アルゼンチン36年ぶりV 出し尽くした120分

双方が死力を尽くした120分間を戦ってもなお、勝利の女神が甲乙つけがたいほどの好勝負だった。アルゼンチンが圧倒した前半、フランスが地力を取り戻した後半を経て、延長戦も主役2人のゴールに興奮と熱狂が途切れなかった総力戦。頂上決戦にふさわしい実力者同士だからこそ、PK戦でしか決着をつける方法はなかったのかもしれない。
度肝を抜いたのはアルゼンチンの出足だ。相手より休息が1日長かったこともあり、立ち上がりから攻守で惜しげもなくスプリントを繰り出す。相手の強力3トップを抑え込むには下がってパンチをかわすのではなく、前に出てパンチを打たせないことが肝要。狙いを定めて飛びかかるようなパスカットがフランスの攻撃を寸断した。
攻撃で鍵となったのは、故障明けで4試合ぶりの先発出場となった左ウイングのディマリアだ。相手の裏をかく技巧は健在で、守備に戻ったデンベレを軽くあしらって先制のPKを奪取。さらにチーム2点目も決めてみせたのだから、この34歳がいなければ試合は違う様相になっていただろう。

その白眉といえるゴールの始まりはFWアルバレスの猛烈なプレス。相手のミスキックを誘うと、SBモリナから滑らかにボールがつながる。左足の早業の2タッチでパスをつないだメッシを挟み、仕上げのディマリアまで皆が1タッチでボールをさばいた技術と、パスと同時にダッシュして2度関わったマカリテルの機動力が合わさった見事な一撃だった。
王者フランスを後半の半ばまでシュート0本に抑え込むというサッカーがあまりにも完璧だったからこそ、その後の失速は必然だったともいえる。高出力のサッカーがさすがに最後まで続くはずはなく、ディマリアがピッチを退くと一転して劣勢に。足が止まり、ガードを固めるしかなくなった守備陣にエムバペの脅威を止めるのは困難だった。

追いつかれ、延長に入っても盛り返す気配はなかったが、チームの苦境を救うのはやはりメッシだった。チームメート以上に消耗は大きいかと見えたが、1本のロングボールからカウンターで突如として牙をむき、La・マルティネスのシュートのはね返りを右足で押し込んだ。
PK戦でフランスのキックを狂わせたのは、なりふり構わず相手に重圧をかけて警告まで受けたGKのE・マルティネスの執念と、アルゼンチンサポーターの大声援だろう。ゴール裏だけでなく、スタジアム全体から響き渡る重低音のブーイングは効果絶大だった。

マラドーナによって成し遂げられた優勝から36年。スカロニ監督は「国民、ファンのためにプレーした。我々は王者にふさわしい」。待ちに待った歓喜に、メッシをはじめとした選手とサポーターが一体となった歌声はいつまでもやまなかった。
(ルサイル=本池英人)
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