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「ワンダーボーイ」が続々 楽しみなJリーグ

鳥栖は松岡(手前右)らアカデミー育ちの若手が、よく動いて走って闘うサッカーを披露している=共同

2021年の明治安田生命J1リーグでイキのいい10代の若者が躍動している。ぜひとも注視してほしいのは、その中に、いずれ世界に羽ばたくであろう逸材があまたいるからである。

相変わらず王者川崎は強く、20年シーズン3位の名古屋もマッシモ・フィッカデンティ監督のイタリア式サッカーがすっかり板についてきた感じ。「ボールとゴールを奪うのがうまい川崎、ゴールを守るうまさの名古屋」。そんな両者を向こうに回し、健闘しているのが3位(4勝2分け、10得点0失点)の鳥栖だ。

若手の起用に積極的なクラブが、経営危機から主力を放出した今季はさらに拍車をかけた。FW石井快征(20)、MF松岡大起(19)、相良竜之介(18)、本田風智(19)、DF中野伸哉(17)、大畑歩夢(19)といったアカデミー(育成組織)育ちの面々が、よく動いて走って闘うサッカーを披露している。

特にセンセーショナルなのが、3月のU-24(24歳以下)アルゼンチン代表との親善試合で、同日本代表に初選出された中野だろう。U-20という代表カテゴリーを飛び越えて、今夏の東京五輪出場を狙える位置についた。西暦でいうと03年8月生まれだから、日本が02年にワールドカップ(W杯)を共催したことを知識でしか知らない世代が台頭してきたわけで、私などは「明治は遠くなりにけり」に似た感慨を覚えてしまう。

19年には当時高校1年の16歳で、ブラジルで行われたU-17W杯の全試合に先発出場した。それを糧に昨季はJ1にデビューし、14試合に出場。DFとして貴重な左利きでチャンスメークもするし、スルーパスも出せる。この春まで高校2年生だったことを思うと「ワンダーボーイ」というしかない。

次から次にタレントを送り出す鳥栖のアカデミー組を見ていると、感心するのはハードなコンタクトを嫌うひ弱な選手が皆無なことだ。自尊心は、教育ではなく、競争で勝ち取るものだと考える私の目からすると、鳥栖の少年たちが醸し出す「ボールに対するハングリー精神」は、練習の段階から相当球際を厳しくやらせないと身につかないものに感じる。プロとして大成するのに必要な、結果への強いこだわりを感じる。 

よく「選手を伸ばすには目先の勝負にこだわってはいけない」という意見を述べる人がいる。確かに、子供のうちから勝利至上主義に走り、何でもかんでも教えて選手を駒のように扱う弊害は大きいが、競争自体は否定されるべきではないだろう。ボールの奪い合いに始まり、練習ではポジションを仲間と争い、試合になれば目の前の相手と競う。そういう小さなものから大きなものまで、すべてに勝ち負けにこだわって一つもおろそかにしない気持ちがないと、ここ一番の大勝負に勝てるはずがない。鳥栖のアカデミー組からは、そういう背筋がしゃんとしたものを感じる。

鳥栖は金監督(右)が選手のことを知り尽くしているのも強み=共同

鳥栖には、金明輝監督が選手のことを知り尽くしている強みもある。11年に鳥栖で現役から退くと、12年からスクールのコーチを皮切りに、U-15、U-18の監督を歴任。トップチームから外国人監督が去ると、そのたびに緊急登板してチームの窮状を救ってきた。そのキャリアからアカデミーにどんな選手がいるか、手に取るように分かっているし、自分の考えを浸透させることもできた。選手の方も監督の「イズム」が分かっているから、トップチームに引き上げられても違和感なく戦える。

20年度の決算で約10億円の債務超過が明らかになった鳥栖だが、成長著しいFW林大地(23)が〝老けて〟見えるくらいの若者たちの躍動を見ていると、家が傾きかけて孝行息子が出るというのを地でいく感じがある。次世代の育成に一貫性を持って投資していたからこそ、生まれた活況だろう。

J3にテゲバジャーロ宮崎が誕生したことで、九州・沖縄の全県下にJクラブが存在するようになった。今、九州地方のサッカー熱が高まっているように感じる。歴史的に見ても幾多の代表選手を輩出してきた土地柄だけに、いつの日か、J1優勝の盾が関門海峡を越えるときがくる気がする。鳥栖はその有力候補。今の勢いからすると、そんな夢さえ持ってしまう。

徳島は宮代ら東京五輪世代が活躍する=共同

先発の平均年齢なら鳥栖より若そうなのは今季J1に昇格した徳島だ。第4節(13日)の福岡戦のそれは23.73歳だった。前線の藤原志龍(20)、宮代大聖(20)、MFの渡井理己(21)、小西雄大(22)は全員が東京五輪世代。

中でも私が注目するのは東京V育ちのボランチ、藤田譲瑠チマ(19)の存在感。ルーズボールを拾う回数、ブロック数(シュートやクロスの跳ね返し)はチームでナンバーワン、つまり球際が強い。19年のU-17W杯で能力の高さを世界に知らしめたが、ボールを奪い返す力、そこから攻撃につなげる力はフランス代表のエンゴロ・カンテ(チェルシー)を想起させる逸材だ。

鹿島の荒木(左)はプロ2年目で早くも攻撃をけん引する=共同

藤田や中野、湘南のDF田中聡(18)、今季プロ2年目で早くも鹿島の攻撃をけん引する荒木遼太郎(19)、すでに海外組のFW若月大和(19、シオン)、久保建英(19、ヘタフェ)は東京の次のパリ五輪世代になる。若月、久保以外の選手も、いつ海外挑戦してもおかしくない金の卵だから、孵化(ふか)する前の姿を目に焼き付けることをお勧めしたい。

欧州チャンピオンズリーグの決勝トーナメント(ベスト16)に残るような選手は、おおむね17歳くらいでプロデビューを飾っているものだ。アンダーエージのW杯を刺激と糧にして、日本も「鉄は熱いうちに打つ」という方向に、少しずつでも確実に進んでいるのは心強い。

(サッカー解説者)

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