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WBCを彩ったカリブの熱狂 不運に泣いたプエルトリコ

スポーツライター 杉浦大介

いよいよ大詰めを迎えたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。日本、米国といった本命国がベスト4に残り、劇的な結末に向けて盛り上がりを見せている。ただ、少々残念なのは、ドミニカ共和国、プエルトリコ、ベネズエラというカリブの3強のうちどこも準決勝に残れなかったことだ。

この3チームのゲームでは、今回のメイン会場になったマイアミのローンデポパークに熱狂的な大観衆が集まるのが恒例だった。それだけに、米国以上に〝ホーム〟を感じさせたカリブの強豪国が不在となり、今大会のお祭り感が少々減退した感はやはり否めない。

中でもプエルトリコは不運だった。1次リーグではハイレベルのグループで初戦こそベネズエラに敗れたものの、以降、印象的な強さで3連勝。15日、優勝候補の一角と目されたドミニカ共和国との決戦を5−2で制し、準々決勝進出を決めた時点では、フランシスコ・リンドア(メッツ)、ハビア・バイエス(タイガース)、マーカス・ストローマン(カブス)といった多くのスターを擁するタレント集団がこのまま上位進出を果たすかと思われた。

ところが――。ドミニカ戦の終了直後に起こったことは、今大会の、いやWBCの短い歴史の1ページとなった。勝利後の歓喜の中で、ゲームを締めくくったばかりのプエルトリコの抑えの切り札、エドウィン・ディアス(メッツ)が右足を負傷。自力で歩くこともできず、しばらくは同僚の肩を借りて歩き、最後は車椅子でフィールドを出るという無残なシーンが展開された。

直後、プエルトリコの選手たちは悲痛な表情で、中でもディアスの実弟アレクシス・ディアスは号泣。翌日、今オフにディアスと5年1億200万ドル(約135億円)という長期契約を結んだばかりのニューヨーク・メッツが、守護神は右膝の膝蓋腱(しつがいけん)の断裂により今季のマウンドに立つことが難しくなったことを発表した。

結局、意気消沈したプエルトリコは18日、準々決勝でメキシコに4−5で敗れる。その試合後、アレクシス・ディアスは「(兄と)一緒にWBCでプレーしたかった。僕はウォリアーだけど、彼がここにいられないのはつらかった」と落胆を隠せなかった。

メキシコ戦では七回まで4−2とプエルトリコがリードしながら、七回裏に登板したアレクシスが1死も取れぬままピンチを招き、その後に逆転されて負け投手になってしまう。この流れはプエルトリコと、何よりディアス兄弟にとって残酷すぎた。一時の好ムードを考えれば信じられないような負の連鎖で、優勝も狙えると目された強豪国がWBCを去ることになったのである。

「今回の件でWBCを責めるのはフェアじゃない」

米国代表のマイク・トラウトがそう述べた通り、大会自体に非があったとは思わない。春季キャンプが行われる時期に緊張感に満ちあふれた実戦を行うことに批判の声は出がちだが、100マイルの剛球を普段通りに投げ込んでいたエドウィン・ディアスの投球を見ている限り、体調は万全に見えた。だとすれば、本当にひたすら不運なだけのアクシデント。もちろん抑えの切り札のケガがなければ勝ち進めていたとは限らないのだが、特にドミニカの壁を乗り越えたゲームでのプエルトリコは非常に魅力的なチームに見えた。大会全体の趨勢を変えたかもしれないという意味で、本当に大きな故障だったのだ。

ベースボールに限らず、スポーツのビッグイベントの歴史には様々な幸運、不運のストーリーが刻み込まれている。今回の出来事も1ページとなり、WBCの歴史は連なっていく。特にベースボールに熱い情熱を燃やすプエルトリコのメンバーと、その熱狂的なファンの中で、ディアス兄弟を襲った悪夢は永く語り継がれていくことになるに違いない。

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