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大谷、本塁打量産の裏側 もっと高く もっと遠くへ

スポーツライター 丹羽政善

18日のタイガース戦で1試合2本塁打を放った大谷=USA TODAY

18日、大リーグオールスター戦のホームランダービー参戦を早々と表明し、ファンを喜ばせたエンゼルスの大谷翔平。その日、2本塁打を放ち、さらにファンを熱狂させている。

あと1本で2018年に放った22本塁打に並ぶが、あの年は104試合、367打席で22本。21年は18日の試合を終え、65試合、262打席で21本。残り92試合なので、このままのペースを維持できるなら、シーズン最後には50本に到達する。

打率1割台。175打席で7本塁打に終わった昨年とはまるで別人だが、打撃面ではどんな変化があったのか。今回は、そこをひもといていきたい。

センターのマイケル・テイラー(ロイヤルズ)は2、3歩下がっただけで、はるか頭上を越えていく打球を見上げた。打った瞬間に本塁打を確信した大谷も、打球がセンター中段に着弾したのを見届けて、ゆっくりと走り出している。8日、大谷がロイヤルズ戦で放った今季17号の推定飛距離は470㌳(約143.2㍍)。4月4日、初めて投打で出場した日に放った451㌳の自己最長をこともなげに更新した。

8日のロイヤルズ戦では自己最長飛距離の本塁打をセンターへ。打球の行方を見届けてから走り出す大谷=共同

この一発はさすがに特別だとしても、今季の本塁打は、打った瞬間にそれと分かる打球が多い。なにより高さが異次元。落ちてこない、という表現がぴったりで、それに伴って飛距離も出る。

覚えている人もいると思うが、1990年6月6日、かつて東京ドームの天井に取り付けられていたスピーカーにラルフ・ブライアント(近鉄)が打球を当て、それが認定本塁打となったことがある。スピーカーの高さは地上約44㍍だったそうだが、大谷が4月21日に放った日米通算100号の頂点の高さは45.4㍍に達した。大谷はこのとき、打球が高く上がりすぎたため入ると思わなかったのか、ほぼ全力でダイヤモンドを一周。それが17.3秒だったと後で話題になったが、本人でさえ、「どうかな」という打球が今年はフェンスを越えていくのである。

実は先日、NHKのBS1で放送されている「ワースポ✕MLB」の番組ディレクターと一緒に、大谷の今年の打撃、特に本塁打量産に焦点を当て、特集を作った。なぜ、こんなに飛ぶのか。どう、スイングが変わったのか。そのときやはり、今年の本塁打は昨年と比べてまるで打球の軌道が異なるという話になり、その比較を試みた。

まずは、昨年と今年の本塁打(18日試合終了時)のデータを整理(表参照)したが、違いは歴然。打球の初速は約2.05㍄(約3.3㌔)の上昇。打球の角度は1.62度上がっていた。他のデータにはこの差がさらに顕著に表れている。

まず平均飛距離は401.57㌳から417.62㌳と、約4.89㍍も伸びた。頂点の高さは84㌳から95.67㌳となり、これは約3.56㍍も高くなっている。そして滞空時間は4.97秒から5.45秒となり、こちらは0.48秒長くなっている。

2015年に大リーグが導入したデータ解析ツール「スタットキャスト」のデータ検索が可能なBaseball Savantは、そうした数値をもとに本塁打の軌跡のCGを提供しているが、それを利用して昨年と今年(18日試合終了時)の本塁打の軌跡を重ね合わせてみた。

(注)Baseball Savantが提供しているCGをもとに筆者が合成。ピンクが2020年の軌跡、青緑が今季の軌跡

20年8月6日、マリナーズ戦で放ったレフトへの本塁打は今季同様、頂点が高く、昨年の中では異質だが、センターから右中間への打球は同じ選手の打球かと見まがうほど。噴水に見立てれば、昨年と今年では、水量も水圧もまるで異なる。

ではなぜ、ここまで劇的に軌跡が変化したのか。

理由の一つとして、19年9月に手術をした左膝の状態が完全に回復した、ということが挙げられる。昨年は左膝に負荷をかけられず、トレーニングも制限された。おのずとバッティングに影響が出た。大谷自身、それを実感した打席がある。

今年4月9月、やや体を泳がされながらも右翼フェンス直撃の二塁打を放ったが、昨年の打撃の状態で、あそこまで飛ばせたか?と試合後に聞かれると、「どうでしょうね」と少し考えてから、「当てるのはもちろんできると思いますけれど、ああいう飛距離を出すっていうのは下(半身)でしっかりと捉えないと難しいので、去年と違う」と説明し、改めて強調した。

「去年やってみて分かりましたけれど、(下半身は)かなり重要なところだなと感じる」

4月9日のブルージェイズ戦で体をやや泳がされながらも右翼フェンス直撃の二塁打を放った大谷=共同

もちろん、膝だけではない。その膝を使った正しい動作があってこそ、最大限のパワーを導ける。

大谷は昨季終了後、科学的なアプローチで知られる米シアトル郊外にあるドライブライン・ベースボール(以下ドライブライン)を訪れた。そこでどんなトレーニングをしたかはほとんど明かされていないが、通常、ドライブラインへ行くと、投手も打者もまず、モーションキャプチャーによる動作解析が行われる。全関節の動きが可視化されるため、過去にケガがあり、それが動作に影響しているなら、それも判明するそうだ。

そうしたフィードバックの後、必要な動作の修正、パフォーマンスを最大化させるための最適なトレーニングプログラムが組まれる。

打撃の場合、彼らがまず重視するのは、動作の順番だ。モーションキャプチャーの簡易版ともいえる「K ベスト」というデバイスでは、センサーが仕込まれたチップを体の4カ所(①骨盤、②胴体、③上腕、④手=左打者の場合は右手)に装着して打撃練習を行うことで、各箇所の始動のタイミングを計測、比較できる。例えば、①→②→③→④の順番――つまり、体の大きな部位から小さな部位へと、正しい順番で動作が行われる場合、最大のエネルギーを生むとのこと。逆に順番が狂えば、力のロスにつながる。 Kベストを使えば、それぞれの始動が把握できる。

次に彼らが意識するのが、打球角度。これは以前も紹介(二刀流大谷、続く快進撃 イチロー以来のMVPも)したように、バレルという長打に必要な要素(打球速度と打球角度の組み合わせ)を解釈する上で重要な指標だが、 理想の打球角度を実現する上で欠かせないのが、コンタクトした後のバットの軌道(アタックアングル)を理解することだという。

これが水平に対してやや上向き、15〜20度ぐらいであれば、必然、同様の打球角度となる。このアタックアングルは、大谷もキャンプで使用し、バットのグリップエンドに装着する「ブラストモーション」というデバイスで計測が可能だ。

15~20度という角度は俗にアッパースイングとみなされるが、投手の球というのは例えば、真っすぐであれば、およそ地面に対して約8度の角度で落ちてくる。向かってくるボールとスイングの軌道が完全に一致するわけではないが、点ではなく、線を意識することで、タイミングを外されてもコンタクトが可能で、しっかり捉えれば、低く、強い打球が飛ぶという。15〜20度では打球角度が低いので、本塁打になる確率は低いものの、大谷自身、「打球を上げようとは正直、思ってない」と話す。

「いい角度で上がることに関していえば、良いフォームで打っていれば、勝手にそういう角度で上がってくれると思っているので」

大谷は今年2月、「基本的には低い打球を打ちたいなと思っている」とも話した。正しい動作(フォーム)と低い打球――それはドライブラインの指導原理でもあるわけだが、大谷の打撃理論と一致していることが分かる。おそらく、偶然ではないのだろう。

ちなみに大谷は2月、低い打球を打つ狙いについて、「やっぱりその方が当たる面積も大きいですし、打球速度的にも速くなって、その分、ヒットになる確率も高くなる」と説明している。当たる面積とはどういうことか?

「(向かってくるボールの)下をたたける位置を長くバットが通っていれば、いい打球を広角に打てる」。この言葉からも、点ではなく、やはり線で捉える彼の意識が裏付けられている。

ところで、昨年と今年の本塁打の軌跡を重ね合わせたCGからは、もう一つ、分かることがある。大谷本来の打球であるセンターから左方向への打球が少ないのである。その点については先日、大谷がこう解説した。

「逆方向にスピンの効いた打球よりかは、芯で捉えた、引っ張った打球の方が飛ぶなっていう印象を受ける。逆方向もそうですし、センター方向に上がりすぎたフライとか、昨年までだったら入っているのかなって思うような打球が入ってないので、そこらへんはボールの影響かなっていうのは感じますね」

今年、大リーグは従来よりも低反発で、約2.8㌘軽いボールに変えた。その影響についてまだ定まった解釈はないが、大谷の言葉は興味深い。改めてデータをたどり、次回以降、検証してみたい。

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