パの野手、セより平均で2歳若い DHが促す新陳代謝
野球データアナリスト 岡田友輔

このオフ、巨人は2度にわたってセ・リーグに指名打者(DH)制を導入することを提案したが、他球団の賛同を得られなかった。日本シリーズで2年続けてパ・リーグのソフトバンクに惨敗した巨人の危機感は強い。セ・パ格差の一因になっているDH制を採用し、リーグの底上げを図ろうという狙いだ。
DH制により各チームの攻撃力が高まれば、それを抑えようと投手力も向上する。攻守のレベル向上につながる可能性は高まるだろう。しかし近年のDHの運用をみると、それだけではないDH制の効用がみえてくる。
守備には難があってもバットを持てばリーグ屈指の長距離砲。昨年の日本シリーズで満塁弾を放ったソフトバンクのアルフレド・デスパイネのような大砲が投手の代わりにラインアップに入るのが、DH制のイメージだろう。ところが近年、そんな選手は多くない。
昨季のデスパイネは故障の影響などで出場25試合にとどまった。DHでの打席が最も多かったのはベストナインに選ばれた栗山巧(西武)で289、2位は中田翔(日本ハム)で239、3位はアダム・ジョーンズ(オリックス)で231だった。
守備の名手もDHを活用
DH専従で規定打席に達した選手はいない。栗山は左翼手としても135打席、中田は一塁手としてDHより多い265打席に立った。ほかにもDHで100打席以上に立った10人をみると、浅村栄斗(楽天)、山川穂高(西武)、吉田正尚(オリックス)ら普段は守備についている主力が多い。50打席以上まで範囲を広げれば柳田悠岐、中村晃(ともにソフトバンク)、西川遥輝(日本ハム)らゴールデングラブ賞に輝いた守備の名手も顔を出す。なお中田も同賞に選ばれている。
こうした現実からも分かる通り、DHはいまや打撃専門の外国人やベテランの指定席ではなくなっている。長丁場を戦い抜くため、主力の「止まり木」として使われる傾向が強まってきたのだ。

試合に出ながら一休みできるDHの恩恵にあずかるのは主力だけではない。空いたポジションを埋める若手の育成機会にもなる。昨年の日本ハムでは3年目の清宮幸太郎が一塁手として207打席に立った。実力勝負であれば攻守とも中田に太刀打ちできないが、中田をDHに回せるおかげで出場機会に恵まれた。
2020年に出場した選手の平均年齢を算出すると、ほとんどのポジションでパがセに比べて低かった。守備における身体的な負担の多いポジションでは特にこの傾向が目立ち、捕手や遊撃、中堅などでは2歳前後の開きがあった。パが平均26~27歳なのに対し、セは30歳手前というイメージだ。
こうした年齢の差は両リーグの力関係にどのような影響を与えているのか。新型コロナウイルス感染拡大の影響で昨年はなかったが、14~19年の交流戦を検証してみよう。得点獲得能力を示す「wOBA」をみると、代打も含めて大半のポジションでパがセを上回っている。年齢と成績の関係を統計的にみると、攻守を合わせた野手のピークは25~27歳付近と考えられている。両リーグの差は、旬の選手がどれだけグラウンドに立っているかを反映しているともいえる。こうした新陳代謝を促している一因がDH制と考えられるのだ。
パはまとまった打席をもらいやすい
14~19年の打席数別の野手起用数を調べると、シーズン1~99打席に立った打者はセがのべ479人、パが461人でセの方が多かった。ところが100~199打席に立ったのはセの155人に対し、パは175人。守備からの途中出場や代打など細切れの出番が多いセの控え選手に対し、パはまとまった打席をもらいやすい環境にあることがうかがえる。ある程度の打席を任せられるステップを踏んで、主力になっていく形も想定される。

セの球団の多くがDH制に反対する理由は定かでないが、DH向けの選手は年俸が高いというイメージがあることも影響しているのかもしれない。裕福な球団が有利になることへの警戒感である。しかしDHがベテランや外国人のための枠ではなく、チームの新陳代謝を促すものだと考えれば、年俸が上がるとは限らない。それどころか仕組みをうまく活用すれば、年俸の抑制とチーム力の向上を両立させることもできるはずだ。
「DH制は采配の妙が失われる」という反対意見もよく聞く。だが、DH枠をどう運用するかというのも、監督の手腕が問われる大切なベンチワークだ。DH制は選手起用の幅を広げ、チームの総合力を向上させる。セ・リーグはそんな視点も踏まえ、時間をかけて導入の是非を検討してみてほしい。