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「夢のアリーナ」誕生 Bリーグ・琉球社長に聞く

琉球ゴールデンキングスの木村達郎社長

沖縄県沖縄市にこのほど、バスケットボール観戦に最適化した屋内施設「沖縄アリーナ」が完成した。天井からつり下がる大型ビジョンや最後列からでも見やすい設計、ビジネス需要を満たす30室のスイートルームなどを備え、米プロNBAに匹敵する「夢のアリーナ」と評価される。同アリーナを本拠地とするBリーグ1部(B1)琉球ゴールデンキングス社長で、建設主体の沖縄市と設計段階から協働してきた木村達郎氏は「人々の時間の使い方が多様化するいまだからこそ、豊かな観戦体験が必要だ」と強調する。

――これまで琉球が本拠地としてきた沖縄市体育館の収容人数約3000人に対し、沖縄アリーナは約8000人(バスケットボール使用時)。4月21日には初のBリーグ公式戦が行われた(新型コロナウイルス感染予防に伴う入場制限で観戦者は3521人)。

「試合には敗れたが、お客様からは新施設を訪れたことへの興奮や楽しんでくれた様子が伝わってきた。5階部分の最後列の席からも『すごく見やすい』という声を聞き、安心した。来場者のカラーになじみ、地域に定着していくと、ようやく完成したという気持ちになると思う」

画一的な観戦スタイルから脱却を

――510インチの大型ビジョンや60台のカメラによる「4D REPLAY」、厨房常設による充実した飲食提供など観客を楽しませる要素が詰まっている。

「スマートフォン片手に様々なコンテンツを楽しめる時代になって時間消費の考え方が変わる中、スポーツ観戦は『所定の日時に来て、この角度から2~3時間見ていてください』という拘束力の強い商品だ。ライブ観戦の喜びを多様にする必要があると考え、見やすさはもちろん、4人用テーブル席や真上から見る感覚になるパノラマラウンジ、カフェのように2人で向き合うシートなどを設けた。コロナ収束後、リモート生活に慣れた人にも『アリーナに行けば絶対に楽しい』と思われないといけない」

「飲食も重要だ。沖縄アリーナではおでんなどの汁物も食べられるし、待機列からコートの一部が見られるなど工夫した。Bリーグの会場ではハーフタイム中に女子トイレが大混雑するため、沖縄市体育館の約8倍となる150個の個室を用意した。最新の映像装置でエンターテインメント性を高めるだけでなく、快適性を追求して観戦体験をより豊かにする必要がある。少子化が進むのに『箱物』がいるのかという議論がよくあるが、だからこそ規模より質が重要だ。日本のスポーツ文化の未来は、画一的な観戦方法のイメージをどれだけ捨てられるかにかかっていると思う」

2月に完成した沖縄アリーナは鉄骨造6階、延べ床面積約2万7千平方メートル。最大1万人を収容する(Bリーグ提供)

――総事業費約162億円の公共施設である沖縄アリーナで、なぜ他にはないしつらえを実現できたのか。

「私がこのアリーナを発明したわけではなく、主に米国の先行事例を市の担当者らと学び、同じ理想像を持てたことが大きい。ボストン留学中の1996年にNBAセルティックスのホームアリーナを初めて訪れ、競技レベルの違い以上に雰囲気に圧倒された。これが原体験だ。その後、(当時はbjリーグの)琉球を立ち上げ、2シーズン目にリーグ優勝すると集客が伸びた。当時は県内各地の体育館を借りて日替わりサーカスのように興行しており、2009年には米国のような観客目線のアリーナの必要性を感じて動き出した」

「県内の他自治体で話が進みかけたこともあったが、暗中模索の時期を過ごし、14年に新アリーナ建設を掲げて当選した沖縄市の桑江朝千夫市長と共鳴することができた。(世界一のアリーナともいわれる)米ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンには桑江市長や市の担当者らと視察に訪れた。施設利用者でもある琉球の立場から設計監修に携わるなど、15年の基本設計以降、様々な意見を伝えてきた」

広島カープを参考に描くサクセス物語

「沖縄市でキャンプを行う広島カープの存在も欠かせない。新球場が誕生して人気が急上昇し、チームも強くなったという好循環のストーリーは、同じように県民球団として成長している琉球と重なる部分が多かった。全社員で球場を訪れ、コンコースを一周回れることや多様な座席などをアリーナの参考にさせてもらった。カープの松田元オーナーからも直接色々なお話を伺い、助言も頂いた。こうした活動を通して、関係者全員がアリーナ建設に向けて主体的に動いてくれたと思う」

――木村氏が社長を兼任する企業「沖縄アリーナ」は19年から同アリーナの指定管理者を務めている。1年間のうち、琉球のホームゲームは30試合程度。試合日以外でいかに稼ぐかが課題になる。

「よく365日のうち335日といわれるが、その分母は必ずしも正しくない。年間の土曜・日曜は104日。その価値が特に高く、その3分の1にBリーグのコンテンツがあることは経営の絶対的な基盤になる。スポーツ界はプロ野球に引っ張られてコロナ禍でも試合を続けられているが、琉球がなかったら沖縄アリーナは完成しても何も行えなかったかもしれない。最近は大空間を活用してイベントを開きたいという企業の需要があり、音楽ライブの話も少しずつ出始めている」

「ワクチン(接種の見通しなど)を考えると来季もBリーグでの8000人収容は難しいかもしれないが、新アリーナのゆったりした中で見てもらえる点は安心感につながる。こういう時代だからこそ『スポーツ観戦で勇気づけられたい』という声は多く、スポーツの存在意義を感じている」

長辺が11㍍もある510インチの大型ビジョンに様々な映像が映し出される(Bリーグ提供)

――沖縄アリーナは23年に日本、フィリピン、インドネシアが共催するワールドカップの1次リーグ開催地にも決まっている。

「大きなイベントも大切だが、いくら有名歌手でも10日間連続でコンサートを見ようという人はそう多くはないはず。でも(結末が分からない)スポーツは10試合あれば、1試合でも多く見たいと思ってもらえる。地域の皆さんがこの施設を反復的に訪れるためにもスポーツは必要だ」

「既に建設が決まったり、決まりかけたりしている自治体やクラブの担当者の訪問を受けると、『もっとすごいものをつくってやる』という気持ちを感じる。様々なところをベンチマークにされて追い抜かれていくだろうが、その分運営で陳腐化せず、現地観戦の価値を向上させ続けたい」

きむら・たつろう 1973年東京都生まれ。筑波大卒、米エマーソン大院修了。2006年、現在のBリーグ・琉球ゴールデンキングスの運営会社となる沖縄バスケットボールを設立。07年に当時のbjリーグに参入して2年目に優勝するなど、人気と実力を兼ね備えたチームをつくり上げた。今季のBリーグでは西地区優勝。Bリーグ初制覇を目指し、今月15日からのチャンピオンシップ準々決勝を沖縄アリーナで戦う。

プロフィットセンターへと転換なるか 後続施設の設備に影響


体育館とアリーナは似て非なるものだ。近年、Bリーグやバレーボール・Vリーグなどの屋内スポーツの本拠地にアリーナと名のつく施設が増えているが、実態は自治体が建てた「競技者のための体育館」である場合が多い。
機材搬入の大型トラックが入れなかったり、試合のたびにビジョンや椅子を設置する必要があったり。興行を前提に設計されていないから、エンターテインメント性を志向するクラブほど大きな負担を強いられる。立地条件が悪ければ稼働率も伸びない。これが経費ばかりかかる「コストセンター」と批判される一因だ。
Bリーグが26年度からトップカテゴリーに入るための要件に収容5000人以上のアリーナを自由に使えることを求めていることもあり、全国で官民による計画が動いている。コロナ禍で整備に逆風が吹いているとされる中、沖縄アリーナが継続して利益を生み出す「プロフィットセンター」となれるかどうかは、後続施設の整備に大きな影響を与えるだろう。
取材中、木村氏は「沖縄アリーナは僕が発明したわけではない」と何度も強調したが、自称「アリーナおたく」の木村氏の熱意や豊富な知識、行政らステークホルダーを巻き込む力がなければこのプロジェクトは実現できなかったと複数のBリーグ関係者は証言する。従来型の施設から脱却するには、長期的なビジョンや強いリーダーシップが欠かせない。
(鱸正人)

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