大谷翔平、同僚トラウト封じ「ベストの瞬間」 WBC優勝

大谷で始まったWBCは、大谷で終わった。九回のマウンドに右腕が立つ。それだけでも劇的な展開だが、全てはこの結末を迎えるためにあったのかと思うようなシナリオが待っていた。
先頭打者を四球で歩かせたが、1番ベッツを併殺に打ち取り2死無走者。まさか優勝を決める最後の打者にエンゼルスの同僚、トラウトを迎えることになろうとは。大リーグでMVP経験のある日米のスターの直接対決は運命めいていた。
100マイル(約160キロ)を超える速球で追い込み、フルカウントからの勝負球には外角へのスライダーを選んだ。「打者と投手の間合いの中で球種を選択した」。トラウトのバットが空を切ると、グラブを投げ、帽子を放り投げてほえた大谷に仲間が駆け寄った。「世界一の選手になりたい」と海を渡った大谷は投打の二刀流で大会MVPに輝き、「間違いなく今までのベストの瞬間」と表現した。

栗山監督は決勝での登板を、「可能性はゼロではない」と言ってきた。球団と綿密にコミュニケーションを取り、本人の体の状態も確認して進めた起用法。日本ハム時代から二人三脚で歩んできたからこそ、その機微はわかっている。「日本の野球がメジャーに近づくために、とにかくこっち(米国)に来て試合をして勝たないと前には進まないと、僕はずっと思ってきた」。若手が臆することなくメジャーの一流打者に立ち向かい、ダルビッシュと大谷につなぐ。大会日程が出て考え始めたこの継投は、そのための一手だったのだろう。「2人とも、あるタイミングで『行きます』と言ってくれた」ことでプランはできあがった。
負けたら終わる緊張感のある戦いを大谷自身も望んでいた。準々決勝のマウンドでの雄たけび、準決勝のメキシコ戦でサヨナラ勝ちに導いた、ヘルメットを脱ぎ捨てての二塁への全力疾走。ベンチで仲間の一打に喜び、悔しがる。感情を素直に表現する姿はなかなかお目にかかれない光景だった。
栗山監督はどれほど活躍しても褒めることをしないが「一流選手ですごいと思うのは、自分の中でこれをやりたいと思ったら誰が何を言ってもやりきってしまう。判断基準が周りにはない」と語ったことがある。まさに大谷は道なき道を進み、二刀流を唯一無二のものにした。そのサポートをしてくれた恩師と再びタッグを組んで一緒に目指した世界一。「こういう形で一緒にやると思っていなかったので本当にいい経験をさせてもらった。最高の形で終われて素晴らしい大会だった」とまな弟子は感謝する。

試合後のセレモニーでメダルをかけた大谷は純粋無垢(むく)な笑顔をみせていた。「日本の野球が世界に通用する、勝てるんだとみんながひとつになったこの期間、本当に楽しかった」
(渡辺岳史)
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