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サッカーW杯、飛躍の好機に 歓迎すべき組み合わせ

日本時間の4月2日、サッカー・ワールドカップ(W杯)の組み合わせ抽選(ドロー)が開催国のカタール・ドーハで行われた。その模様は日本にもNHKで生中継され、私は解説者として番組に参加した。そして日本の対戦相手がE組のドイツ、スペインに決まると率直なところ、「悪くないグループだ」という感想を持ったのだった。

チャレンジ精神をかき立てられる

E組の残り1チームは6月の大陸間プレーオフの勝者(コスタリカ対ニュージーランド)である。この4チームの中から決勝トーナメント(ベスト16)に進出できるのは上位2チームだけ。ドイツはW杯優勝4回、スペインは優勝1回の強国であり、「悪くないどころか最悪だろう」とお叱りを受けそうだが、私は心の底から「チャレンジ精神をかき立ててくれる組み合わせだ」と思っている。

確かにベスト16、さらにその先のベスト8にたどり着くことを考えると道は険しい。今回のドローは最新の国際サッカー連盟(FIFA)ランキングに基づいてポット分けがなされ、第2ポットに入れたのは同ランク16位のクロアチアまで。23位の日本は第3ポットになり、第1ポットから選ばれたスペイン(7位)、第2ポットから選ばれたドイツ(12位)と同組になった。第3ポットだと今回のように欧州勢のトップクラス2チームと同居する可能性が出てしまうわけで、あらためてFIFAランキングで上席を確保することの大切さを痛感した面はある。

それでも、11月23日の初戦でドイツとやり、次が27日のコスタリカかニュージーランド、3戦目が12月2日のスペインという戦う順番に妙味を感じる(日付はすべて日本時間)。ドイツ戦とスペイン戦の間に1つゲームを挟めるのは、そこで下克上の流れをつくれる可能性があるということだ。

日本としてはスペイン戦に勝ち点を持って何としても臨みたい。1次リーグの3戦目というのは、いろんな思惑がチームに働くものだ。仮にスペインが連勝して勝ち点6を挙げていれば、3戦目はターンオーバー(選手の大幅な入れ替え)をしてくる可能性もある。スペインが2戦目でドイツと死闘を繰り広げていればなおさらだ。日本が初戦にドイツから勝ち点2を削る、つまり引き分けることができたら、それだけでこのグループの行方は一気に混沌としてくるだろう。

自分の型にとことん固執するスペイン

スペインは欧州の雄ではあるが、そんなに点を取れるチームではない。ペドリ(バルセロナ)のような素晴らしい才能が出てきたが、日本も十分に彼らが織りなすパスワークに対応できるとみている。昨夏の東京五輪準決勝で戦った経験も大きい。延長にもつれこんで最後は0-1で敗れたが、1次リーグの戦いは90分で終わる。

私には監督、コーチとして世界大会でスペインと戦った経験が結構ある。ワールドユースでは1995年、97年、99年と3大会連続で戦った。2001年4月にはコルドバでフル代表と強化試合もした。この試合は0-1で負けたが、その前の月にパリ・サンドニでフランスに0-5で大敗したトルシエ監督が身上の「フラット3」をかなぐり捨て、5バックを採用したら追加タイムに中田浩二のミスパスをきっかけに失点するまで0-0で戦えた。スペースを消せば、これくらいはやれるんだなと実感したものだ。

スペインというチームは、いよいよ崩せないとなったら、恥も外聞もなくパワープレーを仕掛けてくるようなチームではない(18年ロシア大会の日本はこれでベルギーに逆転負けを食らった)。スペインは自分たちのやり方がうまくいっていないと分かっても、とことんそのやり方に固執する。そこに彼らの落とし穴がある。

その点、ドイツの方がどこからでも何からでも点が取れる怖さがある。ただし、ここも4年前のロシア大会で韓国に敗れ、1次リーグ最下位敗退というドイツサッカー史上最悪の結果を残した〝実績〟がある。現代のW杯にもはや「絶対にない」はないわけである。

若手中心のドイツ、カタールの暑さでのプレーは……

ドイツはハイプレスとハイライン、攻守の切り替えの速さを武器とする。しかし、冷涼なドイツの気候でやれていることが中東のカタールでやれるとは限らない。日本戦はナイトゲームではなく、いくらエアコン完備のスタジアムといっても直射日光も浴びるし、時間の経過とともにプレーの強度は落ちて、日本もある程度ボールを持てるようになるだろう。立ち上がりの15分間をしのげば接戦に持ちこめるとみる。

現在の日本代表は遠藤(シュツットガルト)、板倉(シャルケ)、田中(デュッセルドルフ)、原口(ウニオン・ベルリン)、鎌田(アイントラハト・フランクフルト)、浅野(ボーフム)らドイツ・ブンデスリーガでプレーする選手が多い。ドイツの選手とは互いに特長を把握し合っているわけだが、数字上のデータや映像だけでは分からない、実際の強さ、速さを知っている選手が大勢いて、彼らの知見と体感を実際の戦術に落としこめるのは大きいと思う。

これまで代表で積み上げてきた経験値、普段所属しているリーグのレベルの高さなどからして、吉田(サンプドリア)、冨安(アーセナル)、酒井(浦和)、長友(FC東京)らで構成する最終ラインはドイツ、スペインが相手でも「どこからでもかかってこい」というくらいの気持ちでいることだろう。

ドイツやスペインに対して昔のイメージを持ちすぎない方がいいとも正直、思う。スペインは08年の欧州選手権(オーストリアとスイス共催)、10年のW杯南アフリカ大会、12年の欧州選手権(ウクライナとポーランド共催)を連続制覇したころが代表のピークだった。ドイツも14年W杯ブラジル大会を制した後は緩やかに下降し、昨年の欧州選手権(11カ国・地域分散開催)はベスト16止まり。ともに若手に切り替えてチームはまだ成長の途上にある。つまり隙はある。

ドイツ代表というと、チームの背骨を成すバイエルン・ミュンヘンの無双のイメージとダブるけれど、ドイツ代表にバイエルンの得点マシン、ポーランド代表のレバンドフスキはいない。そのバイエルンにしても、今季の欧州チャンピオンズリーグは準々決勝でスペインのビリャレアルに負けた。どんなに強いチームに見えても、勝ち筋は必ずあるものだ。

今回のW杯は登録メンバーが23人から26人に広がる予定だ。日本代表の森保一監督は「1チーム2カテゴリー」を合言葉に、東京五輪代表とフル代表を包含するラージグループを母体にチームづくりを進めてきた。登録枠がこれまでどおり23人のままだったら、普通は、チームのコンセプトを共有するそのラージグループの中からW杯の時期にコンディションのいい者が、本大会の要員として選ばれるのだろう。

日本サッカー史において避けて通れぬ戦い

しかし、枠が3人広がれば、選考にもう少し幅が出る可能性もある。交代要員として出したときにスペシャルな技を持った選手や伸びしろのある若い逸材が加えられることも考えられる。

今年はW杯の前に、23歳以下(U-23)のアジアカップ(ウズベキスタン)やアジア競技大会もある。日本はそこに24年パリ五輪を狙うU-21のチームを送り込むことになっている。そういうタイトルのかかった真剣勝負の場で輝ける選手は力を証明したことになるので抜てきしやすい。そのメンバーから、パリを飛び越して先にカタールの地に立つ選手が出てくる可能性もあるだろう。

繰り返しになるが、今回のW杯のドローについて悲観的になる必要はない。前線にスピード(伊東・ゲンク)やドリブル(三笘・サンジロワーズ)を武器にサイドをえぐれるアタッカーがいるなんてことは、かつてなかったことである。

今回のW杯は世界のトップを知るチャンスの到来でもある。2050年までにW杯優勝を目標に掲げる日本にとって、こういう対戦は避けて通れないもので、W杯の戦いには親善試合の何十倍もの価値があることを思えば、むしろ歓迎すべきことのように思える。ドイツ、スペインのどちらに勝っても、決勝トーナメントに進むことができたら日本サッカーの歴史は変わる。うっすらとでも世界の頂上が見えてくるのだから、腰を引いて戦うことはない。

(サッカー解説者)

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