村上宗隆「日本の主砲」の面目躍如 起死回生サヨナラ打

徳俵に足がかかって迎えた九回、まさに筋書きのないドラマが待っていた。
先頭で大谷を迎える打順の巡り合わせに何かが起きそうな予感が漂う。初球、外角に腕を伸ばして右中間を割った。ヘルメットを飛ばし、二塁へ全力疾走。闘志をむき出し、ベンチに向かって雄たけびを上げる。諦めない姿勢を自ら示してチームを鼓舞した。
続く吉田も冷静に四球を選んで無死一、二塁。5番・村上はここでバントも覚悟した。この日はことごとく好機で音無し、3連続三振を含む4打席凡退。チームの勝利を優先するがゆえに芽生えた迷いを、栗山監督の言葉が振り払った。
「ムネ(宗隆)に任せたって。思い切っていってこい」
伝令として歩み寄った城石内野守備・走塁兼作戦コーチから伝えられた監督の一言で、悩める大砲が腹をくくるには十分だった。
吹っ切れた力強いスイングで捉えた打球は左中間のフェンスを直撃した。2人が生還して歓喜のサヨナラ勝ち。「彼を信じる気持ちは揺るぎないものがある」。昨秋の強化試合から中軸を任せてきた栗山監督の信頼に応える、日本の主砲の面目躍如だった。

1次リーグから調子が上がらず苦しんでいる姿を見てきた吉田がいう。「彼の本来の調子はまだ出ていないと思う。でも、彼が積んできたキャリアは認めているし、彼を信じていた」。こうした不振を振り払っての復活劇は「侍ジャパン」で繰り返し紡がれてきたストーリーでもある。2006年大会の準決勝では代打福留が2ランを放ち、09年はイチローの決勝打で2連覇した。起死回生を遂げる主役の系譜に、村上もこの大一番で名を連ねたことになる。

あの場面、一塁走者に周東を代走起用していたことは首脳陣の好判断だった。一気に本塁まで長駆した足のスペシャリストは「自分が行く場面をイメージしながらいった」。華々しい一打に隠れがちではあっても、周東の体現したそつのない走塁もまた、日本の野球の勝負強さを支えている。
3大会ぶりに準決勝の壁を越えた。「なかなか突破口がない中で、野球ってすごいなと感じたし、見ている人にもそう思ってもらえたらうれしい」と栗山監督。野球発祥の国、米国と決勝の舞台で戦って頂点に立つ。描いていた夢の実現が、目の前に訪れようとしている。
(渡辺岳史)
【関連記事】
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)

日本代表「侍ジャパン」が3大会ぶり3度目の優勝。大リーガー・大谷翔平や日本代表では初の日系人選手となるラーズ・ヌートバー、メジャーに挑戦する吉田正尚らが活躍。世界一を14年ぶりに奪還した選手たちの最新ニュースをお伝えします。