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千両役者オグリキャップ カセット・映画に残る名馬

以前、この欄で書いたアニメ(ゲーム)「ウマ娘 プリティーダービー」がえらいことになっている。ここまで大きなブームになるとは正直、思いもしなかった。今回は「ウマ娘」について書かないが、大ヒットを契機に、かつての名馬たちにスポットが当たっている。

オグリキャップのレースを収録したカセットのジャケット

引退した名馬への寄付金が増えたというニュースがあった。間違いなく「ウマ娘」の好影響と思う。今回はアニメにも登場するオグリキャップについて、独断的な角度から触れてみたい。アニメではさほど目立つ取り上げられ方でないものの、オグリキャップは希代のアイドルホースだった。当時のフィーバーには、後のディープインパクトとは違う、独特の雰囲気があった。1970年代半ばのハイセイコーブームを直接、体感したわけではないが、それに近いものがあったと思う。

今聞いても心震える実況テープ

今から約30年前、ラジオNIKKEI(当時はラジオたんぱ)では、毎年年明けに前年の主要な重賞競走のレース実況を収録した「カセットテープ」を販売していた。ネットもない時代、入社したばかりの私にとっては貴重な教材でもあった。当時の大先輩に聞けば、オグリキャップをきっかけにした競馬ブームにも乗って、とにかくよく売れたらしい。他局も同様のカセットテープを発売して売れていたという。中には両方の同じレースを聴き比べて、違いを分析したマニアもいたと聞く。

それに味をしめたわけではないだろうが、ラジオたんぱでは名馬全集のカセット版も制作していた。多くの名馬全集の中には、当然ながらオグリキャップもあった。実はその中に、私の実況が集録されているのだ。まだ駆け出しの身で、中央のレースはもちろん、当時、放送していた大井競馬場のナイターの実況もしていなかった私である。担当したのは地方時代のレース。それもすべてではなく、秋風ジュニア、中京盃(はい)、ゴールドジュニアという東海地区の3競走だった。

映像を見ながらしゃべったから、厳密にいえば「実況」ではない。何度も映像を見て、できる限りリアルに近づけたつもりだったが、先日、本当に久しぶりに聴いてみると……。一言で「黒歴史」だ。周囲にこのカセットを持っている人がいないことを心から願いたい。ただ、同じカセットに収録されたラストラン、90年の有馬記念の白川次郎アナウンサーの実況は、今聴いても心が震えるのを感じる。

名馬全集の中のオグリキャップのカセット

当時は様々な放送局がオグリキャップの動向を追いかけ、関連番組を制作した。私も番組があると手あたり次第に録画して保存していたのだが、昨年来のコロナ禍で在宅生活が続く中、家人から「断捨離」を勧められ、一部を除いてVHSテープを大量に処分した。どうしても保存しておきたかった番組は、DVDにダビングして保存することにした。うち1本はTBS系列で放送された「拝啓オグリキャップ様」というドラマ。当時、日本中央競馬会(JRA)の全面協力の下で撮影され、武豊騎手も友情出演で出演者のリストに名を連ねていた。「協力 ラジオたんぱ」のクレジットがあったことも付け加えておこう。

ストーリーといえば、地方出身ながら、中央でスーパースターに上り詰めたオグリキャップに魅せられた女性記者(配役は賀来千香子さん)を中心に展開するドラマだ。クライマックスは当然、90年の有馬記念での大団円。シンプルながら、あのラストランがあったからこそ成立したドラマだった。競馬ファンならおなじみの栗東や美浦のトレーニングセンターも舞台となり、調教タイムを計測する場面などがリアルに再現されていた。

ラストランを彩ったビートルズ

もう一つは引退直後に放送された「ギミア・ぶれいく」だった。これもTBS系で、89年10月から3年間放送された2時間枠の今でいうバラエティー番組だ。ここでも相当な時間を割いてオグリキャップの特集を組んでいた。司会が書斎派の競馬評論家として活躍された故大橋巨泉氏とあって、つくりはやや硬派だった。内容はレース映像が中心で、オグリキャップの歩みと馬主、厩舎関係者、生産者の姿も取材した見ごたえ十分の力作だった。ラストランを勝った瞬間の何人もの関係者の表情が収められており、一体、カメラクルーを何組出していたのか、と思ったほど。当時の景気の良さもうかがわれた。

もう一つ印象的だったのが、使われた2曲のBGMである。5歳秋に負け続けたオグリキャップがラストランを迎えた有馬記念のパドックで、ビートルズの「フール・オン・ザ・ヒル」が流れた。有馬記念を走り終えた後、厩舎に戻る場面では、カーペンターズの「スーパースター」。ともに流れにぴったりはまって心に響く。それもこれもあの劇的な有馬記念があってこそ。オグリキャップはまさしく千両役者だった。

綾小路きみまろさんではないが「あれから30年!」。馬のレベルは間違いなく向上した。関係者のレース選択も、馬の距離適性に合わせて細分化された。同一オーナーの使い分けも目立ってきている。オグリキャップのようなドラマチックな競走生活は、日本人が大好きな浪花節的展開であるが、今後は起こり難いのだろう。将来、日本の競馬で、映画の題材になるような馬が出るとしたら、一体どんな活躍をするのか。そういう馬の登場を期待するのも難しいかもしれない。何しろ、米国でヒットした映画「シービスケット」も30年代の話だったのだから。

(ラジオNIKKEIアナウンサー 檜川彰人)

各アナウンサーが出演、ラジオNIKKEIの競馬番組はこちらでチェック! http://www.radionikkei.jp/keibaradio2/

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