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コロナ下、「サッカーの火」消さず 団結・協力の1年

サッカージャーナリスト 大住良之

J1で独走Vの強さを見せた川崎は最終節の柏戦にも逆転勝ち=共同

全人類を災禍に巻き込んだ2020年が暮れようとしている。

20年の日本サッカーは、新時代の始まりを予感させるヴィッセル神戸の初タイトルで幕を開けた。イニエスタを中心に卓越した「個」をピッチに並べ、組織的に動かす攻撃で切り開くサッカーは、欧州のトップクラブを思わせるもの。神戸がJリーグでもタイトルに迫り、新しい時代が到来するのではないかと期待された。

2月に新シーズンが開幕。アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で見せた日本勢の序盤での強さ、なかでも横浜F・マリノスの圧倒的な力は、日本勢として5回目の「アジア王座」への期待をかきたてるものだった。

J1の全306試合でのビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)導入で注目された今季のJリーグ。だがわずか1節を消化したところで中断にはいる。19年12月に中国の武漢で初めて新型コロナウイルス感染者が発症したとされるが、急激に世界に広がり始め、日本でも感染が拡大しつつあったためだ。その後、日本政府が「緊急事態宣言」を出したこともあり、Jリーグの中断は実に4カ月に及んだ。

日本代表も大きな影響を受けた。本来なら、3、6、9、10、11月に、それぞれ9日間の活動が予定され、そのなかでワールドカップのアジア第2次予選、さらには第3次予選(最終予選)が行われるはずだった。しかし新型コロナのパンデミック(世界的大流行)により、3月、次いで6月の国際試合が中止になり、さらにはアジアでは9月も活動できないことになった。

Jリーグの中断や日本代表の活動停止以上に日本のスポーツ界にショックを与えたのは、7月から8月にかけて開催されることになっていた東京オリンピックの1年延期だった。この大会の男子サッカーに参加するU-23(23歳以下)日本代表は、1月にタイで行われた「U-23アジア選手権」で1分け2敗の惨敗。主力となる「欧州組」の多くを欠いていたとはいえ、懸念が広がった。

しかしオリンピック自体が1年間延期になり、チームづくりも完全に仕切り直しとなった。1月からまったく活動のなかったU-23日本代表は、今週、「国内組」だけを集めてトレーニングキャンプを行っている。来年は、3月と6月、7月に日本国内で国際親善試合を計6試合こなし、東京オリンピックに臨む。

Jリーグは約4カ月中断し、J1は7月4日に再開、12月19日までに全34節をこなす日程をたてた。およそ3週に1度、水曜日に試合がはいる日程だった。しかしすぐにACLが10月から11月にかけて集中開催で行われることが決まり、出場3クラブ、横浜M、神戸とFC東京のその間の試合は、空いている水曜日などに前倒しする日程に変更された。ACLは再度、11月から12月にかけての開催に変更になり、Jリーグは「これ以上の変更は無理」という日程からさらに試合を動かさざるをえなかった。

横浜Mは過酷な日程が響きJ1で9位にとどまった=共同

その結果、横浜Mはカップ戦も含め「22連戦(中2日あるいは3日で22試合)」という非常に過酷な日程となり、疲れ切ったうえに故障者も増えてJリーグでは中位にとどまった。

再開にあたり、Jリーグは万全の感染予防対策を講じるとともに、全クラブが協力して試合をやり抜くことを確認、ACL出場クラブだけでなく、当然、その対戦相手にも日程の不利が生じたが、そうした事態に誰も不平を表すことなく戦い続けた。12月20日までに全試合(J1からJ3まで全1074試合)を開催しきったのは、称賛に値する。

Jリーグは全クラブの全選手、スタッフ、チーム関係者に定期的に(2週間に1度)PCR検査を実施、数クラブで感染者が出て、2クラブの試合が延期になったが、大きなクラスターが出て試合を消化できないという事態には陥らなかった。さらに入場者の感染予防も万全で、無観客から徐々に入場者を増やし、原則収容数の半数まで戻した。Jリーグの観戦が原因のコロナ感染はいまのところ報告されていない。

過密日程を考慮して国際的に交代を5人にすることが認められ、充実した攻撃陣をもつ川崎フロンターレが大独走。年間勝ち点83と、これまでの最多記録を9点も更新する強さを見せた。その一方で、過密日程であること、今季は降格がなくなったことを考慮し、若手を大胆に起用するクラブも複数見られ、今季はかつてないほど若手が躍動し、Jリーグに新しい魅力を与えた年となった。再開後は、レフェリーの移動も最低限に抑えようとVARは取りやめにし、こちらも21年シーズンからの仕切り直しとなる。

今季のJリーグでは川崎のルーキー、三笘薫(右から2人目)ら若手が躍動した=共同

一方、10、11月に予定されていたワールドカップ・アジア第2次予選の残り4節が来年に延期になり、「今年は活動なしか」と思われていた日本代表は、10月にオランダを、11月にオーストリアを舞台に4試合をこなすことができた。日本から選手を招集すると帰国後2週間の自主待機期間があるため、全員欧州のクラブに在籍する選手でチームを組んだのは史上初であり、画期的なことだった。

その日本代表には、7人もの「U-23選手」、すなわち東京オリンピックの候補選手もはいり、代表の合宿と試合出場を通じて大きなものを吸収する機会を得た。東京オリンピックでは彼らが中心になるはずだ。

11月の日本―メキシコ戦の後半、競り合う久保建英(手前右)=ロイター

ワールドカップ予選の延期が決まったのは8月12日。「それなら欧州で親善試合をやろう」という日本サッカー協会の田嶋幸三会長のアイデアで、通常なら半年以上かかる国際試合の準備をわずか2カ月間で完了し、選手にもスタッフにも感染者を出さずに実りある活動につなげたのは、同協会の組織力のたまものだった。

未曽有の災禍に襲われたとき、Jリーグの村井満チェアマンや田嶋会長のような真のリーダーシップをもった人の下で働くプロフェッショナルな集団がいたこと、そしてその仕事を受けて、関わるすべての人が団結し、協力して「サッカーの火」を絶やさなかったことは、20年の日本サッカーの大きな幸運だった。

だが21年は、もしかしたら、20年より大変な年になるかもしれない。それを乗り越える力は、団結と協力にしかない。

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