J1残留レース、順位が与える不思議な力(山本昌邦)

11月20日に開幕するサッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会に合わせ、今季のJ1リーグは最終節が11月5日と通常より約1カ月早い。新型コロナウイルスの影響で試合消化に多少のばらつきはあるものの、上位も下位もここからが正念場である。(記録は8月24日現在)
現在首位は勝ち点48の横浜Mだが、私は残り試合が10の横浜Mと11の川崎(勝ち点43の4位)はトップで並んでいるくらいの感じで見ている。横浜Mも川崎も他のタイトル戦はすべて敗れた。ともにリーグ優勝1本に絞れるわけで、壮絶なマッチレースを期待したい。
横浜Mは8月3日のルヴァン杯から18日のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)まで公式戦4連敗中なのが気になる。3連覇の偉業を狙う川崎はCBジェジエウが故障から戻ってきたのが大きい。主力が次々に海外移籍し手薄になった中盤に、故障がちな大島僚太がラストスパートのタイミングで復帰すれば頼もしい。気候が涼しくなれば、前線から激しくボールを奪いにかかる川崎スタイルも全開になると見る。
残留争い(17、18位は自動降格。16位はJ2勢とのプレーオフへ)はいつにも増して混戦模様だ。生き残りのキーワードは「危機感の共有」であり、「フロント力」か。

フロントが先手を打ったのは清水だ。一時は降格圏にあえいだが、平岡宏章監督から6月にブラジルでフラメンゴやボタフォゴを指揮したリカルド監督にチェンジ。夏の移籍市場で乾貴士(C大阪)、北川航也(ラピード・ウィーン)、ピカチュウ(フォルタレーザ)と攻撃のタレントをなりふり構わず補強した。
それが功を奏し、監督交代から4勝3分け3敗と五分以上の数字を残し、11位まで順位を上げてきた。攻撃力が増すことで守備の負担が軽くなり、攻守の歯車がかみ合う好例だろう。

清水に比べると後手の感はあるが、降格圏に沈む他のクラブも監督交代の挙に出た。現在最下位18位の磐田(勝ち点22)は8月13日に浦和に大敗すると、伊藤彰監督の任を解き、渋谷洋樹ヘッドコーチの昇格を発表した。同時に鈴木秀人トップチームマネジメント部長の職を解く荒療治に出た。残り8試合、誰がどう責任を持ち、ジャッジして荒波を乗り越えていくのか、気になるところである。
磐田と同勝ち点ながら得失点差で17位のG大阪も8月14日の清水戦に敗れると、片野坂知宏監督を解任。9日に就任を発表したばかりの松田浩コーチをそのまま監督にスライドさせた。1年目の片野坂監督を信頼し我慢してここまで引っ張ったのだろうが、かつてJ2に落ちたクラブの経験が危険な水位に達したことを知らせたのだろう。

磐田と違ってG大阪は夏のマーケットで活発に動き、鈴木武蔵(ベールスホット)、食野亮太郎(マンチェスター・シティー)、ファンアラーノ(鹿島)と攻撃陣を補強した。このあたりはさすが。代表クラスの選手もいるし、戦力は十分にそろっているから、後は監督と選手が団結して戦うだけである。
降格圏の16位神戸(勝ち点24)は8月22日にACL敗退が決まり、J1残留に専念できるようになったのを福となすしかない。今季は三浦淳寛監督で始まり、暫定も含めプラナグマ、ロティーナ、吉田孝行と指揮官を代えてきた。
一事が万事という感じだが、過去2度のスクランブル登板で神戸のピンチを救ってきた吉田監督になって明るい兆しはある。チームとして「まず裏を狙う」という優先順位が明確になり、裏を狙うから中盤が開いてイニエスタも生きるという流れができつつある。7月2日、監督交代後初戦の鳥栖戦からリーグは4勝1分け2敗。若い選手が抜てきされ、日本代表のFW大迫勇也が本来の動きを取り戻しつつあるのも心強い。
気の毒なのは、リーグ最少得点(25試合で18得点)ながら13位(勝ち点27)とここまで頑張っている福岡だろう。7月下旬からチーム内に新型コロナウイルス陽性者が多数出て、選手をそろえることにも四苦八苦している。

15位湘南(勝ち点26)は山口智監督がいい仕事をしている。選手を育てて、FW町野修斗のように日本代表に呼ばれる選手も出てきた。湘南は自分たちに合った監督の人選がうまく、今年踏ん張れば来年はもっと良くなる気配がある。ここから得点源の町野に対するマークはより一層厳しくなるだろう。そこをどう乗り越えるかはチームの順位に影響する。
14位京都(勝ち点26)は得点に関してFWウタカという切り札がある。残留争いに生き残るにはゴールを奪わないことには話にならない。清水、G大阪が攻撃陣の補強に走ったのも、得点が勝ち点3を生むからだ。
また、ここからは残留ラインより上にいるか下にいるかで景色は全然違ってくる。
例えば、清水のように11位まで順位を上げると、いくつ負けられるか計算できるようになる。通常、残留ラインは勝ち点38-40くらいだから、清水の場合は残り8試合を4勝4敗でいいことになる。「4勝しなければ」ではなくて「4敗できるのか」と考えられる。

順位が降格圏にあると、こんな構えはできない。自分たちより上にチームがいると思うと星を落とす計算は立たず、「残り試合、全部勝つしかない」という切羽詰まった心理状態になる。この重圧は計り知れないものがある。
それが典型的に出るのが「6ポイントマッチ」と呼ばれる、残留を懸けた者同士の直接対決。降格圏にあえぐ下位のチームは「絶対に勝たなければならない」と思う。順位が上のチームは「引き分けでも順位はひっくり返らない」という余裕が持てる。その余裕が戦い方の幅を広げ、相手の焦りを見透かしながら戦うことにつながる。
焦りを見透かされたチームは意気込みが空回りし、往々にして上位チームに狙い撃ちにされる。勝ち点の草刈り場にされる。勝ち点にそれほど差はなくても、順位が与える力というものがサッカーには存在するのである。
(サッカー解説者)
サッカー解説者・山本昌邦氏のコラムです。Jリーグやサッカー日本代表で活躍する選手、指導者について分析、批評しています。