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大谷翔平の「FIRST PITCH, FULL SWING, THAT'S IT」

スポーツライター 丹羽政善

ヤンキースとカブスがタイトルを争った1932年のワールドシリーズ。リグレー・フィールドで行われた第3戦では、ベーブ・ルースが予告本塁打を打ったと伝わる。

諸説あり、真相は定かではないものの、現存する映像では、確かに右手でセンターの方向を指さしている。いや、相手投手を挑発しているだけとも映り、ルース本人は後年、「狙った」と話しているものの、やや記憶が曖昧。いまとなっては証明しようがないが、歴史は、グレーなままの方がいいこともある。

一方、さすがに外野席を指さすことはなかったが、大谷は今年、ロサンゼルスのドジャー・スタジアムで行われたオールスターゲームの第1打席で、明確に本塁打を狙っていた。

18日の前日会見では、「ホームランを狙ってしっかりスイングしたい」と口にし、試合当日、打席に入る直前のフィールドインタビューでは、「マウンドには、クレイトン・カーショー(ドジャース)がいる。今夜、どんなオールスターにしたいか?」と聞かれ、こう宣言した。

「FIRST PITCH, FULL SWING, THAT'S IT」(初球、フルスイング、それだけ)

初球、フルスイングでホームランを狙う。英語で予告本塁打は、"called shot" と表現するが、米USAトゥデー紙は電子版の速報で、"Shohei Ohtani calls his shot"と見出しをうった。

このとき、マウンドで投球練習をしていたカーショーは、どうその言葉を聞いたのか。

「振るって言ってるからには、投げにくいとは思いますよ」と大谷は笑ったが、果たしてカーショーは、真っすぐで真っ向勝負を挑んできた。

「オールスターゲームの初球に、カーブなんて投げられないだろ?」

カーショーは、そう言って記者から笑いを誘うと、続けている。

「真っすぐを投げなければいけないと思った。持てるすべてを尽くして」

得意のカーブを投げることもできた。大谷の誘いにのらず、ボールを投げて気勢をそぐこともできた。しかし、真っすぐを、しかしゾーン内に投げたのは、リーグ屈指のエースの意地でもあったか。

大谷は、宣言通り、初球をフルスイング。外角のストレートを捉えたが、バットの先。バットが折れ、打球はセンター前に落ちたが、ホームランを狙っていただけに、「一番中途半端な打球」とがっかり。対するカーショーは、「フェンスを越えなかった。少なくともバットをへし折った」と、勝ったかのようだった。

さて、打者が初球を振ると宣言して打席に入るケースなどシーズン中はありえず、球宴だからこその"ショー"だったわけだが、カーショーが言ったように、それを聞いた相手投手は、やはり、真っすぐで勝負しなければいけないのか?

大谷の2打席目の相手だったジョー・マスグローブ(パドレス)は、「大谷は、ああやって仕掛けて、カーショーに真っすぐを投げさせようとしたのかな」と苦笑し、少し考えてから言った。

「必ずしも、ストレートを投げなくてはいけない、というルールはないと思う。自分の持っているベストの球。暗黙のルールがあるとしたら、それが礼儀かな」

いまでこそ、カーショーのフォーシームの平均球速は90マイル(144.8キロ)台前半に落ちたが、20代の頃の平均は90マイル台後半。確かに大きく縦に割れる彼のカーブは決め球でもあるが、やはりカーショーの源流はパワーピッチャー。あの1球で、かつての姿がよみがえった。

チェンジアップが絶対的な決め球で、被打率が1割8分7厘、空振り率が48.8%というデビン・ウィリアムズ(ブルワーズ)には、「きょうの大谷のように、打者が初球を振ると宣言して打席に入った場合、何を投げる?」と聞いてみた。

すると彼は、「きょうは(七回から登板し、1イニングを1安打、無失点)、相手が明らかにチェンジアップを待っているのがわかった。接戦だったから、そう感じたときはフォーシームを投げたけど、試合開始直後の初球かぁ」と、やはり少し考えてから言った。

「チェンジアップかな。自分の中で最高の」

メッツのクローザーで、マリナーズ時代に大谷と対戦し、4打数4三振の対戦成績が残るエドウィン・ディアスにも同じ質問をすると、彼は即答だった。

「真っすぐ。しかも、最速を出すぐらいのイメージで」

今季、彼のフォーシームの平均球速は99マイル(159.3キロ)。自己最速は今年6月25日に記録した102.6マイル(165.1キロ)。それに匹敵する球を見てみたかったが、なにより大谷がどんなスイングで迎え撃つのかを見てみたかった。

「僕も、対戦したかった」。ディアスもそう言って、笑みを返した。

とはいえ、カーショーとの駆け引きは、やはり見ごたえがあった。

「どんな球が来ても振る準備はしてました」と大谷。「ストライクがきても、ボールがきても」

カーショーもその気持ちに正面から応えた。

なお、直後のけん制についてカーショーは、「何を投げようか迷ったので、一塁へ投げて、時間を稼いだだけ」と振り返っている。決して、刺そうという狙いではなかったようだが、大谷は、「機会があれば走りたいとおもっていた」そう。その気負いが裏目に出た形だが、「あんまり(けん制が)来る感じはしなかったので、よくも悪くも名前が出てくればいいと思います」と苦笑い。

2008年以来、球宴では14年ぶりのけん制死も、今年のオールスターを彩る1シーンとなった。

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拝啓 ベーブ・ルース様

米大リーグ・エンゼルスで活躍する大谷翔平をテーマに、スポーツライターの丹羽政善さんが彼の挑戦やその意味を伝えるコラムです。

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