/

重圧と向き合う 五輪代表の不調、限界超え練習?

3位に入った2009年UTMBのスタート直前の筆者

ここのところ国内のマラソンで好記録が続いている。びわ湖毎日マラソンで鈴木健吾選手が日本新記録を樹立、名古屋ウィメンズマラソンでは松田瑞生選手が優勝した。2人とも一昨年の五輪代表を決定するマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で期待されていたものの、残念ながら代表には選ばれなかった。まさにその奮起が実った形。一方で東京五輪のマラソン代表選手が故障などで苦しんでいると聞く。大舞台で必ず結果を出さなければとのプレッシャーから来る、メンタル的な焦りが起因しているのだろうと察する。

4年に1度の五輪選手のプレッシャーとは単純に比較はできないけれど、トレイルランニングの世界では毎年8月のUTMB(ウルトラトレイル・デュ・モンブラン)がオリンピックにあたり、全世界から強豪ランナーがフランス・シャモニーに集結する。私もプレッシャーで心身ともに追い込まれた異常な状態をたびたび経験した。トレーニングの段階から神経が過敏になり、痛くないはずの脚が突然痛んだり、走れることを確認しとにかく安心したいとの自己満足のためだけに設定ペースより速く走ったり。ライバル選手のハードトレーニングをSNSで知り、焦って限界を超えるメニューに取り組んでしまい、それがきっかけで慢性疲労に陥って走れなくなったことも。猛烈なストレスで毎日が地獄にいるようだった。

この大会に向けて例年、1月から練習を開始し、最初のうちは「今年こそは……」と奮い立っている心が、やがて奥底で「とにかく早く終わってほしい」と願うようになる。直前1カ月、1週間ともなると「来月(来週)の今頃は全て結果が出ているのだ」と思うだけで心臓が縮むような緊張に襲われ、消えてしまいたくなる。

ところが不思議なもので、1週間を切り直前になると「もう逃げられない」と覚悟が決まる。「苦しさも含めて自分だけしか味わえない貴重な経験だから、せっかくならそれを楽しもう」と無理にでも思い込み、なんとか乗り越えてきた。

30年ほど前、早大競走部時代の恩師である瀬古利彦さんはある合宿の夜のミーティングでぽつりぽつりと金メダルを期待されてかなわなかった1984年ロサンゼルス五輪のことを語ってくれた。その前のモスクワ五輪を日本はボイコットし、金メダル有力とされながらも参加できなかった。その後の4年間、マラソンで不敗を誇った瀬古さん。自分の思い以上に世間からのすさまじい熱量の期待が寄せられ、どんなに体調が悪くても休めず、結局本調子にはほど遠い状態で出場、「逃げ出したい気持ちだった」とその話を締めくくった。

東京五輪では、マラソン代表が決まりすでに1年半以上がたっている。人生をかけるような集中力は続いても1年程度が限界だろうし、大会開催が危ぶまれている現状も考えると選手は精神的に疲弊していてもおかしくない。代表のみなさん、成功も失敗もあなただけにしかできない貴重な体験、前向きな心を失わずにいてください。

(プロトレイルランナー)

Tokyo Olympic and Paralympic 特設サイトはこちら

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン