スポーツで輝く湾岸の街「有明」始動
オリパラの舞台を歩く

東京都の湾岸エリアは東京五輪・パラリンピックの競技会場が集中している。中でも江東区の有明地区には有明アリーナや有明体操競技場など4つの会場がある。マンションが増え、人口が急増しているこの地区で、2020年は商業施設やホテルなどの大型複合施設も開業した。オリパラをきっかけに開発が進む新しい街を歩いた。

新交通ゆりかもめ豊洲駅から乗車して6分、会場の最寄り駅の一つ、有明テニスの森駅に到着する。その車中から新しい屋内競技施設が2つ見えた。有明アリーナは屋根の中央部がへこんだような形が特徴。バレーボールと車いすバスケットボールが行われる。もう一つの有明体操競技場は体操やボッチャの会場。世界最大級の木製屋根など国産木材をふんだんに使ったことが評価され、「ウッドデザイン賞」の最優秀賞を受賞した。
この駅の近くに8月、住友不動産が開発する大型複合施設「有明ガーデン」が全面開業した。10ヘクタールを超える敷地に、約200店舗が入る商業施設、高層マンション3棟、ホテル、温浴施設などがそろう。家族連れでにぎわう商業施設5階の屋外イベントスペース「水のテラス」からは有明アリーナが見渡せる。

敷地内にある公園「有明ガーデンパーク」の芝生で弁当を広げる中学生の集団がいた。江東区立有明中学校の女子バレーボール部員たちで、他校との練習試合の途中、密を避けるため屋外で休憩していた。2年生のある生徒は五輪について「授業でも取り上げられ、有明の五輪会場などについても調べた」という。「会場がすぐ近くなのでみんな関心がある。チケットが取れた友人もいる」と目を輝かせる。

有明は近年、高層マンションなどの増加により人口が急増。2001年に300人弱だった人口は1万1000人を超えた。有明ガーデンへの地元住民らの期待は大きい。
ガーデンパークで家族とくつろいでいた会社員、竹内裕貴さんは「何もなかった有明に新しい街ができた」と歓迎する。新型コロナウイルスの影響で不透明感の残る五輪開催については「完全な形でやってくれたら良かったけれど、期待している」と明快だ。都心と有明をつなぐ「環二通り(都道環状2号線)」が暫定開業した。10月にプレ運行が始まったバス高速輸送システム「東京BRT」はオリパラの大会以降、有明にもやってくる。竹内さんは「五輪をきっかけに生活の便利さがさらに増す」とみている。

有明ガーデンを統括する住友不動産商業マネジメントの藤勝之営業本部長は「世界から注目される五輪・パラリンピックを通じ、まずは有明という場所を広く知ってもらうこと。そしてここで育つ子どもたちが夢と誇りを持てる街にしていきたい」と力を込める。コロナ禍で4月から順次開業する予定が一部延期となったが、地域との一体感はむしろ強まったという。湾岸にある他施設などとの提携を進め、住民らの利便性向上を図っている。当初見込んだ年間1500万人の来訪者はコロナ禍で遠のいたが、中長期で需要を掘り起こす計画だ。
周囲には自転車BMXやスケートボードが行われる有明アーバンスポーツパーク、テニスと車いすテニスが予定される有明テニスの森もある。東京都は湾岸エリアを「一大スポーツ拠点」とする構想だ。オリパラのレガシー(遺産)が着実に動き始めている。
(神林範亮、冨田龍一)

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