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大谷の「魔球」ジャイロスプリット 9月19日の突然変異

スポーツライター 丹羽政善

今年7月6日の試合後のこと。松坂大輔(西武)の引退が明らかになったことを受け、「印象に残っていることは?」と聞かれた大谷翔平(エンゼルス)は、「ジャイロボールじゃないですかねぇ」と笑いながら答えている。

松坂が大リーグに移籍した2007年、米国では「ダイスケはジャイロボールというミステリアスな球種を操る」と話題になった。すると2月半ば、キャンプを視察するため米アリゾナ州に滞在中で、ジャイロボールの存在を「魔球の正体」という著書に記した手塚一志さんの元に、米メディアからのインタビューリクエストが殺到している。

ジャイロボールは球種というより回転のこと。楕円形のフットボールを投げると螺旋(らせん)回転となるが、野球のボールでもそれは可能で、回転軸が進行方向に一致することが特徴だ。

手塚さんは、ジャイアンツがキャンプを行っているスコッツデールの球場で、「実際に投げてくれないか」と依頼されると、半分を黒く塗ったボールを手にマウンドへ。打撃ケージの裏から撮影された連続写真には、黒い面だけが写っていた。その様子は米紙ニューヨーク・タイムズなどで大きく紹介され、帰国すると手塚さんは、用意されたハイヤーで在京のテレビ局をはしごしたという。当時中学生だった大谷にもあのときの記憶が焼き付いていたのかもしれない。

「まねして投げたりしたのか?」。続けてそう聞かれた大谷は、珍しく記者会見で、声を出して笑った。

「どうなんですかね。僕は投げられると思って、子供の頃、真剣にやってましたけど。ハハハハハ。今はちょっと、僕の実力では難しいなと」

しかし、大谷はジャイロボールを投げている。スプリットではあるけれど。そう指摘すると、「ってことは、ジャイロスプリッターでいいかなと思います。意識しちゃうかも」と、ちゃめっ気をのぞかせた。

ところで、スプリットといっても、回転によって種類は様々である。おそらく、圧倒的に多いのがバックスピン系。続いて、回転軸が地面に対して垂直なサイドスピン系。チェンジアップも同様の回転となるので、大リーグではディスコのミラーボールになぞらえ、「ディスコチェンジ」と呼ばれたりもする。そして圧倒的に希少なのがジャイロ系だ。

落差に関しては、今年前半の最後、投球全体の35%以上がスプリットというエンゼルスのアレックス・コブ(オフにジャイアンツと契約)と話していると、「バックスピンが一番落ちない。一番落ちるのがジャイロ」と解説し、こう補足した。「でも、ジャイロは投げるのが難しいから、サイドスピンのスプリットを安定して投げられればと思っている。ショーヘイのジャイロは、すさまじい落差だ」

大谷のスプリットがジャイロだということを、コブは知っていた。

そのジャイロスプリットも厳密にいえば、フォーシームとツーシームに分かれる。さらにマニアックな話をすると、大谷のジャイロスプリットは9月19日に突然、フォーシームからツーシームに変わった。

では、その2つはどう違うのか? それぞれどんな特徴を持つのか。そこへ話を進める前に、変化の経緯をたどっていきたい。

まずはグラフを見てほしいが、大谷のスプリットの割合は、6月に入って減り、7月以降は1桁になることも少なくなかった。球数そのものも7月19日と8月12日は9球、8月25日はわずか6球である。

その理由については大谷本人に改めて確認したいところだが、一つは長いイニングを投げるためではなかったか。大谷のスプリットは落差が大きいため、どうしても空振りが多くなる。また、見逃されればボールになるケースが多い。打たれない、という点では最大の武器でもあるが、前に飛ばないので、どうしても球数がかさむ。カットボールを球種に加え打たせて取る。力をセーブするため球速より制球を重視。シーズン半ばにスタイルを変え、スプリットは試合終盤まで温存するケースが増えた。

ところが、グラフを見ると、9月19日の試合では、スプリットの割合が51.8%(56球)にアップ。同26日の試合でも31.25%(35球)と高い。スプリットを投げなくなったことよりも、むしろこちらのほうがはるかに奇異に映る。

では9月19日に何があったのか? もちろん大谷は試合後に聞かれたが、核心をぼかした。

「シーズンの目標としては、健康で終わるっていうのが一番。その中で負担のかかる球とかからない球、いろいろありますけど、シーズンの中でトータルとして見たときに全体の球種を抑えるところがある。今日は残り試合数も少ないので、そういう意味で多めには投げました」

スプリットは肩肘に負担がかかるから、というふうにも聞こえるが、スプリットが故障を招きやすい、というエビデンスは知る限りなく、通説であって、決して定説ではない。

しかし、やはり明確な理由があったのである。

シーズン最終日の総括会見。前回のコラムでも紹介したが、大谷は1回を投げきれず、2安打、4四球、7失点で降板した6月30日のヤンキース戦を、モデルチャンジの「ターニングポイント」と位置づけ、「やっぱり打たれないと、変えようと思わなかったりとか、感覚が悪くても抑えられてしまっている状態だと変えづらかったりするので、そういう意味ではいい変えるきっかけになった」と話した上で、こう続けている。

「この間のアストロズ戦もそう」

そのアストロズ戦とは9月10日の試合のこと。大谷はあの試合で珍しく初回からスプリットを多投している。ところが、ファウルにされたり、見逃されたり。一球も空振りを奪うことができなかった。過去、制球が乱れて相手が振らなかったことから空振りを奪えなかったことはあるが、普通の状態で投げて空振りゼロは初めてのこと。四回には死球を与えており、制球に苦しんだ面もあったが、際どい球を見極められるケースもあった。

すると次の先発となった19日のアスレチックス戦では配球パターンが一変し、スプリットの割合が全体の半分以上に。そして、打者がスイングした38球うち18球、47.37%の確率で空振りを奪ったのだった。

ジョー・マドン監督は「握りを変えたようだ」と試合後に明かしたが、大谷自身はそのことを直接的には認めていない。しかしながら、背後からのスローモーション映像を見ると、それは明らか。結果として大谷のジャイロスプリットが、フォーシームからツーシームに変わった。

では、それぞれは軌道においてどんな特徴を持つのか。次回、東京工業大学学術国際情報センターの青木尊之教授らの手も借りながら、データを検証する。また、19日の試合でマスクを被ったマックス・スタッシにも話を聞いたので、彼が試合前に大谷から明かされたこと、彼が感じたそれぞれの違いなどを紹介したい。

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