ラグビー日本代表・太田コーチ、強豪と戦う体の土台作る
W杯へ一体感醸成にも注力

今秋のワールドカップ(W杯)フランス大会に臨むラグビー日本代表で、体づくりを担当するのが太田千尋ストレングス・アンド・コンディショニング(S&C)コーチだ。様々なデータを活用しながら強豪国と戦うための土台を作り上げている。選手同士の「絆」を強くする大役も担う。
日本代表には体づくりで4つの指標がある。速いテンポでの試合運びが生命線となるチームにとって、最も重要な数字がボール・イン・プレー。試合中にボールが動いていた時間のことで、ラインアウトや反則などで試合が途切れると短くなる。
2つ目は各選手が急激な加速をした回数で、全地球測位システム(GPS)で計測する。3つ目は急減速や接触プレーなど加速以外も含む高強度の動きの総数。4つ目は選手がラックから立ち上がって動き出す際の速度が相手より速かった割合だ。
W杯後、日本代表の障害となったのが新型コロナウイルス禍だった。2年弱、国際試合から遠ざかった。コンタクトスポーツにとっては致命的だ。太田コーチは上役のアンドリュー・ベードモアコーチと話し合いながら、国内の各チームを巡回してコンディションの維持に努めてきた。
データに基づいた猛練習も課してきた。練習量を示す数値に「RPE(主観的運動強度)ユニット」がある。練習の厳しさを選手が10段階で評価した数字に実施時間を掛けたものだ。ラグビーでは1週間の合計が5000に達すればかなりの強度だが、昨年は1万に近いレベルで鍛えた。
成果は出ている。4つの指標について「19年W杯からメンバーが変わったけど、同程度の数値が出ている」と太田コーチ。一方で課題も残る。
「どの相手にも一貫してこの数字を出し続けることが大事。(昨秋完敗した)イングランドのようにフィジカルの強い相手にもできるようにならないと。コリジョン(衝突)のレベルを高めることが必要。ウエートトレーニングなどで全般的な体力を上げ、そこにラグビーのスキルもどう組み込むか」。W杯までに一段上のコンタクトプレーの強度を身につけたいと語る。
太田コーチのもう1つの役割がチーム文化の構築だ。日本代表は全選手を4つのミニチームに分割。活動期間中は毎日のようにゲームやコンテストを行い、チームごとに年間の総合ポイントを競う。楽しみながらお互いを知り、チームの一体感を高める狙いがある。
メニューや実施のタイミングを考えるのが太田コーチの仕事。各週の初めにジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチと擦り合わせながら計画をつくる。内容は多種多様。体力トレーニングのスコアを競うこともあれば、白星を挙げた後に「勝ってかぶとの緒を締める」にちなんで緒を締める競争をしたことも。その数は昨秋の2カ月弱の活動期間だけで100近く。17年からメニューづくりを担うとあって「(本業の)S&Cの仕事よりも大変」と笑う。
「19年W杯のレベルを超えたい」と太田コーチは話す。9月開幕のW杯フランス大会は前回と違うアウェーでの戦い。積み上げてきた心身のたくましさがより試される。(谷口誠)