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大谷翔平とイチロー、MVP2人に共通する思考

スポーツライター 丹羽政善

think!多様な観点からニュースを考える

先週1週間で、2つほどもやもやが解消された。

まず、一つ。10月終わり、「ルールを作らないというルール リアル二刀流、決断前夜」というタイトルの記事の中で、エンゼルスのジョー・マドン監督が、「大谷ルール」(先発の前後は休ませ、投げる日は投手に専念させる)を撤廃し、大谷翔平の起用に柔軟性をもたせるに至った経緯を振り返った。

今回のア・リーグ最優秀選手(MVP)受賞は、制限のない二刀流で結果を残した歴史的偉業が評価され、それはあの提案が起点となっているわけだが、どうしてもふに落ちないことがあった。

トミー・ジョン手術(靱帯再建手術)からの復帰を目指した2020年、右前腕屈筋群を損傷し、投手としては2度先発しただけ。打者としても44試合に出場し、7本塁打、打率1割9分と低迷。いかにその前の2年間でポテンシャルを示していたとしても、そのレベルの選手に裁量を与えることは、他の選手から反感を買いかねない。

ペリー・ミナシアン・ゼネラルマネジャーと一緒に考えた起用の枠組みを大谷に伝えたとき、「ショーヘイはほほを緩めた」とマドン監督は振り返り、「あの笑みが、今年交わしたやり取りの中で一番印象に残っている」と話したこともすでに紹介したが、その笑みをマドン監督は「大谷も望んでいる」と捉えた。

果たして、それは正しかったのか。常に自分を客観視できる大谷なら、 「このおっさん、大丈夫か?」――そう、あぜん失笑したと考えたほうが、まだ、しっくりくる。提案そのものの真意もはかり兼ねていたので、MVP受賞後の電話記者会見で大谷自身に受け止めを聞くと、ようやく腹に落ちた。

「そうですね……。まぁ、プラスの部分ももちろん、ポジティブな部分ももちろん、あるとは思いますし、そこに対して自分で頑張りたいなという気持ちが出てきたのもあるんですけど」

けど? 「どちらかというと、なんて言うんですかね、『ある程度(二刀流が)形にならなかったら、この先考える必要があるんじゃないかな』っていうニュアンスかなというのもあったので、それは五分五分かなっていう感じですかね」

マドン監督の言葉だけで判断するなら、後者の意図を読み取ることは難しかったが、実際はそういうことだったのか。笑みには、解放に対する喜びがにじんだ一方で、極端な言い方をするなら、退路を断たれた、という厳しい一面も。その含みを感じ取り、提案に対して即答を避けたのは、覚悟を整理する時間を要したから、ということか。いつか、その思いも尋ねてみたい。

もう一つは、シーズンの最後にイチロー(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター、以下敬称略)が、シーズンの最後に残した言葉について。それは、以下の記事で触れたが、最後にこう締めくくられている。

「アスリートとしての時間は限られる。考え方は様々だろうが、無理はできる間にしかできない。2021年のシーズンを機に、できる限り無理をしながら、翔平にしか描けない時代を築いていってほしい」

この二律背反するようなこの言葉を、大谷はどう解釈したのか。やはりMVP受賞後の電話会見で問われると、「無理というのはその、ケガをするまでやりなさいとか、そういう意味ではないと思う」と答えてから、こう続けた。

「ピークでいられる時期というか、選手として、いいパフォーマンスを保てる時期っていうのはそう長くはないので、本当に時間の制約というか、そういうタイムリミットというのは毎年、近づいている。その中で自分の能力を伸ばせる時間はそんなに多くはないので、そういう時間を大事にしながらやりなさい、そういう意味だと捉えた」

大谷は、「選手としてここからピークを迎える、5~7年ぐらいはもっともっと勝負の年じゃないかなと思う」とも決意を口に。長いようで、アスリートには短く感じるそうした時間を無駄にするな――そう受け止めたようだった。

ところで、日本人選手によるMVPの受賞はイチロー以来となったわけだが、2人にはやはり共通する思考がある。15日、大谷が日本記者クラブで会見を行った際、子どもたちへのメッセージを求められ、こう切り出した。

「プレーする側としては、夢を与えようとか、元気を与えようというのは、まったく考えていない」

夢、元気。ともに前向きなワードではある。しかし、そうした紋切り型の言葉が子どもたちの心に響くかどうか。もちろん、あの会見そのものは、試合後のやり取りとは違って、広く、浅く、という感じだったので、多少手あかのついた受け答えで流しても構わなかったはずだが、「そう受け取ってもらえたらうれしいと毎日頑張っている。特に野球をやっている子はうまい選手を目標に頑張ると思うので、僕自身、それに値するような、目指されても問題のないような人間として今後も頑張っていきたい」と自らの価値観にまで踏み込んだ。

それを聞いていてよみがえったのは過去の記憶。12年春、マリナーズ対アスレチックスの開幕戦が日本で行われ、この興行を大リーグ機構は、前年に東日本大震災が起きたことから復興支援と位置づけた。来日するチームとしてマリナーズが選ばれたのは決して偶然ではなく、イチローをその象徴に据えたのである。ただ、イチロー自身はあの開幕戦を「特別」とは形容したもののリーグの思惑に当惑し、ゴールは同じでも、アプローチの違いを否定しなかった。

「それ(復興支援)は、目的にはできない」

どういうことなのか。その問いに対してイチローはこう補足した。

「人の心を動かすとか、勇気を与えるとか、感動を与えるとか、よくあるフレーズですけど、それが目的となったら無理。そんなの与えられるわけがない。なるとしたら結果としてそうなるだけ。目的としている人は、その目的を絶対達成できない。だから僕はそんな思いは持てない」

支援に限らず、人との関わりにおける本質を突き、野球が持つ力が、何を示せるのかという問いに対しても、考えはブレなかった。

「示そうとすることもそれに値する。示そうとすることが示されることはない。結局、受け手側がどう感じるかの問題ですから。受け手側が何かを感じたとしたら、結果的にそうなったといえるだろうし、ただ、やる側がそれを目的としてやって、受け手側にそれが伝わることなんてない」

そうであるなら、イチローには何ができるのか? 

「その価値観をもってやること」

目的ではなく、あくまでも結果。 そこを履き違えると、伝わるものも伝わらない。大谷の言葉の中にも同じ価値観が貫かれ、それぞれの点と点が、線で結ばれた。2人のプレーに多くが魅了されるのも、決して偶然ではないのかもしれない。

さて、MVPの発表で大リーグの受賞関連のニュースも一区切り。しかし、まだまだ今年の大谷を、彼が残した言葉も含めて、整理しきれていない。来月以降も様々な視点から、歴史的な1年を振り返っていきたい。

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