/

クラブ化を強制せず 時流に合ったソフトボール新リーグ

スポーツコンサルタント 杉原海太

3月28日(ZOZOマリンスタジアム)、ビックカメラ高崎とトヨタ自動車の開幕戦で女子ソフトボールの新リーグ、JDリーグ(ジャパン・ダイヤモンド・リーグ)が旗揚げする。昨年夏の東京五輪で見事金メダルに輝いた女子ソフトは、これから新リーグとともに競技の普及と振興、社会貢献活動に取り組んでいく。その挑戦に私は非常に引かれるものを感じている。

JDリーグに参加するのは16チーム。それを東西8チームずつに分けて、レギュラーシーズンを戦う。

東はHonda Reverta(栃木県真岡市)、ビックカメラ高崎BEE QUEEN(群馬県高崎市)、太陽誘電ソルフィーユ(同市)、戸田中央総合病院メディックス(埼玉県戸田市)、日立サンディーバ(横浜市)、大垣ミナモ(岐阜県大垣市)、NECプラットフォームズRed Falcons(静岡県掛川市)、デンソーブライトペガサス(愛知県安城市)の8チーム。

西はトヨタ自動車レッドテリアーズ(愛知県豊田市)、豊田自動織機シャイニングベガ(愛知県刈谷市)、東海理化チェリーブロッサムズ(愛知県大口町)、日本精工Brave Bearies(滋賀県湖南市)、SGホールディングスギャラクシースターズ(京都市)、シオノギレインボーストークス兵庫(兵庫県尼崎市)、伊予銀行VERTZ(松山市)、takagi北九州Water Wave(北九州市)の8チーム。レギュラーシーズンの中には東西の交流戦も含まれる。

レギュラーシーズンを経て東西の順位が決まった後はポストシーズンのプレーオフに突入。勝ち抜いた東、西のそれぞれの覇者は年間チャンピオンの座を懸けて「ダイヤモンドシリーズ」を戦う。リーグ全体のタイトルパートナーは家具・日用品大手の「ニトリ」だ。

運営団体の役員には各界のプロがずらり

JDリーグを運営する一般社団法人日本女子ソフトボールリーグ機構の島田利正・初代チェアマンは、プロ野球の北海道日本ハムファイターズの役員を長く務めた球団経営のプロ。女子ソフトボールの名将、宇津木妙子さんは機構の副会長を務め、法務・コンプライアンス担当理事に弁護士の菊間千乃さん、競技普及・振興担当理事に元プロ野球選手の古田敦也さんもいるのが目を引く。

私がJDリーグを興味深いと感じるのは「プロ化をきっかけに女子ソフトをメジャースポーツにする」というような力みがないことだ。

日本の球技スポーツはプロの大先輩として野球があり、それにサッカーのJリーグが続き、男子バスケット(Bリーグ)などもプロ化に踏み切った。彼らに共通するのはチームとリーグのプロ化が基本的にセットであることだ。

チームのプロ化とは何か。アジアサッカー連盟(AFC)で働き始めたころ、上司に言われたのは「チーム」と「クラブ」の違いを理解しろということだった。「チーム」とは選手と監督、コーチやトレーナーなどのテクニカルスタッフで構成された競技系の現場集団のこと。そこに運営の仕事に携わる事業系の専門集団が加わって、チームは初めて「クラブ」と呼べるものになるのだと。そして競技系、事業系の両部門でプロの専門集団を抱えたプロクラブで構成されたものが、プロリーグであると。

Jリーグはその典型だろう。G大阪を例に取れば、日本サッカーリーグの時代は松下電器産業(現パナソニック)という企業内のサッカー部だったものが、Jリーグを契機に分社化して別法人となって独立した。そうなると、いやが応でもG大阪というクラブとして自立して経営をしていかなければならない。それは、いばらの道ではあるけれど、プロのクラブ、プロのリーグなら万国共通の形だった。

実業団のままでOK、参加チームに「分社化」求めず

JDリーグが目指すものは、ひと味違う。事業機能はプロ人材を集めたリーグ本体が持ってプロモーションやマーケティングに従事する。一方、参加するチームに対してはこれまでどおり、実業団チームの形を取り続けることを否定しない。「分社化」だの「独立した法人」だのといったクラブ化へのハードルを課さずに「チームのままでいいよ」というわけだ。

私にはこれが、日本独特のスポーツの在り方である企業スポーツのバージョンアップの仕方として、かなりいい線を突いている気がしてならないのである。

1993年にスタートしたJリーグの成功以来、日本のプロ化の制度設計はここ30年くらい、私から見ると、企業の論理だけで動かない「地域クラブ」というアンチテーゼを示した、いわば「Jモデル」が力を持ち続けたように感じる。実際、バブル経済崩壊とともに企業の論理で休部・廃部が相次いだ90年代、Jリーグが対抗軸として「地域密着」「社会貢献」等を掲げたことは真に卓見だった。

しかし、その一方で「この指、とまれ」という形でプロリーグの新しい仲間を募るとき、Jリーグに倣って指の位置(理想)を高くして結局、ダメになるということもこれまであった気がするのだ。

時代は何周も回り、「昭和のメセナ」「平成のCSR(企業の社会的責任)」「令和のSDGs(持続可能な開発目標)」という変遷の中で、今は企業も地域や社会への貢献活動を率先して行うようになった。社会的責任を自覚した企業は、その際にスポーツが有効なリソースになることも理解している。JDリーグが地球環境や地域コミュニティーなどの「社会」に役立つ活動と両立する形で打ち出した「企業スポーツに〝優しい〟姿勢」は、そういう時代の変化に非常にマッチするのではないだろうか。「地域密着」や「社会貢献」が「企業スポーツ」のアンチテーゼとなった90年代とは時代が異なるのだ 。

社員同士の「一体感の醸成」にも期待

企業とスポーツの関係でいうと、昔の実業団スポーツは、学校の部活の延長線上としてとらえられていた。会社の福利厚生の一環、社員みんなで応援することで一体感の醸成を図るというような構造だった。この一見古めかしく見える概念を、JDリーグが積極的に使うと面白いとも思っている。

というのも、現代の若者たちの社会活動への関心は、私のような年かさの人間からすると驚くほど高い。ソフトボールのチームを持っている企業が社会貢献活動に関わるとしたら、自ら参加を申し出る社員は結構多いと思うのである。それを「強制参加」にしたら「昭和」になってしまうけれど、今の働き方や自主性を尊重してうまく使えば、令和の時代の福利厚生として十分に堪えられるものになる気がするのだ。

チームを持つ企業は親会社,・グループ企業を含めれば、すごい数の従業員を抱える。在宅勤務が増えた昨今、たまには野球場というオープンエアな空間に集まって、社員同士でチームを応援するのは、それこそ「一体感の醸成」に役立つのではないだろうか。従業員のコミュニケーションを活発にし、人材開発や組織開発にもつなげることができるのではないだろうか。

昔は社内報とか社員食堂のポスターが情報の告知や回覧に使われたけれど、IT化が進んだ今はもっと伝達手段は洗練されている。社員を対象にするなら、JDリーグをリーチさせる手段には事欠かないだろう。もちろん、それは地域へのアピールにもなる。企業の中のたくさんいる従業員は、地域の一市民でもあるのだから。社員限定などといわず、連れてきたい人をどんどん連れてきてもらえばいいと思う。

リーグというものは制度設計をうまくすれば、競技的、商業的に必ず成功するわけではない。仕組みが勢いをもって回るようにするには着火剤が必要。Jリーグも制度設計をきちんとした上で、川淵三郎チェアマン(当時)の左脳、右脳の両方に訴える発信力、日本代表の躍進、カズ(三浦知良)らスターの登場など、着火するものがあったからうまく稼働したと思っている。逆に着火しても仕組みがないと稼働しない。それは「金メダルを獲得しても何も変わらなかった」と語るマイナー競技のアスリートの嘆きによく表れている。

そういう意味でJDリーグにも着火剤は必要なのだろう。それは何か。例えば、五輪競技に復活できたら、4年に1回、火をつけるものができることになるが……。

事業機能をリーグに集約するということは、チームは競技に専念できる半面、リーグの責任は重いことになる。これも一つのチャレンジになるのだろう。

それでも、JDリーグには大いに期待してしまう。彼らは企業スポーツも地域密着も両方ウエルカム。社会課題の解決などと大上段に振りかぶらずに「ソーシャルグッド」という言葉とともに、シンプルに「ソフトボールで社会に笑顔を」と前向きに、明るく訴える感じもいい。その向こうにソフトボール選手たちの日に焼けた笑みが浮かぶようである。JDリーグがうまく軌道に乗り、企業スポーツ文化の日本において、プロリーグをつくるということ以外の、日本型の新たな選択肢が増えることを期待してやまない。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン