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脳振盪なら即交代 サッカーのルール改正、即座に

サッカージャーナリスト 大住良之

サッカーでは頭がぶつかることなどで脳震盪を起こすこともある(4日のイングランド・プレミアリーグ、サウサンプトン対リバプール)=AP

日本サッカー協会(JFA)が14日付で通達を出した。ルールを決める機関である国際サッカー評議会(IFAB)がルール第3条「競技者」に関して昨年12月16日に2つの決定を行ったが、その日本語訳を全国の協会などに知らせるものだった。

決定の1は、昨年夏からの「5人交代制」を今年いっぱい続けること。新型コロナウイルスの猛威が続いていることから、当然のことだった。より重要なのは、2つ目である。過去何年間にもわたって、IFABは試合中に起こる脳振盪(しんとう)について議論してきたが、専門家の意見を入れ、規定の交代数を使い切った後でも、脳振盪が起きたときには追加で交代ができるという試行を実施することにしたのだ。ルール改正ではない。改正したらどうなるか、効果を見るための「試行」である。

これまでも、試合中に脳振盪が起こった場合には、選手を動かさず、ピッチ上で3分間の診断をすることになっていたが、今後、IFABと国際サッカー連盟(FIFA)に申請し、公式な実施手順を用い、さらにIFABとFIFAの要求に応じてフィードバックすることを合意した競技会は、次の試行を実施できるとしている。

試行案は2つ。簡単に説明すれば、「A案」は「脳振盪による交代」を各チーム1人認めるというもの。規定の交代数が終わっていても、交代することができ、すでに交代要員がいない場合には交代で退いた選手が出場できるというものである。

そして「B案」は、各チーム2人までの「脳振盪による交代」を認め、これが使われた場合には、相手チームは理由を問わずに同人数の交代枠を追加できるというものである。

脳振盪とは、頭を強く打ったり揺さぶられたりしたときに脳にひずみができ、意識がなくなったり、記憶を失ったりする脳の障害である。1個のボールをめぐって激しく争うサッカーでは、相手選手の頭や膝、肘などとぶつかったとき、近くで蹴られたボールが頭に当たったとき、ゴールポストへの激突、頭への直接的な打撃でなくても、たとえば下あごを蹴られて頭が強く揺らされたときなど、試合中に脳振盪を起こすことがたまにある。場合によっては生命の危険があり、絶対にプレーを続けさせるべきではない。

ところが、瞬間的に意識がなくなっても、たいていはすぐに気がつき、プレーを続けようとする選手が少なくない。かつては、脳振盪を起こしながら最後までプレーを続け、受傷してからの記憶がまったくないと誇らしげに語る選手も少なくなかった。こうした危険なことを続けさせてはならないと、JFAは、脳振盪を起こした選手のプレーを続けさせない、練習への復帰も手順を踏んで行うことを制度化している。

しかしたとえば、試合中、交代枠を使いきってしまった後に脳振盪を起こした選手が退出したら、そのチームは10人に減ってしまう。チームに対する責任感から、プレーを続けようとする選手、それを止められない、あるいは積極的にプレーさせようとするチームや監督が後を絶たないのは、そのためだ。今回のIFABの決定は、そうした状況を回避するためのルール改正に向けての試行ということになる。

イングランド協会カップ3回戦の試合中、頭などの負傷でチェックを受けるロザラム・ユナイテッドの選手(9日)=AP

2019年1月にアラブ首長国連邦(UAE)で行われたアジアカップで恐ろしい場面を見た。

アルアインで行われた準々決勝のUAE対オーストラリア。前回優勝のオーストラリアをホスト国のUAEが1-0とリードして迎えた終盤、UAEのDFファレス・ジュマがペナルティーエリアに送られたボールをヘディングでクリア。しかし競り合ったオーストラリアのFWマシュー・レッキーと頭をぶつけ、両選手とも倒れた。

レッキーは頭を裂傷、呼び入れられたドクターに包帯でグルグル巻きにされて立ち上がったが、ジュマは倒れたまま。ひと目見たチームメートが、ドクターだけでなく救急車を要請するほどあわてた。最終的にドクターが診断し、ようやく担架で運び出されたのは4分後のことだった。

ところがタンカでゴールライ外に出たジュマは、なんとしても最後まで戦うんだという意思を見せる。UAEは、このアクシデントの1分前に3人目の交代で枠を使い切っており、このままでは10人になってしまうからだ。タッチラインまで動き、出るとアピールするジュマ。それをドクターが懸命に止めるが、ついに制止を振り切って入ってしまう。

そしてその直後、オーストラリアが右からロングスロー。ワンバウンドしたボールをジュマは体を反転させてクリアしようとするが、足がもつれ、そのままふらふらと倒れ込んでしまう。「まだやる」と言い張るジュマをチームメートたちがなだめ、なんとか運び出すまでにずいぶん時間がかかってしまった。

幸いにも大事には至らなかったが、けっしてあってはならないことだった。この場合、UAEチームのドクターの判断が、選手本人や監督の意向よりも優先される(ドクターにプレー続行か否かを決定する権限がある)ことがすべての人に理解されていなければならなかった。それに加え、今回のIFAB提案のように、脳振盪が起きたら追加の交代を認めるしかない。

ルールで決められた交代数の増枠、さらには一度退いた選手の再出場など、現行のルールに大きく抵触することだから、IFABが慎重な手続きでこの「試行」を進めようというのは理解できる。しかしこのIFAB決定をそのまま読むなら、試行ができるのは、日本でいえばJリーグなど大きな大会だけということになる。

だが、この「新ルール試行」は、たとえばビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)導入など、サッカーのエンターテインメント化を進めるものとは意味が違う。データのフィードバックを伴う公式な「試行」は行うにしても、グラスルーツや育成年代の試合では、示された両案のような制限など設けず、「脳振盪なら交代枠を問わず即交代」という決めごとを即座に実施すべきだ。生命の安全を守るルール改正を、「試行・フィードバック・検証」が終わるまで待っていいはずがない。

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