Jリーグ、新観戦スタイルを模索 オンラインで一工夫
コロナ禍1年 スポーツの今②
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けたサッカーのアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)東地区。本来ならば、ホームアンドアウェー方式で開催され、日本の代表クラブという誇りを胸に多くのサポーターがアウェーの地にも駆けつけるが、昨年2月から中断されていた残りの試合は同11、12月にカタールでの集中開催となった。海外での無観客となったACLへの関心が薄れぬよう、Jリーグや当該クラブの努力がそこにはあった。

「うぉー!」。再開初戦となった11月25日の上海上港(中国)戦。試合終了間際の90分、横浜M・天野のシュートがゴールネットを揺らすと、パソコン画面に映った横浜Mのアンバサダー、波戸康広氏とクラブシップ・キャプテン、栗原勇蔵氏のクラブOBが叫んだ。横浜Mの勝利で終わった後も、興奮冷めやらぬチャット欄は大盛り上がり――。
横浜Mは再開されたACLグループステージの2戦を、オンライン観戦のチケット購入者に配信した。チケットは1枚千円で、スタジアムグルメの詰め合わせが事前に届くチケットは4千円。観戦者は2戦合わせて3000人を超えた。

試合映像をただ配信するだけでなく、クラブのOB選手2人とオンライン上で一緒に観戦する「チアパーティー」と位置づけた。視聴者がOB選手と会話したり、チャットを使ってコメントしたりできる「応援ルーム」と、サッカー解説の人気ユーチューバーが出演する「戦術分析ルーム」を設けて観戦者が自由に行き来できるようにすることで、クラブのサポーター以外も取りこむ参加型のイベントに仕立てた。
横浜Mの担当者は「配信する映像はテレビと同じでも、応援したいサポーター向けや戦術視点で見たいファン向けに特化した映像音声があることで、観戦の楽しみ方が広がる。現地での応援ができない中で、新しい観戦スタイルを提供しようと考えた」と話す。
横浜Mは全日本空輸(ANA)とタッグを組んで、ACLのオンライン遠征ツアーも実施。自宅にいる参加者が、応援キットを手に客室乗務員とやりとりするバーチャルフライトを体験後、カタールで練習するチームの動画を波戸氏の解説付きで楽しんだ。サポーターの満足度を高める仕掛けをあの手この手で捻出した。
Jリーグもサポーターの関心を引くため、初の試みに踏み切った。ACLに出場した3クラブの日々の動向を追う動画を投稿サイト「ユーチューブ」の公式チャンネルで毎日配信。各クラブから練習風景や記者会見の様子、選手へのインタビューなどの動画を集め、1本にまとめて投稿した。Jリーグ広報部の吉田国夫氏は「普段は応援していないチームでも、ACLならみんなで応援できる。3クラブを1本にまとめた動画がファン・サポーターのニーズに合っていた」と語る。
日本から出向く報道陣がゼロだったことが、Jリーグに危機感をもたらしたという。横浜Mは広報担当者が記者から質問を募り、会見場で代わりに質問する異例の体制をとった。「練った企画動画で話題になるよりも、日々の動きをこまめに伝えることも重要という教訓を得た」と吉田氏。新型コロナで人の移動が制限されるなか、ファンにサッカーの魅力や臨場感をどう発信するか。この1年で得た学びは今後につながる。
(田原悠太郎)