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飲水タイムは作戦タイム コロナで変わるサッカー

今季のJ1優勝争いの1番手とみられる川崎=共同

2月26日にサッカーJ1の2021年シーズンが始まる。報道番組を見ていると、スポーツコーナーはプロ野球のキャンプ情報で花盛り。特に東北楽天に復帰した田中将大投手の動向を見ない日はない。開幕前に既に楽天は「マーくん」の年俸の元は取れたのではないかと思うくらいの露出量。一足先に開幕するJリーグも負けてはいられない。

優勝争いの1番手は連覇を目指す川崎であることは衆目の一致するところ。アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)との掛け持ちは心配されるが、今年のクラブワールドカップ(W杯)は12月に日本で開催される。Jの王者になれば開催国枠で出場できるわけで、仮にACLで敗れても、そのまますべての戦線でずるずると後退なんてことはないだろう。

オフに柿谷曜一朗(前C大阪)、斎藤学(前川崎)ら積極的に補強に動いた名古屋からは「J」と「ACL」の二兎(にと)を追う本気が伝わってくる。昨季2位のG大阪、鹿島にも十分チャンスはある。

名古屋は柿谷を獲得するなど積極的に補強に動いた=共同

C大阪は、改修工事が終わったヨドコウ桜スタジアムを6月から使用する。球技(サッカー)専用のホームがJリーグにまた一つ増えたのは喜ばしい。Jリーグでホームの通算勝利数が多いのは鹿島、磐田、清水、G大阪と球技専用を主戦場とするクラブ。C大阪もどんどん勝って、対戦相手に「圧」をかけやすい専用スタジアムのメリットを日本中に発信してもらいたい。

昨季とルール上の大きな違いは、今季は全カテゴリーで昇降格制度が復活することだろう。今季はJ2からJ1へは比較的あがりやすく、どのクラブにも大いにチャンスがあると思っている(その反動でJ1から4クラブも落ちてくる来季は相当厳しくなるのだが)。

一方、例年より2増の20クラブで争うJ1は激烈だ。特に、政府の入国制限を受けて、獲得した新外国人選手がいまだ合流できていないクラブは戦力が整うまで、3、4月にいつも以上のプレッシャーを感じるだろう。開幕5試合で一つも勝てないようなクラブはフロントもサポーターも心穏やかではいられない。監督の解任が少なかった昨季から一転、いろんなことを決断しなければならない状況が増えそうだ。

VARの導入、誤審対策として朗報

交代枠は5人が堅持された。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)も今季ついに本格的に導入される。シビアな昇降格レースが展開される今季は一つ一つのプレー、ジャッジに重みが増す。明らかな誤審対策としてVARの導入は朗報だろう。

地味なところでは、今季も引き続きコロナ対策として、試合中の「飲水タイム」が前半と後半の真ん中あたりに設けられることになった(21年7月末まで。8月以降についてその時点で再検討)。

そもそも試合中の飲水はルール違反なわけではない。これまでも、ボールがタッチを割るとか、CKやFKなどのセットプレーで時間的に余裕ができたとき、選手はピッチの周りに置かれた飲水ボトルに手を伸ばしてきた。ただ、試合の展開次第では水を飲む暇もないことがある。それが夏の日中の試合で選手を危険な状態に追い込むリスクがあった。

そこで日本サッカー協会は熱中症対策として、11年からユース(高校生)以下の試合に限り、1分程度の「飲水タイム(ドリンクブレイク)」を設けるようになった。主審はその間、試合を止め、タッチラインやゴールラインなどの近場に置かれた水を選手が飲めるようにしたのである。

さらに16年からは年代に関係なく、「飲水タイム」に加えて、3分程度の「クーリングブレイク」も設けるようになった。こちらはドリンク類の摂取だけでなく、ベンチに戻って日陰に入ったり、氷囊(ひょうのう)で体を冷やしたりすることも推奨された。こういう対策が必要なほど、日本の夏の暑さはサッカーをするには危険になったのである。

「ドリンクブレイク」や「クーリングブレイク」を取るかどうかは、試合前に測定する「湿球黒球温度(WBGT)」という指標によって決まる。WBGTは気温、湿度、日射、輻射(ふくしゃ)などの周辺熱環境を総合して計測する暑さ指数で、気温と同じく℃で示される。小学生年代の試合はWBGTが25℃以上の場合は「ドリンクブレイク」か「クーリングブレイク」を、28℃以上になると「クーリングブレイク」を設ける。WBGTが測定できない場合は、気温31度をWBGT28℃に相当すると考えるそうだ。

過密日程の中で故障防止策にも

Jリーグでコロナ対策として採用されている飲水タイムは、そういう意味では暑熱対策とは発想が異なる。熱中症の心配がない涼しい時期でも「ブレイク」を挟んでいるのは、確実に選手1人ずつに個別の飲水ボトルを手渡すためだ。1つの飲水ボトルを回しのみするのは新型コロナの感染を助長する恐れがある。また超の字がつく過密日程の中では「ブレイク」が試合中のいい休憩になり、回り回って故障防止につながるともされる。

イングランドのプレミアリーグは今季、交代選手の数を5人から3人に戻し、コロナ対策としての飲水タイムもなくした。あちらは夏の暑い盛りに試合をしないのもあるが、私はサッカーの本質に対するこだわりがあるのではないかとにらんでいる。飲水タイムの導入はサッカーの試合を実質的に「90分÷4」のクオーター制にしてしまうからだ。

コロナ禍前のサッカーは監督の指示が強く及ぶのはハーフタイムだけとされてきた。しかし前半の間に1回、後半の間にも1回、各3分間の飲水タイムができたコロナ禍のサッカーでは、その時間が監督の「作戦タイム」としても使われ、チームは態勢を立て直すことができるようになった。私が昨季、実際に見た試合でも、飲水タイム後に点が入るような変化が起きることが多々あった。

交代枠の増員を含め、試合に対するベンチの支配、関与の度合いが増え過ぎるのをサッカー本来の魅力をそぐものとして危惧するのか、サッカーのベンチワークがバスケットボールのようになっていくことを新たな楽しみととらえるのか、その受け取りは人によってさまざまなのだろうが……。

CKを放つ横浜FC・中村。駆け引きでセットプレーをゆっくりやることも=共同

飲水タイムを巡っては中村俊輔(横浜FC)のように、セットプレーをわざとゆっくりやって選手に水を飲む時間をつくる選手もいる。彼独特の間合いもあってのことだろうが、同時に味方の身体も頭も「冷やして落ち着かせる」ことを狙ってのことだろう。時間がなければないで、そういう駆け引きで自分たちで時間をひねり出すのもサッカーの妙という気がするのである。 

興味深いのは大学リーグで、彼らは夏場の試合でクーリングブレイクは設けるものの、コロナ対策としての飲水タイムは導入していないことだ。その代わり、飲みきりサイズの小さめのボトルをピッチの周りに配置し、一度口をつけたら蓋はしないで、複数カ所に用意されたカゴの中に捨てるようにしているという。そうやってコロナ対策と試合を途切らせないことを両立している。大学サッカーの関係者と話すと、その工夫の背後にあるのは、やはり選手から考える力、クリエイティブな力をそぐのを恐れてのことだという。

昨季は三笘薫、旗手怜央(川崎)、安部柊斗(FC東京)、金子拓郎、田中駿汰(札幌)ら大卒新人の当たり年といわれたJリーグ。J2、J3となると大学サッカーの出身者はもっと多い。大学サッカーはそれだけ選手を鍛える努力をしているわけで、ここまでの強度があるリーグはおそらく日本だけ。大学サッカーとの連携は世界にない日本の強みとして大事にしなければと、コロナ禍の今しみじみと思うのである。

(サッカー解説者)  

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