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大谷翔平のスライダー、なぜ曲がり幅が大きくなった?

スポーツライター 丹羽政善

6月7日のNHKBS1「ワースポ×MLB」内で、飛ばないと指摘されている今季のボールについて特集が組まれ、その企画に携わった。もともとは、「大谷翔平、本塁打減少は飛ばないボールの影響?」がベースにあり、理由としては、反発係数の変化、ボールの管理方法の変更など、いくつか考えられるものの、番組では縫い目の高さに絞って話を進めた。

というのも、通算本塁打の数が過去最高を記録した2019年のボールと今年のボールを実際に触ったところ、縫い目の高さの違いは疑いようがなく、今年の方が高かったからだ。今年のゲームボールを提供してくれたマイケル・ロレンゼン(エンゼルス)などは、「触っただけで、どっちが今年のボールかすぐに分かる。間違える人なんていない」と苦笑した。

もっともそれは驚くことではなかった。15年に導入したデータ解析ツール「STATCAST」のデータが掲載されている「baseballsavant.mlb.com」のサイト上に16年以降のフォーシームファストボール(以下フォーシーム)の抗力係数(Cd)が掲載されたのは5月4日のこと。それは、先の記事の中でも紹介したが、その数値が高くなっている時点で、縫い目も高くなっているであろうことは、想定できた。基本的に、抗力係数と縫い目の高さは比例するからである。

以下は、15年の後半から本塁打が増えたことを受けて、イリノイ大のアラン・ネイサン名誉教授を中心とするグループが、大リーグ機構の依頼を受けてボールを調べた際に公表したデータである。

nはサンプル数で、青が抗力係数。黄色が縫い目の高さ。15ASとあるのは、15年の球宴前まで。2015Bは15年の球宴後。連動は明らかで、このデータに今年の抗力係数の平均値約0.350を当てはめるなら、縫い目の高さは0.035インチ前後(約0.9ミリ)と考えられ、19年と比べると約0.13ミリ高いと想定できる。

ごくわずかな差ともいえるが、「ワースポ×MLB」の取材でイリノイ州シャンペーンにあるイリノイ大を訪れ、この解釈をネイサン名誉教授に聞くと、「この小さな差が、飛距離において大きな差をもたらす」と解説した。

「これまで、大リーグも公式ボールを作るローリングスも、抗力係数が飛距離にどんな影響をもたらすのか気にしていなかった。そこを考えてボールを作っていなかったんだ。だが、抗力係数が0.01異なるとしよう。ドーム球場など、環境をコントロールできるところであれば、打球初速が100マイルの打球は、飛距離が5フィート(約1.5メートル)違ってくる」

このあたりの話は前回も触れたのでここまでとするが、番組では最後、解説の岩隈久志さん(元マリナーズなど)が、「この高くなった縫い目が、ダルビッシュ有投手や大谷翔平選手のスライダーの曲がり幅が大きくなったことに影響しているかもしれませんね」と話した。

ということで、探ってみた。縫い目の高さが、スライダーに影響している可能性を。

まずは、縫い目が高くなったことと、今年から粘着性の高いロージンバッグが導入されたことが、回転数にどんな変化をもたらしたのか、そのデータから。

大リーグは昨年6月21日から、もともと禁止されていた松やになど粘着性物質の使用を厳しく取り締まるようになった。直後から平均回転数は下がった。フォーシームとスライダーについて10日ごとにリーグ平均を調べてみると、取り締まり後は、50回転ぐらい下がっていた。今年はやや上がったものの、昨季前半並みに戻ったわけではない。

では、大谷のスライダーはどうか? 21年の開幕から21年6月30日(以下、昨季前半)、21年7月1日から21年10月3日(以下昨季後半)、22年開幕から22年6月2日まで(今季)の3期間に分けて調べたが、以下のような結果になった。

昨季前半 2414(分)

昨季後半 2320(分)

今季 2445(分)

リーグ平均とは異なり、今季は、昨季前半の回転数をわずかながら上回っている。滑りにくい、という要素は少なからず反映されているのかもしれない。

では、変化量はどうか? 先ほどと同じ期間に分けて、スライダーがホームベースに到達した時点のプロットを作成してみた。

※ いずれもSTATCASTのデータをもとに筆者が作成

3つの図からは2つのことが分かる。まず、横の変化量が大きくなったのは昨季後半からであるということ。今年もほぼ横の変化量に関しては同様だ。最大で60センチ近い。

2つ目は、今季のスライダーは0よりも下にほとんどボールが達していない。つまり、〝縦スラ〟的な要素が消えた。軌道の変化という意味では、そこに差が見られる。では、その差を生んでいるものは何か? それが縫い目の高さの影響なのか?

図1〜3はそれぞれスライダーの回転方向 が変わったことをも示唆しているが、「baseballsavant.mlb.com」には、それをわかりやすく知るためのこんなデータが公開されている。

まず、図4(2021年)と図5(2022年)は、ともに大谷の手を離れた瞬間(リリース時)のボールの回転方向を示している。

いずれも回転方向は8時〜9時前後でさほど極端な差異はない。では、ホームプレートに達したときの回転方向はどうか? それが図6(2021年)と図7(2022年)である。

※図4〜7はいずれも baseballsavant.mlb.comから

これを見ると、21年の回転方向が9時15分~9時45分程度であるのに対し、22年は10時~10時30分あたり。この違いに軌道が変化した理由を見いだすことができる。

ではなぜ、リリース時とホームプレート到達時の回転方向が変わるのか。実はそれこそが、縫い目の影響である。

となれば、そこで縫い目の高さも影響しているのではないか、と考えられるのだが、変化量を決めるのはそれだけではない。実は、昨年と今年を比べるとリリースポイントが異なるのである。

まずは、昨季前半(図8)と昨季後半(図9)を比較。

これを見るとさほど違いはない。21年前半の平均を数値で確認すると、スライダーのリリースポイントは高さが5.95フィート(1.81メートル)で横が2.13フィート(0.649メートル)。後半は高さが5.93フィート(1.81メートル)で横が2.12フィート(0.646メートル)だった。

では、今年はどうか?

明らかに見た目が違うが、それぞれの平均値の高さが、5.79フィート(1.76メートル)で横が2.43フィート(0.74メートル)。昨季と比べるなら、高さで約5センチ、横で約9センチも変わった。

では、このリリースポイントの差と縫い目、そして縫い目の高さが、どう軌道に影響を及ぼすのか。リリースポイントが変われば、縫い目方向も変わるので、それぞれの影響をどう判別するのか。

ちょっと手に負えなくなってきたので、次回以降、専門家の力を借りることにする。

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