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大坂なおみ、感受性が強いが故の苦悩 休養に潜むリスク

スポーツコメンテーター フローラン・ダバディ

東京五輪に続き、全米でも早々と姿を消してしまった大坂。しばらく休養するという=USA TODAY

サッカー欧州選手権に始まり、東京五輪、パラリンピックでクライマックスを迎えた「スポーツの夏」は、全米オープンテニスの驚きの結末で幕を閉じた。男子シングルスでは1969年のロッド・レーバー以来、同じ年に四大大会すべてを制覇する年間グランドラムを狙ったノバク・ジョコビッチ(セルビア)が偉業目前で歴史の重圧に押し潰された。

一方、女子シングルスでは世界ランキング150位で臨んだエマ・ラドゥカヌ(英国)が四大大会史上初めて、予選から頂点に駆け上がった。ジョコビッチと対照的な伸び伸びとしたプレーで新たな歴史をつくった18歳のシンデレラは一夜にして世界中のメディアの注目の的となった。物おじしないプレースタイルと、記者会見で見せたにこやかで知的な振る舞いは、思春期特有の怖い物知らずと、英国の上流階級らしい教育の産物だろう。

五輪に続き全米も早々と敗退

同じ頃、大坂なおみ(日清食品)は「日本風」の化粧とルイ・ヴィトンの衣装をまとい、同じニューヨークで開かれたチャリティーファッションショー「メットガラ」に登場した。日本とハイチにルーツを持つ大坂が勝ち上がり、ルーマニアと中国の血を引くラドゥカヌと顔を合わせていたら、人種のるつぼニューヨークにふさわしい決勝になっていたはずだ。しかし残念ながら、大坂は東京五輪に続き、全米でも早々と姿を消してしまった。勝利目前までいきながら、魔物にとりつかれたような逆転負けで。

四大大会で初めて予選から頂点に駆け上がったラドゥカヌ。18歳は一夜にして世界中のメディアの注目の的となった=USA TODAY

ネットフリックスで「Untold:極限のテニスコート」というドキュメントが配信され、話題を呼んでいる。作中に出てくるマーディ・フィッシュは2000から2010年代前半にかけて米国のトップ選手として活躍しながら、「深刻な精神的不安」に悩まされ、キャリアに終止符を打った。悲しくも感動的な作品なので、興味があればぜひ見てほしい。

精神的な問題を告白している大坂にはフィッシュや元女王のマリア・シャラポワが理解を示している。米タイム誌にも取り上げられ、アスリートを巡る「メンタルヘルス」の問題の象徴的存在になりつつある。だが個人的な印象をいうと、フィッシュと大坂では、抱えている問題が違う気がする。

大坂は医学的に「ハイリー・センシティブ・パーソン(HSP)」と呼ばれるタイプなのではないだろうか。HSPとは生まれつき感受性が人一倍強く、敏感な気質を持った人を指す。それゆえ、感情の振れ幅がローラーコースターのように大きくなる。

ジダンとも共通する鋭敏な感覚

芸術やスポーツの分野で卓越した才能に恵まれた人は、こうした気質を併せ持つことが珍しくない。サッカーのジネディーヌ・ジダン(フランス)もそうだ。世界的なスター選手だった彼は非常に内気で、インタビュアーの目を見て話すこともできなかった。しかし人には見えないものが見え、感じられないものが感じられる鋭敏な感覚はピッチに立てば武器になる。サッカー界のピカソだ。

ニューヨークで開かれたチャリティーファッションショー「メットガラ」に登場した大坂(右)=AP

全米の敗戦後、大坂は休養を取り、しばらくテニスから離れたい意向を示した。だが大会期間中、私がWOWOWで共演した元日本ランキング1位の鈴木貴男さんは「長く休みすぎない方がいい」という意見だった。テニスの技術や試合勘よりも、トップレベルのスポーツに求められる極限の緊張感や闘争心を失いかねないというのだ。

コート上の選手は孤独だ。必死に向かってくる相手だけでなく、自分自身とも戦わなければならない。決定打以上にミスが出やすいテニスでは、ネガティブなイメージにも打ち勝たなければならない。自分を信じられなくなり、ブラックホールに入ってしまったら終わりだ。伊達公子さんは「あらゆる点でテニスはとても難しいスポーツ」という。心身ともに準備が整っていなければ、勝利はおぼつかない。

自分はなぜテニスをしているのか

一休みして落ち着いたら、大坂には「自分がなぜテニスをしているのか」を改めて考えてみてほしい。お金のためではないだろう。名誉のためでもないはずだ。

黒人差別に抗議し、社会における多様性の重要性を主張する彼女には、テニスで得た地位や知名度を、より良い社会をつくるために生かしたいという思いがあるのだと思う。それ自体はいい。だがそうした活動は、テニス選手として結果を残し続けることによって実現できる。

彼女にはテニスの試合に勝てば勝つほど、世界を変えるチャンスも広がることを理解してほしい。働くことを辞めない限り、まずは本業が大切なのだ。

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