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アジアを勝ち抜いた松山はオーガスタの申し子

編集委員 串田孝義

グリーンジャケットを着た松山㊥をはさんでオーガスタナショナルGCのフレッド・リドリー会長㊧とビリー・ペイン名誉会長㊨が記念撮影=ロイター

金屏風ならぬオーガスタの緑一色を背景にしたゴルフのメジャー、マスターズ・トーナメントの公式記者会見場で、米国人記者から「(マスターズ優勝により)あなたは日本で最も偉大なゴルファーになったと思うか」と問われた松山英樹は「それはどうかわからない。ただ、メジャーを最初に勝ったのが自分で、それが日本人にとっての壁だったとすれば、自分はそれを越えた」と、事実をそのままに答えた。これは先人への敬意と気配りの行き届いた発言だった。ホールアウト後、早藤将太キャディーがコースに向かってお辞儀した姿とともに、いかにも日本人らしい態度だったといえるだろう。

毎年のようにマスターズに挑んだ「AON」

日本のテレビ中継で解説していた先人のひとり、中嶋常幸プロは松山優勝の瞬間から、むせび泣いた。初出場の1978年、2日目の13番パー5でクリークに2度つかまり、11オン2パットの13打を打った悲劇の持ち主は通算11回出場で86年の8位が最高。自分たちが打ち破れなかった壁をついに突き崩した後輩の快挙に素直に感動する思いと、自分たちが勝てなかったことで壁をよけいに高く、厚くしてしまった責任をあらためて痛切に感じていたに違いない。

中嶋、尾崎将司(19回出場)、青木功(14回)のAONが毎年のようにマスターズに挑んだ70~80年代は、ゴルフ場の数、クラブなど用品市場の規模といい、急成長の日本のゴルフマーケットが世界トップクラスを誇った時代。マスターズを前にしても、「今年こそ勝ちます」と、五輪で金メダルを期待される柔道選手のような心持ちでのぞんでいたはずだった。

4大メジャーのひとつ、マスターズを主催する開催コースのオーガスタナショナルGCは、ゴルフの総本山のロイヤル・アンド・エンシェント・クラブ(R&A)や全米ゴルフ協会(USGA)とほぼ対等の立場でゴルフというスポーツの世界的な普及と持続性ある発展のために活動している。今でもゴルフ場数では世界2位のゴルフ大国の日本、ひいては巨大人口を抱えるアジアからの優勝者がいなかった状況に業を煮やし、自ら動いた結果が09年、中国で第1回大会が開かれたアジア・パシフィック(太平洋)アマの創設だった。それまで全米アマ、全英アマの優勝者を招待していたマスターズが、優勝者への出場権付与というご褒美を用意してアジアのアマチュア育成にも手を差し伸べた形だ。

アジアの原石発掘、松山が「ロールモデル」

オーガスタナショナルGCのビリー・ペイン会長(当時)は「この大会からマスターズの優勝者が出るのが夢」と常々語り、第2回の10年大会優勝により翌11年のマスターズ切符を得て、ローアマを獲得した松山のことを「アジア太平洋アマという大会の一番の成功例。彼の経験と比例してこの大会はキャリアを積んでいる」と話し、松山をアジアを代表するゴルファーのロールモデルになぞらえた。そして今年、オーガスタは自分たちが発掘したアジアの原石、申し子ともいえる松山のマスターズ初制覇をもって夢を現実にした。

世界有数のゴルフマーケットとはいえ、日本の中だけの競争よりも、レベルは玉石混交としてもより裾野の広いアジアの競争をも勝ち抜いた者に世界で戦う適性を見いだすことは理にかなっている。アジアを勝ち抜いて世界へ、は松山が切り開いた日本のジュニアゴルファーのゴールデンルートとなりつつある。

松山が優勝したマスターズ翌週、日本ツアーの2021年初戦、東建ホームメイトカップは金谷拓実㊧とアマチュアの中島啓太㊨が1打差の優勝争いを演じた=共同

松山の東北福祉大の後輩、金谷拓実は18年に松山以来となるアジア太平洋アマ優勝を果たし、翌19年のマスターズ、全英オープンに出場。コロナ禍で苦労しながら、昨年秋のプロ転向後、早くも国内2勝を挙げ、「3年で欧州ツアーの年間王者をめざす」と大志を抱く。日本勢では松山、金谷に続く3人目のアマチュア世界ランキング1位となった中島啓太(日体大)は、18年インドネシアで開かれたアジア大会の個人金メダリスト。すでに国内ツアーで昨年から出場した3戦連続トップ10入りを果たしている。

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