず重んじられるべきなのは合理性だ。選手、球団双方の主観や印象ではなく、合理性と客観性に基づいた年俸交渉が行われることを期待したい。

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